白銀の騎士【note準拠版】(27)
前回の話
9.転機 act.3
モーカラン社輸送ポート―――
コードナンバーE-02。
ここは、表向きは民間企業の
物資輸送宙港ということになっているが、
実際は緊急時の要人脱出用の
機能を持たされた
いくつかの拠点のひとつである。
『こちらヘタレ中尉。
E-02付近に到着しました』
スタンバイしていた
要人脱出用の中型宇宙艇の中で、
前部座席の端に掛けていたデヴァン中佐は
声を張りあげた。
「よし、わかった。頼むぞ」
後部座席には、
SPに両脇を固められた真ん中の座席に
ゴモン元首が座っていた。
ゆったりとした6人乗りの船で、
ある程度の遠距離飛行ができるよう、
燃料も満タンに積まれている。
この少し前、
この緊急ポートでは小さな騒ぎがあった。
よれよれのスーツをまとって
髪を振り乱した中年男が、
乱入といっていい勢いで現れたのである。
彼が提示したIDカードには
「カク・シュジーン博士/国家特別研究員」
と記されていた。
「国家特別研究員」ともなれば、
有事の緊急脱出では優先順位が高い大物、
VIPである。
そのVIPが
職員の襟首をつかみ、揺さぶった。
「元首閣下はまだここにいるのか!?」
「え、ええ。はい」
「閣下に直にお伝えしたいことがある。
会うことは可能か」
明らかに尋常な目の色ではない。
若い職員は泣きそうになりながら答えた。
「む、無理です。
もう脱出艇はエアロックをかけて、
発進準備の真っ最中です」
博士はゆっくりと手を離すと、
にやり、と社交辞令的な笑みを浮かべた。
「では、避難先でお伝えするとしよう。
重要な研究機密なのでね。
そうだ君、
わたしにも脱出艇を用意してくれないか」
「しかしその、
現在、運転手が不足しておりまして」
「心配ない、
小型艇の普通免許は持っている。
飛ぶのは基地までだから、
1人乗りの高速飛行艇で充分だ。
燃料も半分あればいい」
「し、しかし、
あまりに危険です博士!」
若い職員はひたすらうろたえたが、
博士は空いていた機体のいくつかから、
やや旧式だが
立ち上がりは抜群の1機をみつけると、
あれにしよう、と勝手に決めてしまった。
「元首閣下の脱出艇が出発しだい、
わたしも続いて発進する。
すまないが、準備を頼む」
有無を言わせぬ意志の力が、
言葉の端々に籠もっていた。
『スリー、ツー、ワン、ゼロ。ゴー!』
ゴモン元首を乗せた中型宇宙艇は、
ごくゆるやかな放物線を描いて
宇宙空間へ飛び出した。
近くの隠しハッチから出た
ヘタレ中尉の"BN(ベーヌ)"が、
すぐ後を追ってくるはずだ。
その前に、
後から小さな高速艇が
同じ方向へ進路をとって発進したことに、
副操縦士が気づいた。
「E-02から発進した小型艇が
後を追ってきます。
…いや、スピードを上げて
近づいてきます!」
「なんだと、バカな。
早く警告せんか!」
デヴァン中佐の怒号を受けて、
副操縦士は通信回線を開いた。
「警告します。
スピードを落としてください。
このままでは当機と接触します!」
応答はない。
小型艇はぐんぐん速度を上げて
突っ込んでくる。
中佐は操縦士に怒鳴った。
「回避できんのか!」
「このタイミングでは無理です。
加速しても追いつきません!」
『ゴモン、貴様は裏切り者だ!』
突然、
機内にカク・シュジーン博士の声が
響き渡った。
副操縦士の握っていた通信機を
デヴァン中佐がひったくった。
「何を考えているんだ!
正気なのか!?」
『むろん正気だよ。
聞いているかゴモン、
貴様は同じ理想をめざす同胞を裏切った。
わたしの家族と…同胞たちのために、
お前を』
ズガアァァァァン……!
閃光とともに、
シュジーン博士の小型艇は砕け散った。
黒い巨大な騎士が、
その行く手を阻むように
右手を差し出していた。
間一髪だった。
安堵の溜息が、
元首の乗った脱出艇の中に流れた。
「…よくやった、ヘタレ中尉」
まだ語尾が震えているデヴァン中佐の
通信に、ヘタレ中尉は応じた。
「基地はすでに放棄しています。
ここから北東へ進路をとってください。
味方の高速巡洋艦『アシタバ』とともに
戦線を脱出し、
援軍との合流を目指します」
いいなと思ったら応援しよう!
応援いただいたチップは、創作のために大切に使わせていただきます