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ダンマパダ⑮⑯


鏡の中の足跡:二つの心、二つの景色

都心の高層ビル、22階のフロア。そこには対照的な二人の人間がいた。

第一章:泥を呑む男(第15句の変奏)

加藤は、誰もいない深夜の会議室で、モニターの明かりに照らされていた。
彼の前には、競合他社を蹴落とすために「加工」したプレゼン資料がある。この嘘のおかげで、彼は巨額のプロジェクトを勝ち取り、出世街道の先頭に躍り出た。
しかし、その日から加藤の「世界」は変質した。
高級レストランで祝杯を挙げても、舌の裏側に泥が張り付いているような不快感が消えない。同僚から「おめでとう」と声をかけられるたび、その笑顔の裏に疑念を探してしまう。夜、目を閉じれば、自分が裏切った人々の冷ややかな視線が浮かんできた。
「俺は成功した。間違っていない」
そう自分に言い聞かせるほど、彼の内側にはどす黒い澱(おり)が溜まっていく。今の自分の居場所も、そしてこの先に待つ未来も、すべてが嘘という汚れに侵食されている。加藤は鏡を見るのが怖くなった。そこに映るのは、自分の行為という汚れに怯え、自ら作り出した地獄に沈んでいく男の姿だった。

第二章:風を通す女(第16句の変奏)

同じフロアの反対側で、真希はデスクを片付けていた。
彼女は先日、自分のミスを正直に申告した。その結果、予定していた昇進は見送りとなり、今は地味な事務作業に戻っている。周囲からは「馬鹿正直だ」と笑われもした。
しかし、真希の心は驚くほど澄み渡っていた。
帰り道、駅へ向かう途中で吹く夜風が、以前よりもずっと心地よく感じる。自分の選択に一点の曇りもないという確信が、彼女の足取りを軽くさせていた。
「損をしたのかもしれない。でも、私は私を裏切らなかった」
真希は、自分の歩んできた足跡を振り返り、ふっと微笑んだ。彼女にとっての「今」は喜びに満ち、そして明日という「来世(未来)」もまた、清らかな地平へと続いている。彼女が手にしたのは、地位や名誉では買えない「自分自身への信頼」という、この上ない報酬だった。

結び:二つの世界

二人は同じビルにいて、同じ空気を吸っている。
しかし、加藤の住む世界は**「疑いと後悔」というフィルターで濁り、真希の住む世界は「誠実と平穏」**という光で満たされている。
自分の行いは、誰が見ていなくとも自分だけは見ている。
その行為が、そのままその人の住む「世界」の姿になるのだ。

「かれは、自分の行為が淨らかなのを見て、喜び、楽しむ。」

真希は地下鉄の窓に映る自分の顔を見て、静かに満足して眠りについた。

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