【小説】最終章 カッコウの子を巣に還す時 11【遠い銃声】
過去作の時系列・設定など
「遠い銃声」シリーズ用語集
カッコウの子を巣に還す時 1~10まとめ
カッコウの子を巣に還す時 1~10のあらすじ
高村逮捕から5年後
総帥の子供だったとわかった北斗は小野田ホールディングス創業者一族に戻ることもなく あいかわらず、北斗として生活をしていた。
青竜は末期のガンになり、ホスピスに入ることを決意したが、入院の日に現れず逃亡する。
青竜は北斗のアパートにかくれていたことがわかるが、彼は総帥に「北斗を殺せ」と命令されて拒否していたことを告白し、再び逃亡する。
青竜は「カッコウの生態」を調べると言いながら、北斗の出生関係の情報を知ると思われる『田園調布レディースクリニック』の元産婦人科医水本を探し出し、拉致し、当時のことを語るよう問い詰め、過去の北斗(昴)の誘拐に総帥も関わっていたことを知る。
青竜は「北斗が死んだ」と偽情報を流し、総帥に会うために北斗と一緒に小野田ホールディングスの東京本社へ向かう。
壁ひとつ隔てた北斗の目の前で青竜と総帥は対峙し、青竜が持っていた手りゅう弾の暴発により二人は亡くなった。

11 病室の昴兄さん
白夜は青竜と総帥の変わり果てた姿を見て、狂ったように泣き叫ぶ北斗の体をつかんで部屋の出口へ引っ張った。
「北斗さん、まだ危ないかもしれない…下がろう……」
社長室の内側からかかっていた鍵をあけると、ドアはボロボロになって外に倒れた。白夜は戻ると北斗の服を引っ張った。
「やだああああ。やだああああ」
子供のように泣き叫ぶ北斗を強く引っ張った。
遠くからパトカーと消防車と、救急車のサイレンの音がした。
北斗は総帥と青竜だった何かをかき集めようとする動作をしたが、白夜は引っ張って止めた。
「ダメ、北斗さん、ダメ」
「うあああああ」
(どうしよう…混乱してる?)
白夜は北斗を引っ張り続ける。その時、白夜は思いがけず、北斗に固く禁じられていた言葉を吐いてしまった。
「昴…兄さん…警察が…来るから…それに……任せよう……すばる…にいさん」
北斗のもう一つの名前…。その言葉は呪いの言葉だったのだろうか…祝福の言葉だったのだろうか。
後になってその当時を振り返ってみても白夜にはどっちかわからなかった。
それは、不思議な奇跡だった。
「……うん」
子供のように北斗は「昴兄さん」に反応して、返事をしたのだった。
(これは喜んでいいのか…いや、北斗さんは昴兄さんとしてすごした日は一日もないんだ。記憶が戻ったんじゃなくて、単に呼ばれて反応してしまったんだよね………でも…)
白夜は北斗が泣き叫んで見つめる、二人の人間であったものを見る。
白夜も吐き気がこみあげて、すこしえずいた。
「父様が死んでしまった……」
小野田家は白夜たった一人になってしまった。
これから社会人になるという時に、まだ少し親が必要な時に、父親という大きな柱を失ってしまった。
「兄さん…俺たち………二人きりの家族になってしまったよ」
泣きながら北斗が頷いた。
「これからずっと二人でいようよ……」
「うん」
北斗は振り向いた。子供のような顔をしていた。
白夜は抱きしめた。
「そうだよ、俺たち、家族なんだよ。兄弟なんだよ」
「うん」
北斗は、白夜が「昴兄さん」と言う度に、子供のようにうなずき続けた。
警察が来て、二人に事情を聞いたがまともに答えられたのは白夜だけだっ
た。北斗は奇声をあげるので、警察が連れていってしまった。
白夜は犯人として一瞬疑われたが、幸いにも、社長室に取り付けられていたカメラの映像がクラウドストレージに保存されていたらしい、その画像の解析で、二人とも捕まることはなかった。
家族のいなくなった白夜の身元を引き受けてくれたのは、いとこの如月と、俊介で、なぐさめてくれた。思いがけなかったのは俊介で、彼は過去に爆弾で怪我をしたことがあったせいか、爆発で親を亡くした白夜にひどく心を痛め、疲れ果てた彼に付き添ってくれた。
「俊介にいさん、すみません」
「いいよ、大変だったね、怪我はない?」
白夜は首を横に振った。
「大丈夫です、ただ…心がまだ…あの爆発の衝撃で…」
「わかるよ、何かが爆発した時のあの音って、俺でもまだ心に恐怖をうえつけたまま残ってる」
俊介は黙って白夜に背を向けるとシャツをたくし上げた。
すぐにシャツを戻した、その背中には無数の傷跡が残っていた。
テロリストが宅配便で持ち込んだ爆弾が、オノダトランスポートの船橋ベースの仕分けのベルトコンベア上で爆発し、その部品を背にあびた跡だった。
「社長の葬式が終わるまで、君に付き添おう。何か、してほしいことがあったら言ってくれよ」
葬式は身内だけで静かに行われた。事件であったが、小野田ホールディングスが全力で報道規制をしたためテレビでも大きく扱われることがなかった。ネットで一部盛り上がりを見せていたが、ここ3.4年は総帥はSNSでの過激な発言を避けていた為、存在は忘れられつつあり、話題にもあまりならなかった。

