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【地理研究】なぜ湾岸は栄え、半島は衰退するのか?

 学生時代の友人が最近言っていたネタなので、筆者もこの項目について記事を書いてみることにした。

 最近知名度が上がった地理の法則として、湾は栄えるのに対し、半島は衰退するという話がある。筆者の考察したところによれば、これは房総半島のような地域規模の話であれば正しいが、朝鮮半島のような国家規模の話では正しくない。

 なぜそうなるのかについて、徹底的に考察したいと思う。

栄える湾岸、寂れる半島

 日本国内を考えてみると、湾が栄えるのに対し、半島が寂れるという経験則はかなり当てはまっているように思える。

 例えば三大都市圏の東京・大阪・名古屋は全て湾岸に位置している。東京湾・大阪湾・伊勢湾である。これらの都市の近くには半島があるが、どれも人口は少ない。東京の近くにある房総半島は館山くらいしか都市がないし、名古屋近くの知多半島や渥美半島もやはり人口は多くない。大阪の近くに紀伊半島に至っては、陸の孤島とも言われている。

 三大都市以外も似たようなものだ。札幌は石狩湾に位置しているし、福岡は博多湾に面している。一方、能登半島は地震からの復興が進まず、危機的な状態である。

 鹿児島県や青森県も露骨だ。県の形を特徴づけている2つの半島にはほとんど人口がおらず、湾の内部に県庁所在地がある。

 湾は栄え、半島は廃れるというのは、日本地理に関しては客観的事実と捉えて良さそうである。

名古屋周辺の地図
知多半島・渥美半島・志摩半島には見事に市街地が少ない。
名古屋も豊橋も津も湾岸である。

なぜそうなるのか?

 なぜそうなるのかという要因について考えてみたい。

 まず第一に挙げられるのは、平地の有無である。湾の周囲には沖積平野が存在する。湾はその形状から川が沢山流れ込みやすいのだが、それらが山から土砂を運んできて、湾の内部に堆積する。そのため、湾岸には平野が広がっていることが多いのだ。例えば大阪は淀川と大和川の土砂によって埋め立てられた沖積平野である。一方、半島は山がちだ。半島自体がある種尾根のようなところがあるので、房総半島にしても伊豆半島にしても背骨のように山脈が走り、平地はあまり多くない。

房総半島や三浦半島は山がちで平地が少ない。

 第二の要因として挙げられるのは、陸上からのアクセスである。湾は陸地に入ったところにあるので、普通に道路と鉄道を繋げれば良い。しかし、半島はそうも行かない。メインの陸地から離れたところにあるので、陸上交通のコストが高いのである。例えば房総半島を考えれば良い。鉄道で千葉の南部に行くには東京湾をぐるりと回って迂回する必要があり、余計な時間がかかる。都心が房総半島にあったとしたら、東海道方面からのアクセスは大変難しくなるだろう。湾は色んな方向からアクセスできるのに対し、半島はそれ自体がボトルネックである。陸上交通のアクセスは悪い。

能登半島地震ではアクセスの悪さが課題となった
半島は途中の道路が遮断されると陸の孤島になってしまう

 第三の要因として港の立地が挙げられる。湾内は台風や高波が来ても波が陸地にブロックされるので、比較的穏やかになりやすい。一方、半島の場合は海洋からの波がダイレクトに直撃することになる。半島部には良港はなかなかできにくい。ただし、湾が必ずしも良港とは言えないのは注意である。沖積平野の場合は遠浅になっている場合があり、大型船の停泊が難しくなる。三陸海岸や若狭湾のようなリアス式海岸は一番都合が良いが、平地が少ないというデメリットがある。神戸港や横浜港は海岸のすぐそばに山地が迫っているため、港としてちょうどよい。

