見出し画像

From Missing Man ― ポケット貸して ―第二十二章「ガーベラ日記」(第一巻最終回)


今はもう違うけれど、
私のことを好きだと言ってくれる人から花束をもらいました。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月24日

ピンクのガーベラが五本。
かすみ草と、名前も知らない緑の葉。

薄いピンクのシートと
レースのリボンで包まれた
小さな花束でした。

ガーベラは私の好きな花。
花束をもらった時、

本当に嬉しかった。
ありがとう。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月25日

お気に入りの、
バラの飾りがついた白い花瓶に生けました。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月26日

少しでも長く咲いていてほしくて
部屋より温度の低い廊下に置きました。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月27日

ガーベラがとても花盛りです。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月28日

部屋を掃除したら
机の上が寂しくなりました。

廊下から
また部屋に戻しました。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月29日

私の部屋で
ガーベラとかすみ草が満開です。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月30日

机の上は日が当たらないので
こたつテーブルの上に移しました。

――――――――――――――――――――――――――――――

12月31日

こたつの上だと
ベティがいたずらをします。

また机の上へ。

かすみ草の花が
ぽろぽろ落ちるようになりました。
少し元気がありません。

――――――――――――――――――――――――――――――

ベティが悪戯をするの。
まるであなたみたい。

ホワイトクリスマスじゃなかったけれど、
この街にもクリスマスはやってきて

あなたは私に
花束をくれたのよ。

待ち合わせの街。
後ろ手に何か隠しているのは
気づいていたわ。

真っ直ぐに私を見つめる
あなたの澄んだ瞳。

「これ…」

ぎこちなく差し出された
綺麗な花束。

嬉しかったわ。

こんな風に
花束をもらったのは初めてだったのよ。

きっとあなた、
お店で注文する時

今より
もっとぎこちなかったんでしょうね。

私が少しだけ
笑っちゃったのは

きっと
あなたのせいよ。

つられて
はにかむその笑顔。

そのエクボ。
ずっと
私のものだと思っていた。

  きみの持つ綺麗な花も
  やがては枯れると知っていた。
  それでも
  ボクは贈らずにはいられなかったんだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

1月1日

だんだん元気がなくなってきました。
二本目のガーベラが
下を向いてしまいました。

――――――――――――――――――――――――――――――

1月2日

もう一本も
下を向いてしまいました。

かすみ草は
ドライフラワーみたいになってきました。

少しでも長く飾っていたくて
離れた場所に置いたの。

でも
花は少しずつ弱っていく。

きっと
このまま枯れていくのね。

思い出を切り取って
胸にしまい込むように

この花たちも
そのままでいられたらいいのに。

ねぇ。

きっと
あなたはもう
私のことなんて嫌いでしょう。

こんな
あやふやな気持ちのまま

あなたに
甘えるだけ甘えていた。

あなたには
晴れた空の下にいてほしい。

こんな私と一緒にいたら
ずっと霧の中にいることになるもの。

  悲しいのは
  確かだよ。

  好きだという気持ちも
  本物だった。

  だけど
  終わりにしなければならないなら

  枯れた花から
  種が落ちて

  また花が咲くように
  命が巡るように

  次の未来でも
  また出会えたらいい。

――――――――――――――――――――――――――――――

1月3日

とうとう
枯れてしまいました。

一本だけ
もらった時のままの
綺麗なピンク色で枯れています。

かすみ草は
完全にドライフラワーになりました。

花の命は
本当に短い。

恋も
同じなのかもしれません。

でも

今度の恋は
かすみ草みたいに

生きていても
枯れていても

綺麗な花みたいな恋にしたい。

あなたも
そう思うでしょ?

さようなら。

たぶん私
あなたを愛していたのよ。

あなたは
私の寂しい夜を温めてくれた。

さようなら。

たぶん私
あなたを愛していたのよ。

あなたは
私の光だった。

漆黒の夜に
ぽつんと輝く
小さな星だった。

このドライフラワーを見るたび

あなたの言葉を信じた
あの時の気持ちが

もう一度
胸の奥で
ふわりと温かくなるの。

不思議でしょ。

あなたからもらった愛が
今も

ドライフラワーになって
私の部屋で咲いている。

もう
その笑顔を見せないで。

もう
私を包み込まないで。

私は
あなたなしで
生きていくと決めたんだから。

それでも
ドライフラワーは
まだ、あの日の色をしている。

――――――――――――――――――――――――――――――

いいなと思ったら応援しよう!