式を終えて、白夜は一人、タクシーに乗って、大きな病院に入る。そして、看護師に案内されて、鍵のかかる病棟へ案内された。
「昴兄さん」
案内されて入った個室には、やつれて、目がうつろになった北斗がいた。
警察から解放された北斗は心のケアを受ける為に入院していた。
「ご飯食べてる?眠ってる?」
北斗は首を横に振った。
「眠れないんだ。夜中に奇声あげるって、睡眠薬を導入することになったらしい」
「そうか……」
目の下には睡眠不足と思われるくまがあった。
「睡眠薬はいつまでも使うわけじゃないよ、でもね、体のために薬に頼って眠ることも必要だよ、昴兄さん」
「そうだな…」
白夜は北斗の髪の毛を見て「あっ」と小さな声をあげた。
北斗の前髪が半分ほど白くなっていたのだ。
(これって……既視感ある………)
少し違う部分もある、だけど既視感もある。
5年前、当時、高校生だった白夜の夢に現れた、昴になることを押し付けられた長髪の白髪の青年。
「あ……」
夢の中で、成長した白夜の前から逃げていった。白髪の青年。
(あれは予知夢だったのか?)
そういえば、彼も北斗と同じ顔をしていた。
(結城……お前がいつも言っていた試練がとうとうきたのかもしれない………)
20歳になった時、守護霊の結城はこう言って去っていった。
(孤独に耐え、孤高に生きれば、お前はもっと強くなれるかもしれぬ)
白夜は歯をくいしばった。
(俺は一人になったんだよ、結城、独りぼっちだよ、でも、兄さんが戻ってきてくれたんだ。昴兄さんだよ、かあさんが探していた、俺も探していた、昴兄さんが、戻ってきてくれたんだ。彼を手放せっていうの?北斗さんに戻せっていうの?それは無理だよ)
白夜は心の中で叫んだ。
「あれ…プリン…」
北斗は白夜の手元を見て言った。
「あ…あのね、戸越銀座商店街の『ラパン』のプリン、兄さん好きだったからさ、食べようか、ここの病棟、食事制限ないって言われたからさ、買ってきたんだ」
二人は個室でプリンを開けて食べた。
「おいしいなあ、このプリン」
北斗は微笑んだ。
「でしょ、俺も好きで、時々、買って食べるんだよ、このプリン」
白夜も微笑んだ。

皆さま、いつも私の拙い小説を読んでいただきありがとうございます。
「遠い銃声」シリーズ物語が最終に近づいてきました。
連載終了後に短編小説スピンオフを一作公開する予定です。
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