10時間 第三章 ✤境界✤
【お知らせ】
「10時間」第三章は、メンバーシップ先行公開です。
一般公開は、第四章公開時を予定しています。
第二章を一般公開しました。
第三章【境界】
17時06分。
再び、アキラは静かに歩き出した。
繁華街の明かり。
すれ違う人々の笑顔や、弾む声とは裏腹に、俺の気分は沈んでいた。
喫茶店を出て大通りを歩き、そこから一つ裏の通りに入った。
通りの左手に、店頭に行列のできた店があった。
列に並ぶ人たちを見て、【天選所】を思い出した。
「あれは、いったい何だったんだ?」
夢にしては、やけに鮮明に覚えている。
通りの向こうの行列を眺めながら、そんなことを考えていた。
ガラス越しに見える店内では、スタッフが忙しそうに動き回っていた。
店から出てきた男性が、並んでいるお客さんに声をかけている。
山本。
アキラが苦手な社員だった。
ガラスの向こうには、アルバイトのタクミ、スズ、サエ、アリサもいた。
みんな、店内を目まぐるしく動き回っている。
ガラスの向こうは、生き生きとした戦場。
その光景を、俺はただ眺めていた。
不思議だった。
すぐ目の前にいるのに、ものすごく遠い。
まるで、店の前に川が流れているようだった。
向こう岸では、みんなが笑ったり、怒ったり、走ったりしている。
こちら側には、音がない。
いや。
自分だけが、音のない世界にいる。
タクミが窓際で接客している。
ガラス一枚しか隔てていないのに、まるで別の世界だった。
俺は、音のない川沿いにひっそりと立って、その光景をただ見ていた。
昨日まで、あの中にいた頃は、あんなに忙しいのが嫌だった。
山本のことも、嫌いだった。
それなのに――。
今は、あの忙しさが羨ましいとさえ思える。
皮肉なもんだった。
色々な思い出が、頭の中を走馬灯のように駆け抜けていった。
どのくらい、店の前にいたのだろう。
次の客を案内するために店から出てきた山本と、
一瞬、目が合った気がした。
反射的に頭を下げた。
そして、店に背を向けて歩き出した。
ポケットの【再生同意書】を握りしめた。
歩き出すと同時に、ふと思った。
「明日、俺は……お店に立てるのだろうか?」
【あとがき】
第三章を読んでくれて、ありがとうございます。
再生同意書に翻弄されながら、生と死に向き合い始めるアキラ。
刻々と時間は容赦なく進む。
第四章でお会いしましょう。
jinsei
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