白湯というマネジメントゲーム
「寝起きは白湯がいいよ」
連休を使って里帰りし、久しぶりに母の朝食を、「うまいうまい」と食べていたら、母がそう言った。
えぇ、知ってる。胃腸にも肌にもいいやつでしょ。
別に理由があって飲んでないわけじゃない。味が嫌いなわけでも、健康意識が特別低いわけでもない。
白湯が、私を、嫌っているんだ。
白湯。それは、ぬるいお湯。
朝一番や寝る前に、飲むのが良いとされている。書いてみると、たったこれだけ。これだけのことが、馬鹿にみたいに難しい。寝起き一番にお湯を沸かし、コップに注いで。
完成したのは───熱湯。
飲んだら喉も胃も終わるやつ。
ここから「ちょうどよくなる」のを待つ数分間が問題だ。
スマホを触る。朝食の準備をする。戻ってくる。
……冷え切ってない?
もう氷水一歩手前じゃない?
じゃあ、と保温カップに入れる。すると今度は永遠に熱い。
「さすがにもう冷めただろ」と油断した瞬間、私の喉を焼こうとしてくる。罠が巧妙すぎる。
自然に任せれば冷え、文明に頼れば熱い。
ならばと、熱湯に水を足して温度を調整してみる。
……。
これ、白湯か?
なんか違わない?
半歩譲って、ジェネリック白湯じゃない?
私がこれまで「白湯を飲もう」と口にしてきたものの7割は、おそらく冷ましすぎて冷水になったものだ。残りの2割は、「アッ…」と思いながら喉を焼いた熱湯。刺激も抵抗もなく、すっと喉を通り、胃に落ちていった最後の1割。あれこそが、真の白湯だったのだろう。
白湯は幻の飲み物。
高度なタイムマネジメント・ゲームを制した者にだけ与えられる報酬なのだ。
白湯を作る行為は、もはや魔法の域。いや、錬金術と言っていい。昔読んだ漫画で、錬金術は等価交換だと言っていた。何かを得るためには、何かを失う。
白湯を得るために失うもの?
時間や集中力…も、まぁ減るけど。
それはきっと、
「できたかな?」と確認するたびに減っていく、
白湯になるはずだったモノ。
心なしか重くなった胃に手を当て、コップを覗き込む。
───完成した白湯、ひと口分しかないや。
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