湾の奥に立地する佐世保港
やはり海の近くに山が迫っている

 そのため、良港があることと沖積平野の存在は相反しがちである。ただ、半島がどちらにも該当しにくい。

国家規模だと当てはまらない

 このように半島が寂れ、湾岸が栄えるという法則は日本国内においては良く当てはまる。

 しかし、国家規模となるとなかなか当てはまらないようだ。例えばイタリア半島・朝鮮半島・アナトリア半島には大人口を要する国家が存在している。湾岸の国家と比べても特に不利という印象はない。湾岸の栄えている国家といえば莫大な沖積平野を抱えるバングラデシュだろうか。ただ、やっぱり国家規模となると半島が廃れている印象はない。デンマークにしても、スペインにしても、ギリシャにしても、古くから歴史を持つ国だし、衰退している兆しもない。むしろ半島国家のほうが有利な印象すらある。

 また、先程の議論を踏まえると半島以上に島国は厳しいはずだ。例えば伊豆大島や種子島といった離島はどう考えても本土に比べて不利である。しかし、国家規模だとむしろ逆だ。島国はかなり栄えている。日本も台湾もイギリスも近場の大陸国家より豊かである。

 なぜ国家規模になると、現象は成り立たなくなるのだろうか。筆者の考察は「国家サイズになると海上交通の方が低コストになるから」というものだ。

 房総半島のようなサイズであればせいぜい移動距離は数十キロ程度なので陸上交通は効率的である。しかし、国家規模となると数百キロや数千キロの世界となる。この場合、陸上交通よりも海上交通のほうが物品の輸送はしやすい。それに国家規模になると陸上交通は国境の問題を孕むため、なおさら高コストである。

 半島国家は長い海岸線を持つため、国家の大半が臨海地域に属している。そのため、海上交通へのアクセスは良い。良港に関しても、海岸線が長いので見つかりやすいだろう。しかし、湾岸国家は国土のうち一部しか臨海地域に面しておらず、大半の国土は内陸にある。一般に内陸は経済発展に不利とされている。もちろん湾岸国家であっても海岸線が長ければ問題ないが、外洋進出という点では半島や島に比べて出遅れやすいし、海上封鎖にも弱い。

 例えばウクライナとトルコは良い対比になっている。ウクライナは湾岸で平地が広がり、トルコは半島で山がちなので、東京湾と房総半島の例に似ている。しかし、ウクライナは主要都市の大半が内陸であり、乏しい海への出口を巡って常にロシアと争っている。歴史的にもウクライナよりトルコのほうが発展していた期間が長い。平らな内陸部よりも山がちな沿岸部のほうが経済発展では有利なのだ。特に工業は農業ほど土地を必要としないので、産業革命以降は平地よりもとにかく沿岸であることのほうが大事になっている。

 この対比は筆者が大昔に読んだ「ゾウの時間ネズミの時間」という名著を思い出す。スケールによって生物の振る舞いは全く変わってくるという話だ。例えばサイズの小さな生物は分子拡散で酸素を補給できるが、サイズが大きな生物はそれだけでは間に合わないため、循環器で前進に酸素を送り込む必要があると言った話だ。陸上交通はまさに分子拡散による輸送とよく似ていると思う。小さなスケールでは有効だが、大きなスケールになると難しいのだ。

まとめ

 今回は湾岸が栄え、半島が廃れる要因について考えてみた。地域規模であれば沖積平野の存在、陸上交通の容易さ、港の立地が要因で湾岸の方が半島よりも栄えやすい。ところが、この法則は国家規模になると成り立たなくなる。地域規模では不利なはずの半島や島が国家規模になるとむしろ有利な特徴として働くようになる。

 両者の違いを考えてみると、絶対的なサイズの問題がある。都市規模であれば陸上交通は便利だが、国家規模になると海上交通のほうが有益になってくるのだ。そのため、国家規模になると湾か半島かよりも海岸線が長いかどうかが大事になってくる。そのため湾の奥に面している名古屋市とイラクの立地は似ていても、前者は世界的な輸出都市なのに対し、後者は内陸国が空気穴を求めて僅かな海岸にしがみついているような構図になるのである。

 絶対的なサイズによって物事の振る舞いは変わってくるというのは大変興味深い。


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