Attitude
あぁ、どうか、いつか、僕の我儘が終わるまで。
深夜、彼女は部屋で一人、ノートに歌詞を書いていた。ペンを走らせながら、何度も消して、また書く。
どうにか届くように、届くようにと綴る。
誰に届けたいのだろう。聴いてくれる人に?それとも、自分自身に?
でもやっぱり100は無理。ちょっと「あむり」で終わり。
完璧な歌なんて書けない。80点くらいで終わってしまう。「あむり」—曖昧な終わり方。でも、それでいい。
「弱い人ばっか居ます」
彼女は呟いた。
この世は弱い人ばっか居ます。そんなとこだけでも、何処かに響けば良いなと思っています。
みんな、強いふりをしている。でも、本当はみんな弱い。そのことを、歌にしたい。
まずメロディーに乗せる愛を探しながら、阿呆みたいに今日もね、何かを信じて心躍らすのが、A.t.Ti.Tude。
彼女のAttitude。生き方。姿勢。
私のA.t.Ti.Tude。キャッチーなメロディーに隠れるは、そう、偶像。
キャッチーな曲を作る。でも、その裏には、本当の自分を隠している。偶像—アイドルとしての自分と、本当の自分。
翌日、レコーディングスタジオ。
「もう一回、お願いします」
プロデューサーが言った。
「はい」
彼女は何度も同じフレーズを歌った。完璧を求められる。でも、完璧なんて出来ない。
どうにか眠れる様に、眠れる様に目を瞑る。ただ白馬に跨る僕。似合わぬ僕。でも満悦。
夜、彼女は眠れなかった。自分は白馬の王子様みたいな存在になろうとしている。でも、似合わない。それでも、満足している。矛盾している。
「腐ってなんかは居ない」
彼女は自分に言い聞かせた。
この世は腐ってなんかは居ない。そんなことだけでも、何処かで報われた気がして過ごせています。
世界は腐っていない。信じたい。そう信じることで、少し楽になる。
益々生きにくい日々慣れれず削りながら、真面目にも今日もね、明日を信じて歯を食いしばるのが、A.t.Ti.Tude。
生きにくい。慣れない。でも、削られながらも、真面目に生きる。歯を食いしばって。それが、彼女の姿勢。
あなたはアーティスト中毒。産み落とした子達は、私のそう、心臓。
彼女は音楽中毒だった。作った曲たちは、彼女の心臓。命そのもの。
ある日、ファンミーティングがあった。
一人のファンが言った。
「あなたの歌に救われました」
「ありがとうございます」
「弱い人ばっか、っていう歌詞。私のことだって思いました」
彼女は涙が出そうになった。
「私もです。私も弱い人の一人です」
「え?」
「みんな弱いんです。でも、それでいいんだと思います」
ファンは泣いた。彼女も泣いた。
夢から覚めて魔法はね、いつか解けるの。
この夢のような日々も、いつかは終わる。魔法は解ける。
しがみ付く事なく、誰かとね、愛し愛されて死にたいの。
永遠にしがみつかない。ただ、誰かと愛し合って、そして死にたい。
エゴイズム、軽快なリズム。エゴイズム、ご機嫌取らずに済む。
自分勝手でいい。自分の音楽を作る。誰かのご機嫌を取らなくていい。
パシフィズム、リベラリズム。ペシミズム、ヒューマニズム。
平和主義、自由主義、悲観主義、人間主義。色々な「主義」。でも、どれも完璧じゃない。
太陽が不意に亡くなって、独りぼっちになったなら貴方を追う。
もし、大切な人がいなくなったら。一人になったら。その人を追いかける。
数ヶ月後、彼女は体調を崩した。
「少し休んだ方がいい」
医者は言った。
「でも、仕事が」
「あなたの身体が一番大切です」
休養期間。彼女は故郷に帰った。
実家で、母が言った。
「無理してない?」
「してる。でも、これが私のA.t.Ti.Tudeだから」
「A.t.Ti.Tude?」
「姿勢。生き方」
母は微笑んだ。
「あなたらしいわね」
部屋で、彼女は昔のノートを見つけた。中学生の時に書いた歌詞。
「弱い人ばっか居ます。この世は弱い人ばっか居ます」
昔から、同じことを思っていた。
平気なふりをして隠れてるわ、きっと。
みんな、平気なふりをしている。本当は弱いのに。
「腐ってなんかは居ない。この世は腐ってなんかは居ない」
そう信じたい。
どうかそんな歌を歌わせてよ。ずっと。
世界は腐っていない。そんな歌を、ずっと歌い続けたい。
東京に戻って、彼女は新曲を書いた。
「これ、聴いてください」
スタッフに聴かせた。
「いい曲ですね」
「ありがとうございます」
「この歌詞、『書き綴られた歌は私のそう、遺言』って」
「はい。私の遺言です」
「重いですね」
「でも、本当です」
書き綴られた歌は、私のそう、遺言。
彼女が死んだ後、残るのは歌だけ。それが、彼女の遺言。
ライブの日。
ステージに立つ。
「この曲を聴いてください」
新曲を歌った。
「弱い人ばっか居ます。この世は弱い人ばっか居ます」
観客が頷いている。
「腐ってなんかは居ない。この世は腐ってなんかは居ない」
涙を流している人がいる。
歌い終わって、彼女は言った。
「みんな、弱くていいんです。私も弱いです。でも、世界は腐っていません。一緒に、信じましょう」
大きな拍手。
あぁ、どうか、いつか、僕の我儘が終わるまで。
彼女の我儘は、まだ終わらない。
どうにか届くように、届くようにと綴る。
歌を通して、誰かに届けたい。
阿呆みたいに今日もね、何かを信じて心躍らすのが、A.t.Ti.Tude。
馬鹿みたいに、何かを信じる。それが、彼女の姿勢。
私のA.t.Ti.Tude。
これが、私の生き方。
ステージを降りて、彼女は空を見上げた。
星が見えた。
書き綴られた歌は、私のそう、遺言。
いつか死んでも、歌は残る。
それが、彼女の遺言だった。
