【バイト】時給550円のヒーロー《再掲載》
大学生の頃、一番長く続いたアルバイトの一つがコンビニだった。
もともとは酒屋だった店がコンビニに変わったところで、当時はかなり景気が良かったらしい。
昔からの酒屋のお得意さんがいて、宴会用のビールやお酒の配達もある。その上にコンビニの売り上げが加わる。
忙しかったけれど、よく儲かっていたそうだ。
僕が働き始めた頃は、まだPOSレジが導入される前だった。
今みたいにバーコードをピッと通すのではない。
商品に貼られた値札を見て、一つずつ手打ちで入力する。
今の人が見たら驚くかもしれない。
暇な時間も結構あった。
レジの横にはアイスクリームのショーケースがあって、その上に雑誌を置いて立ち読みする。
だから暇な時は、みんなそこで漫画や雑誌を読んでいた。
今思えば、かなりゆるい時代だった。
その店は働きやすかった。
奥さんが時々まかないを作ってくれたし、賞味期限が近いお弁当を「食べていいよ」とくれることもあった。
半年に一回くらいだっただろうか。
ご主人と奥さんがバイト全員を連れて食事に行ってくれた。
焼肉だったり、居酒屋だったり。
その後カラオケまで連れて行ってくれる。
どうやって店を回していたのかと思ったら、大学生だった息子さん二人が店番をしていた。
今考えると、ずいぶんお金をかけてくれていたと思う。
そんな店だった。
そして、なぜか僕は優秀なアルバイト扱いされていた。
理由は一つ。
レジが異常に速かった。
自分で言うのもなんだが、本当に速かった。
たぶん他の人の1.5倍から2倍くらいは速かったと思う。
なぜ速かったのか。
商品の値段を覚えていたからだ。
お客さんが買い物かごを持ってレジへ向かってくる。
普通なら、かごを置いてから商品を見て入力する。
でも僕は違った。
かごの中身を見た瞬間に値段が頭に浮かぶ。
だからお客さんがかごを置く前からレジ入力が始まる。
しかもレジの数字は見なくても打てた。
今で言うタッチタイピングみたいなものだ。
商品を見ながら、入力し続ける。
気がつけば会計が終わっている。
そんな感じだった。
金曜日の夜は特に忙しかった。
仕事帰りのお客さんがどっと来る。
普通ならレジに行列ができる時間帯だ。
でも僕がレジに入ると、なぜか行列ができない。
それがだんだん店の中でネタになった。
「あんたがレジ入ったら列できへんな。」
そんなことを言われていた。
もちろん大げさだ。
でも少しだけ誇らしかった。
大学生なんて、まだ何者でもない。
社会人でもないし、特別な資格があるわけでもない。
そんな時代に、
「これだけは得意や。」
と思えるものがあった。
それがコンビニのレジだった。
時給は550円。
今の感覚で考えれば驚くほど安い。
それでもあの頃の僕にとっては十分だった。
そして何より楽しかった。
時給550円。
コンビニのレジ係。
だけど金曜の夜だけは、少しだけヒーローだった気がする。
