familie
「君に見せたい景色がある」
僕は彼女にそう告げた。春の午後、僕たちは街の喧騒から少し離れた丘の上に立っていた。眼下には僕が生まれ育った街が広がり、遠くには海が光っている。僕の「好き」を、どう思ってくれるだろう。この街も、この景色も、そして君も。全部が僕の「好き」なんだ。
君にあげたい、全てがある。言い過ぎな気もするけど、本当なんだ。だから、どうか、どうか、その瞬きの側に居させてほしい。君が目を開けて世界を見るその瞬間に、僕がいることを許してほしい。
時代の車輪は容赦なく回り続ける。僕らはその燃料となり、世界を乗せてゆく。気づけば、ただ生きることに必死で、大切なものを見失いそうになる。でも、僕は考える。どこまでが、ただ愛と呼べるんだろう。僕に運ばれる街、この毎日の中で出会う人々、すれ違う風景。世界は知るんだろうか、僕がどれほど君を想っているかを。
どこからか、また始まるはヒストリー。僕たちの物語は、ありふれていて、特別で、何度も繰り返されてきたもので、でも僕たちだけのものだ。感触は褪せてしまうかもしれない。時が経てば、あの日君が笑った表情も、握った手の温もりも、曖昧になってしまうかもしれない。でも、確かなメモリアルがある。温かな大事なモノ。唯一のファミーリエ。それは色褪せない。
「僕に見せたい景色がある」
君はそう言って微笑んだ。僕は君の横顔を見つめる。いつか自分を認めてあげられるかな、と君は小さく呟いた。君はいつも自分に厳しい。完璧を求めすぎる。でも僕は知っている。君がどれほど優しくて、強くて、美しいかを。
いつの間にか、全てじゃなく、譲れないところが増えてゆく。僕たちは大人になり、守るべきものが増え、失いたくないものが明確になっていく。でもね、と君は言う。どうかしてんじゃないかと思う、恋をする日も来る。こんなに誰かを想うなんて、馬鹿みたいだって。でも僕は思う。それでいいんだって。
時代の車輪に、いつしか一部となり、呑まれてゆく。僕たちは社会の歯車になり、毎日を過ごしている。これからだ、さぁ人になりましょう。まだまだ未熟で、完璧じゃない僕たちが、少しずつ成長していく。終わらない旅路に膝をつくこともある。疲れて、挫けそうになることもある。たらい回しってやつでしょう。問題は次から次へと湧いてきて、解決したと思えばまた新しい困難が現れる。
心にも無いような言葉でいがみ合えど、それでも僕たちは一緒にいる。解けない魔法と現実。理想と現実の狭間で揺れ動きながらも、いつかのメモリアルが僕たちを支える。ささやかで慣れがある場所。それは僕たちが帰れる場所で、ほんとはユーフォリア。至福の時。
あの日の後部座席の窓から、見えた、見えた。子どもの頃、家族と車で出かけた時に見た景色。何気ない日常の一コマが、今になって輝いて見える。あの時は気づかなかった。それがどれほど大切な時間だったかを。
どこまでが、ただ愛と呼べんだろう。風に運ばれる度に、ひとりを知るんだろう。君と離れている時間が、逆に君の存在の大きさを教えてくれる。一人になることで、君がどれほど大切かを実感する。
ここまでが、ただ序章と呼べんだろう。僕たちの物語はまだ始まったばかりだ。終わらせ方は僕次第。どんな結末を迎えるかは、僕の選択にかかっている。泣けるエンドを。感動的な結末を、僕は望んでいる。
どこからか、また呼ばれるは僕と君。世界のどこかから、未来から、過去から、僕たちは呼ばれている。感情は忘れないでしょ?あの日感じた喜びも、悲しみも、怒りも、愛も。全部が僕たちを形作っている。確かなメモリアル。心が帰れる場所。愛しのファミーリエ。
僕は君の手を取った。君は驚いたように僕を見る。
「一緒に帰ろう」
僕はそう言った。
「どこへ?」
君が尋ねる。
「僕たちの場所へ」
丘を降りて、街へと続く道を歩き始める。夕日が僕たちの影を長く伸ばしている。時代の車輪は回り続けるけれど、僕たちはこの瞬間を生きている。君と僕のヒストリーは、今日も続いている。感触は褪せても、記憶は残る。温かな大事なモノ、唯一のファミーリエ。それは家族であり、君であり、この場所であり、この時間なんだ。
心が帰れる場所。それはどこか遠くにあるんじゃない。君の隣にある。君の笑顔の中にある。僕たちが共に過ごす時間の中にある。ささやかで、慣れがあって、でも本当はユーフォリア。何気ない日常が、実は最高の幸せだったんだ。
「ねえ」
君が言う。
「何?」
「私も、あなたに見せたい景色があるの」
君は僕を見上げて微笑む。
「いつか、一緒に見に行こう」
僕は頷いた。いつかじゃなくて、今でもいい。明日でもいい。大切なのは、君と一緒にいることだから。
後部座席の窓から見えたあの景色は、今も僕の中に生きている。そして今、僕は君という新しい景色を見つけた。どこまでが愛と呼べるのか、まだ分からない。でもこれからだ。さぁ人になりましょう。君と僕で、二人で一つの物語を紡いでいこう。
終わらない旅路は続く。膝をつくこともあるだろう。心にも無いような言葉で傷つけ合うこともあるだろう。でも、解けない魔法と現実の中で、僕たちは確かなメモリアルを作っていく。感情は忘れない。この想いは、いつまでも僕の中に残る。
愛しのファミーリエ。それは君だ。君が僕の家族で、僕の居場所で、僕の全てだ。どこからか呼ばれるは僕と君。世界中のどこにいても、僕たちは繋がっている。
街の灯りが灯り始めた。僕たちは手を繋いで歩き続ける。これが序章なら、これからどんな物語が待っているんだろう。泣けるエンドを迎えるのか、それとも笑顔で終われるのか。分からない。でも、終わらせ方は僕次第。僕たち次第。
君に見せたい景色がある。僕に見せたい景色がある。二人で見る景色がある。それは単なる風景じゃない。僕たちの人生そのものなんだ。時代の車輪に呑まれながらも、僕らは燃料となり、世界を動かしていく。ひとりを知り、愛を知り、痛みを知り、喜びを知る。
温かな大事なモノ。唯一のファミーリエ。ささやかで慣れがある場所。ほんとはユーフォリア。心が帰れる場所。愛しのファミーリエ。
それは、ここにある。君の隣に。僕の心の中に。僕たちが共に歩くこの道の上に。
