丸ノ内線で座席争奪戦に勝ったら、10万円払うことになった話
私は最近、丸ノ内線で通勤している。
朝の通勤ラッシュ。
座れたらラッキー。
座れなかったら諦める。
そんな世界だ。
その日、私は見事に座席争奪戦に勝利した。
疲れていた私は小さくガッツポーズをした。
「今日はツイてるな」
そう思った。
まさか、その席が結果的に10万円の席になるとは知らずに。
出勤してすぐ、異変に気づいた。
鍵がない。
家の鍵がない。
いつものポシェットに鍵がない。
何気なくポシェットを見ると、チャックが開いていた。
その瞬間、すべてを悟った。
「あ……やっちまったか?」
思い返せば、朝の丸ノ内線だった。
奇跡的に座席争奪戦に勝利し、私はほっとして席に腰を下ろした。
たぶん、あの時だ。
あの席に座った時だ。
仕事どころではなかった。
まず私が家に帰れない。
それでも必死に気持ちを切り替え、なんとか午前の仕事を終えた。
昼休みに駅へ問い合わせる。
すると奇跡的に鍵は見つかっていた。
銀座駅に届けられているという。
私は心の中でガッツポーズをした。
助かった。
本当に助かった。
しかし、その安堵は30秒で終わった。
「お渡しの際は身分証明書をお願いします」
駅員さんは言った。
当然である。
極めて正しい。
私でもそうする。
問題は、今日に限って身分証明書が別のバッグに入っていたことだった。
実は数日前、隙間時間を使ってオンライン診療を受けていた。
保険証や処方箋の関係で別のバッグを使った。
そして、そのまま戻し忘れていた。
普段なら必ず持ち歩いている身分証明書。
今日に限って持っていなかった。
鍵は銀座にある。
私は銀座へ行ける。
しかし身分証明書がない。
では身分証明書を取りに帰ろう。
そう思った。
だが、身分証明書は家にある。
そして私は鍵をなくしている。
つまり家に入れない。
銀座へ行っても受け取れない。
家へ帰っても入れない。
私は人生で初めて、なかなか完成度の高い詰み状態を体験した。
大殺界とは、こういう時に使う言葉なのかもしれない。
管理会社へ連絡した。
しかし管理会社ではどうすることもできないという。
結局、自分で鍵屋さんを手配し、私はマンションの非常階段で待つことになった。
最初は30分くらいで終わると思っていた。
しかし甘かった。
ものすごく甘かった。
上の鍵は開いた。
だが下の鍵が開かない。
本当に開かない。
作業員さんは汗だく。
私は非常階段で神頼み。
「神様、お願いします」
アラフィフのおばさんが非常階段で本気で神様にお願いしている。
なかなか味わい深い光景だったと思う。
時間だけが過ぎていく。
お腹も空いてきた。
そして何より気になっていたのは、ししまるだった。
家の中には愛猫がいる。
ペットカメラを見る。
姿が見えない。
きっと怯えている。
ドリルの音や見知らぬ人の気配に隠れてしまったのだろう。
そのことを思うと胸が痛かった。
結局、3時間以上の格闘の末。
下の鍵はドリルで破壊された。
私はようやく家に入ることができた。
代償は約10万円。
丸ノ内線で勝ち取った座席は、どうやら10万円の指定席だったらしい。
その前日。
私はnoteでこんなことを書いていた。
「戻れる家があること。
ししまるがいること。
それだけで十分幸せだ」
と。
そして翌日。
私は家に入れなくなった。
人生というのは、時々こういうブラックジョークを仕掛けてくる。
家に入ると、ししまるは怯えた顔でこちらを見ていた。
ごめんね。
怖かったよね。
そう思いながらご飯を出すと、ものすごい勢いで食べ始めた。
私は泣き笑いした。
今回の出来事に、どんな意味があるのかはまだ分からない。
正直、10万円は痛い。
かなり痛い。
できれば返してほしい。
本当に返してほしい。
それでも今回、一つだけ思ったことがある。
私は少し、余裕をなくしていたのかもしれない。
毎日仕事を入れ、
空いた時間で別の用事を済ませ、
「これくらい大丈夫」と思いながら走り続けていた。
その結果、
いつも持っているはずの身分証明書を別バッグに入れたままにしていた。
もちろん、鍵をなくしたのは私の不注意だ。
でも今回の出来事は、
「もう少し余白を持ちなさい」
というメッセージだったのかもしれない。
神様が本当にそんなことを言ったのかは分からない。
正直なところ、
10万円払わせる前に、もう少し優しい方法で教えてほしかったとも思う。
でも今日のところは、そう思っておこう。
そして私は明日の朝も丸ノ内線に乗る。
座席争奪戦にも参加する。
ただし今後は、席に座る前にポシェットのチャックを確認しようと思う。
人生というのは、本当に油断ならない。
昨日は「戻れる家がある幸せ」について書き、
翌日は家に入れなくなった。
もしこれを書いた脚本家がいるなら、なかなかのセンスだと思う。
ただし次回は、もう少し予算のかからない演出でお願いしたい。
今日もここまで読んでくださってありがとうございました。
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