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【ショートショート】「送辞」〜今日我が家を巣立つあなたへ〜【パロディ】

送辞

7月も半ば。夏はここに来て駆け足で
やって来ました。
ジリジリと照りつける太陽は私達の
輝かしい日々も照らしているかの様な
今日という良き日。
いよいよ貴方との別れの日を迎えました。

思えば…8年前。
配送業者に抱えられ狭いアパートの玄関故に
2度通過できず3度目で潜り抜けた
あの春の雨の日。

「ブルンブルン回ってやるわよ。」
「部屋汚な…。洗濯以前の問題よ。」

とやる気と皮肉に満ちた志を感じ取り
「俺達なら良いバディになれるな。」と
思った事が昨日の様に蘇ります。

貴女と初めてお会いしたのは某家電量販店。
貴女はその真っ白でふくよかな
ワガママボディーに「大特価」と
「現品限り」というおしゃれな値札を
ちらつかせ行き交う人達を魅了
していました。

貴女は私が一目惚れしたと思ってらっしゃる
そうですが私が一目惚れしたのは「大特価」
の文字の方です。
また、良く見ると一年前の型落ち。
しかしメーカーは超一流。
例えるなら「徳川さん」や「金田一さん」の
様な苗字の人なら誰でも凄い人であろう
みたいな感覚で購入を決めました。 

これに腹を立てたのか冒頭の様に
玄関で駄々をこね3回目で通過し
玄関クロスに思いっきり黒線をつけて
下さいました。
気付いたのは搬入が終わった夜の事。
現場を見ていた訳ではない為
泣き寝入りを覚悟し今に至ります。

このクロスの転居の際の修復費用は
私に支払い義務はあるのでしょうか?
疑問は募るばかりです。

設置の際の貴女は観念したかの様に
業者にされるがまま。
最後の悪あがきで排水ホースを
バタつかせましたがあえなく排水溝に
納められ意気消沈。
不憫に思った私は電源を入れてあげました。

それからの貴女のご活躍は正に賞賛に
値するものでありました。

夏場の汗たっぷりの作業着。
結局2週間で辞めた汗たっぷりの
ランニングウェア。
結局3回行っただけで現在も会費だけ
引き落とされ続けているジムで着た
トレーニングウェア。
等の数々の難敵を打ち負かして
来られました。

中でも私が心を揺さぶられたのは
強制労働とも言える雨上がりの
社内野球大会に参加し足を痛めながら
ドロドロに汚れたジャージを
見事返り討ちにした事です。
あの日を思い出すだけで私は胸が熱くなると
共に下洗いが甘かった故に洗濯槽が
「シャリシャリ」と鳴いていた事を
思い出します。
貴女の活躍に私も報いたいと洗剤をいつもの
倍入れたとはいえただの気休めでした。
それを知ってか知らずか貴女は
ワガママボディーの洗濯槽を
艶めかしい程にブルンブルン揺れ回し
ハイターという新しい仲間と共に
汚れを見事消し去ったのです。

私は貴女を見つめながら
スタンディングオーベーション。
次の日にお礼と賞賛を兼ね
洗濯槽クリーナーをプレゼント。
貴女のいつもより激しく洗濯槽を回す姿は
あまりに妖艶でうるさく隣の部屋から
苦情が来ないかと肝を冷やした事が
昨日の様に思い出されます。

それからというものの私達は
互いを信頼しあい時にはいたずらに
洗剤を変えてみたり、早洗いにしてみたりと
冗談を分かち合える仲になりました。

しかしそんな日々は突然…。
洗濯槽の不快なガタガタ音と共に
崩れ去りました。
3週間前、脱水中の貴女は突然洗濯槽から
ガタガタと震える声を鳴らし止まりました。
その時は電源を入れ直し立ち直りましたが
それ以降、この繰り返し。
ツンデレな貴女の愛くるしいイタズラかと
思い微笑ましく…。いや、苛立ちを募らせ
ながら見守っておりましたが先週には
とうとう給水も出来なくなりました。

正気に戻そうと懸命に苛立ちを込めながら
バンバンと叩き起こそうとする私。
謎のエラー音を鳴らしながら言葉を
返す貴女。

私は主治医に言いました。
「生命維持装置を外してください。
 もう充分です。」
と言う冗談を考えながらコンセントを
ゆっくり抜きました…。

走馬灯の様に思い出されるはずの
これまでの2人の思い出は3週間前からの
不具合のお陰でまったく駆け巡りません。
何よりも繁忙期の梅雨時期に合わせるかの
様に正気を失った貴女を前にし毎日往復した
この3週間のコインランドリー生活が
思い出され自分を褒めてあげたいです。
通いすぎてコインランドリー内の中途半端に
揃った「金田一少年の事件簿」を読破して
しまいました。
貴重な時間を返してください。

とはいえ、貴女はこの8年間素晴らしい
働きを見せて下さいました。
心から感謝申し上げます。
第二の人生。
スクラップにされてしまうのか
手直しされリサイクルショップへ並び
誰かの元へ嫁ぐのか解かりませんが
心からの感謝と8年間で圧倒的に頻度の
少なかった洗濯槽クリーナーを持ちまして
御礼に代えさせていただきます。


追伸

何となく今
「汚部屋のだらしない男なんか
 こっちが願い下げよ。」
という貴女の声が聞こえた気がしました。
悪口は止めて下さい…。















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