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【Back to the 過去】1992「 プロローグ」

夜十時を過ぎたころ。

駅前の路地をまっすぐ進んだところにある居酒屋「ちょくちょく」は、今日もゆるやかな時間が流れていた。

「いらっしゃい。あ、先生、お疲れさまです!」

カウンターの向こうで笑ったのは、店主のちょくさん。
かつてわたしが塾で講師をしていたときの最初の生徒だった。
今はこの店を切り盛りしている。

「お疲れ」

わたしはいつもの席に腰を下ろし、日本酒をひと口飲んだ。

「今日はなんか、難しい顔してますね」

「まあな」

少し間を置いて、わたしは苦笑いした。

「最近、若かった頃のことをよく思い出すんだ」

「いつごろのことですか」

わたしは盃を見つめながら答えた。

「二十二歳の頃。塾に就職したばかりの頃だ」

「懐かしかったですか?」

少しだけ沈黙が流れた。

「いや」

わたしは苦笑した。

「懐かしいより、恥ずかしかった」

「あんなに青かったのかって、自分で自分を見ていられなかったよ」

ちょくさんは笑いながら首をかしげる。

「でも、ちょっと見てみたいですね。若い頃の山口先生」

わたしは日本酒を飲み干し、小さく息をついた。

「俺も最初はそう思った。でもな……」

「リアルに思い出すと、けっこう生々しい」

店の時計が、静かに時を刻む。

「もし興味があるなら、少し話そうか」

わたしはそう言って笑った。

「一九九二年三月。二十二歳の俺が、塾講師になった最初の春を」

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