【思わぬ大金を得た男の日記】 16話 「だいたいこんな感じ」 (第1部完結編)
朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
まだ外は薄暗い。
隣では、妻が同じ向きで眠っている。
起こさないように、静かに布団を抜ける。
キッチンに立つ。コーヒーを淹れる。
水の量を、迷わず決める。
昨日のことを思い出そうとして、やめた。
思い出すほどの出来事でもない。
公園に行って、
弁当を食べて、帰ってきただけだ。
子どもは、まだ寝ている。
ランドセルは、いつもの場所に置いてある。
靴下は、きれいなままだ。
シャツに腕を通す。
ボタンを留めながら、
自分がどこか変わったかどうかを考えて、
すぐに意味がないと思った。
変わったとしても、
自分でわかる種類のものじゃない。
朝食の準備をしていると、
妻が起きてきた。
「今日は、早いね」
それだけだった。
理由も、評価も、続きもない。
「うん」
とだけ答える。
それで会話は終わった。
子どもが起きてきて、
いつものように数分だけ不機嫌で、
いつものように朝が進む。
出かける前、
財布の中を確認しようとして、やめた。
必要なら、その時に出せばいい。
そう思ったことに、特別な感情はなかった。
玄関を出る。
空気は、昨日と同じだ。
少し冷たくて、
どこへでも続いていく感じがする。
駅まで歩く。
タクシーを呼ぶほどでもない距離だ。
かといって、急ぐ理由もない。
信号で立ち止まる。
前の人の背中を見ながら、
自分の立ち位置を測る癖が、
いつの間にか薄れていることに気づく。
電車が来る。
乗る。
揺れる。
窓に映る自分の顔は、昨日と変わらない。
少し疲れていて、
特別な表情はしていない。
それでも、
この生活は、しばらく続けられそうだと思った。
理由はない。
確信もない。
ただ、そう思った。
改札を抜ける。
人の流れに乗る。
吹く風は、変わらない。
※後書き(一旦)
読んでいただき、ありがとうございました。
特別なことは、何も起きていません。
生活は、だいたいこんな感じで続いています。
