白銀の騎士(21)第7話 act.3
前回の話
7.業火 act.3
中年男は痛みに顔をしかめながら、不思議そうにバイプを見た。
「…助かった…のか…?」
「たぶん。今のところは」
バイプは肩を貸してやりながら言った。
「ここにいたら危ない。奴ら、どうしてもここいら一帯を更地にしないと気が済まないらしい」
男は体じゅうについた葉っぱや土を払おうともせず、引きずられるように立ち上がった。
おそらく、中央分離帯の灌木に突っ込んだおかげで、まともに道路に叩きつけられずにすんだに違いない。
それでもなお、見た目の割に重量のありそうなアタッシュケースを、手が硬直するほど握りしめて離そうとしないのが気になった。よほど大事な物だと見える。
「“あれ”は…」
男はぼんやりと、もう「跡地」になった研究施設を振り返ってつぶやいた。
「さあ、ひとまずこれに乗ってください。早く」
急かすバイプの腕を払うように体を離すと、男はいきなり取り乱したように詰め寄った。
「“あれ”はどうなった!? 君は見たんだろう?」
「“あれ”って…?」
「『WN(ヴァーン)』…白い、人型戦闘機。君たちの言う『黒いゴーレム』と同じくらいの大きさだ。“あれ”が、あの中に…」
「そういえば」
瓦礫に埋もれて、そんなものがあった気がする。尻餅をついて俯せに手足を投げ出した
『白いゴーレム(?)』と言えなくもないような…だいたい、壊れた建物も白いから判りづらいのだ。
「それは『生きて』いるのか? 動いていたか?」
バイプは首を横に振った。
「わかりません」
あきらかに壊れていると確認はできないが、動く気配はなかった。
そう伝えると、男はがっくりとうなだれ、目から大粒の涙をいくつも落とした。
「全て、終わった…。俺はなんてバカなんだ。妻を助けたいばっかりに、大事な息子まで犠牲に…」
「ひょっとして、息子さんがその中に?」
「…ああ。まだ、15歳だった。ハイスクールに進んだばかりだったのに…」
バイプは内心焦りつつも、しんみりと聞いた。
だが、待てよ。
このおっさんの言ってる事、よく考えたらツッコミどころ満載じゃねーか。
新型?の人型兵器の研究を、あの「跡地」でやってたとして、だな。
それを『黒いゴーレム』の奴らが、機密保持の目的で壊しに来たってのは、たしかに納得がいく。
けど、それほど凄い新兵器のテスト起動にだな。シロートの少年を乗せるか、普通?
「お察しします…が、今は我々が助かることを考えましょう」
自機に乗るよう促すバイプの手に、男は例のアタッシュケースを握らせた。
「これを、間違いなく新国連軍の本部に届けてくれ。国家機密レベルの重要データだ」
「…失礼ですが、あなたは?」
「カク・シュジーン博士、国家特別研究員だ」
「バイプ・レイヤー少尉です。確かに承りました」
「頼んだぞ」
ケースをどこへ乗せようか、とバイプが気をそらせた時だった。
シュジーン博士はいきなり身を翻すと、さっきとは別人のような素早さで駆け出した。
「おい、どこ行くんですか!」
追おうとした足許に銃弾が跳ねる。博士は護身用の拳銃を隠し持っていたらしい。
「来るな! 君には君の仕事があるはずだ。私には、やり残した事がある」
博士は叫ぶと、市庁舎脇の地下階段へ駆け込んだ。バイプがケースを持ったまま後を追うと、シャッターの閉まった地下入口のすぐ脇の、壁に開いた通路に姿を消した。
目の前で閉じた扉を見て、バイプは舌打ちをした。
おそらくIDカードをセンサーにかざして開けるタイプのセキュリティロックだ。
閉じてしまえば壁の継ぎ目にしか見えないし、センサーの位置もわかりづらい。
「俺のIDじゃ、開かねえよなあ」
新国連軍どころか、市民の中でも限られた者しか使えない扉らしいのは一目瞭然だった。
自機に戻ったバイプは、急いで危険地帯を離脱しながら通信回線を開いた。
事の次第を報告すると、ばかもん、と航空部隊司令官の雷が落ちた。
「なぜ、そんな重要人物の身柄を確保…いや、保護しなかったんだ」
「私ひとりでは無理です。どうしてもとおっしゃるなら、応援を」
ばかもん、と今度は本気で叱られた。
「そんな危険な区域に、貴重な人員をやれるか!」
「はあ」
「貴様もさっさと帰還しろ。間違えるなよ、中央宇宙港の作戦本部の方にだ」
了解、と通信を切ってから、バイプがひとしきりぼやいたのは言うまでもない。
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