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不条理小説|ソフト

⚠️1679文字くらいあります

友部のソフトクリームは明らかに歪だった。
彼は、すぐにそれを店員に突きつけ文句を言った。
店員はそれを引き取り、小さな手洗いシンクの中にそれを投げ入れ、新たなソフトクリームを作った。
そのソフトクリームも、やはり歪だった。
店員はそれを友部に渡した。
彼はそれを一度受け取ったものの、やはりまた突き返した。
店員は機械的にそれを受け取り、同じように手洗いシンクに投げ捨て、三個目を作成した。尚、それは普通のバニラ味などではなく、味瓜味だった。
つまりそれは一本目から味瓜味だったし、その点では注文どおりだった。
味瓜とは、別名マクワウリと言い、メロンの下位互換みたいな味がすると想像して貰えば良いと思う。
逆に言えば、メロンの強烈な甘さが苦手な人には美味しく感じられるのかもしれない。だが、そういう味覚の人は一般的ではないので、やはり下位互換だった。
結局三本目のソフトクリームも、歪だった。
友部はそれを受け取らず、手の甲で払い除けるような仕草をした。
店員は、ノールックでシンクにそれを投げ捨てた。
そんなことを十七回繰り返したため、シンクの中はソフトクリームで満たされ、甘ったるい瓜のにおいが道の駅の一角に充満した。
友部はその間も、北海道男爵コロッケの食券を買い、食べながらソフトクリームの出来を判定していた。
そんな真夜中のひと時を過ごした彼は、結局ソフトクリームを食べなかった。
道の駅を出た彼は、サングラスをして駐車場に停めたオープンカーに乗り込んだ。
助手席には女優の藤原紀香みたいな女が座っていた。それは見た目の話ではなく、関西弁が似ているだけだった。
後部座席にはトリミングをし過ぎて、痛々しいほどに細いイヌが座っていた。それも紀香に似た関西弁で吠えていた。後部座席のない、完全なスポーツカータイプのオープンカーだった。
ここで論理的におかしい表記になってしまったのだが、イヌは確かに後部座席に座っていたし、車の後部座席は確かに存在しなかった。つまり言葉にするとおかしくなるだけで、実際はちゃんとなっていた。
それはよくある「言葉で表すのは不可能な感じ」のやつで、図にしてもそれはうまく説明できないタイプのやつだった。
助手席に座る紀香が、友部に「ウ⤴︎チ⤵︎のソフトクリームは?」と言った。
友部は密かに尻ポケットに突っ込んでいたソフトクリームを乱暴に紀香の口に押し込んだ。
彼女は一口でそれを飲み込むように食べ、ソフトクリーム頭痛なのか、魔貫光殺砲の前段階のようなポーズを取った。
友部は紀香のそんな瞬間が堪らなく好きだったので、「お前はクルマから降りろ!」と命令した。
紀香は「わかった〜」と素っ頓狂な声で言い、車から降りたが見た目は工藤静香に似ていた。
友部は「走ってついて来い!」と言い残し、車を急発進させた。
彼の車はスポーツカータイプのため、駐車場内の時点で時速百八十キロに達していた。
メイン道路に出た友部は尚もアクセルを深く押し込んだ。
彼の中の思い出が蘇った。
深く押し込んだのだ。
彼女の口の中に、
ソフトクリームを、
深く深く、
喉の奥、
その奥の奥まで……。

いつの間にか、助手席には痛々しい程の五厘刈りにされたイヌが行儀良く座っていた。それはどれくらい行儀が良いかというと、シートベルトを装着する程であった。
友部はそのイヌが気に入らなかった。
だから彼は、急ハンドルや急ブレーキなどしてイヌを振り落とそうと努力したが、全く落ちる気配はなかった。
それどころかイヌはシートにめり込んで、何なら一体化していた。
「とても、安定している」とイヌは紀香の声で言ったし、友部も同じ感想を持った。
気付いたら、イヌの姿は無かった。
シートに吸い込まれて、シートになったのだ。むしろシートと一体化したのだから、その時点から無かったとも言えた。

友部がヘアピンカーブを曲がると時間が巻き戻り、紀香が助手席に座っていた。
「……彩芽。」
彼女の姿を見て、友部は呻くようにそう言った。
モナコグランプリに出ていた頃を思い出した。
彼の中でそれは黒歴史だったが、あの日の空は、とても青かった。
シンクはべたべただった。
 
(終わり)


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