【猫の掌編小説】|オバンギャルド

ある日のことである。
門の前から話し声が聞こえてきた。
「ここが、芸術でバズった猫の家?マジで雰囲気あるじゃん」
門の前には、二匹の猫が立っていた。
一匹は、花柄の割烹着を着た猫。
もう一匹は、派手な服とアクセサリーを身につけた若い猫だった。

「どちら様でやんすか?」
割烹着の猫が、上品に頭を下げた。
「猫山お節なのよ」
若い猫は、スマホを猫へ向けながら、片目を閉じた。
「娘の猫山ニャル美でーす」
二匹は並ぶと、同時にポーズを決めた。
「母がオバンで!」
「娘がギャル!」
「二匹そろって、オバンギャルド!」
「親子でやんすか!」
「猫川前衛郎って猫が、この家を芸術だらけにしたんでしょ?」
ニャル美が尋ねた。
「やっと片づけたところでやんす」
「あらまあ。それなら、今度は私たちが飾ってあげるのよ」
「もう十分でやんす」
しかし、お節とニャル美は、すでに庭の段ボール箱を見つめていた。
お節は箱の中に花柄の座布団を敷き、入口にレースのカーテンをつけた。
その上からニャル美が、ラインストーンと小さなミラーボールを取りつける。
「完成! 作品名は、『庶民派ゴージャス』じゃん!」

「段ボール箱が、まぶしいでやんす」
続いて、二匹は玄関へ向かった。
お節が草履に柔らかな中敷きを入れ、かわいらしいリボンを結ぶ。
「これで、足が痛くならないのよ」
ところが、ニャル美は草履の底に分厚い台を取りつけ、全体を金色のラメで飾った。
「作品名は、『歩きにくさこそ美しさ』!」

「お節さんが、歩きやすくしていたはずでやんす」
「かわいいものを履くには、努力も必要じゃん」
今度は、居間のお茶道具に目をつけた。
お節が食卓にレースを敷き、湯飲みに手編みのカバーをかぶせる。
ニャル美は、湯飲みに色鮮やかなストローと小さな傘を差し、周りに光る飾りを並べた。
「作品名は、『映えるお茶会』!」

たま子が湯飲みを眺めた。
「華やかでやんすね」
「飲む前に、百枚くらい写真を撮るのが大事じゃん」
「お茶が冷めてしまうでやんす」
二匹の勢いは止まらない。
お節は冷蔵庫に、カレンダーや献立表、買い物のメモを貼った。
ニャル美は、その隙間を埋めるように、写真やハートのシール、観光地のマグネットを貼っていく。
冷蔵庫は、扉の色が見えなくなるほど飾られた。
「作品名は、『思い出の過積載』!」

「冷蔵庫を開けるたびに、何か落ちてくるでやんす」
猫は、レースと鏡玉で飾られた段ボールを見つめた。
「これは、入ってもよい作品でやんすか?」
「芸術は、使われて完成するのよ」
猫は中へ入り、正面から顔をのぞかせた。
ニャル美が、すぐにスマホを向ける。
「最高に映えてるじゃん!」
「よく分からないでやんすが、意外と落ち着くでやんす」

これまでのお隣猫シリーズはこちら😺
おまけ😺



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