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星降らす花はいつまでも

腕を組んで、水まんじゅうのように冷えた自分の二の腕をぎゅっと握る。ミッフィーのハンカチを頭に乗せて、べたべたの顔と心をごまかした。

今夜は、この夏いちばん楽しみにしていた花火大会である。あるというのに、突然降ってきた雨に、2時間かけたヘアメイクも、1ヶ月前から用意していた浴衣もべちゃべちゃにされているのだ。私がちいかわなら恐らく泣いている。ちいかわじゃないので泣かないが、眉尻も目尻も口角も、顔中のパーツが下がるのを抑えられない。1時間前にチーズハットグを持ってはしゃいでいたのが嘘みたいだ。

それでも花火は予定通りに上がるらしいので、観覧場所で待機した。どんどん強くなる雨。隣の人の傘から滝が落ちてきて、顔面に直撃する。ぶふぇっと声を出しながら擦ったまぶたの中に、水が溜まっていた。

どこからか、大会実行委員長のアナウンスが聞こえてきた。地域住民への感謝。都会から帰ってきた人たちへの歓迎。カップルそろって浴衣を着ているのが私たちだけだったから薄々気がついていたが、めちゃくちゃ地元密着型のお祭りだ。肩をきゅっと寄せて小さくなった。

カウントダウンが始まる。10、9、8、7。思い切り叫ぶ子どもの声が聞こえて、ふふっと笑みが溢れる。6、5、4。踵を上げて、リズムを取り始めた。3、2、1!

ガードレールを挟んで数十メートル先の河川敷がボウンッと光って、地面から叩き上げられたように心臓が持ち上がる。ひょろひょろと空に駆け上った光は暗闇に弾けて、お祭りごと包み込むように大きく咲いた。空気が震える。鼓膜が揺れる。近い。近いね!

花火の根元、初めて見た。ペチペチと彼氏の二の腕を叩くと、近いなあと笑った顔が振り向く。

花はすぐになくなって、傘が雨を弾くようなパチパチとした音ともに、無数の星が降ってくる。スマホを胸にギュッと握って、ビデオを撮った。

夢の入り口のように眩しい輝きを、内臓と心が震える音を、右腕に感じる温もりを、どうしたら残しておけるだろう。

ふと思い出して、ビデオを止めた。
私はこの景色を気持ちごと、残しておく方法を知っている。

鼻から深く息を吸って、ぐっと目を見開いた。痛む首を抑えながら、光の粒をひとつたりとも見逃さないように集中する。

ほんのり湿った火薬と焼きそばソースの匂い。ロケットのようにまっすぐ進む光、噴水のように落ちる光。煙がかって白くなった空に瞬くプラネタリウムのような光。視界の端に、なぜか私へカメラを向ける彼氏の腕が映る。マーチのラストを飾るスネアのように畳み掛ける音。両手をいっぱいに広げても収まらないくらいに広く星が降って、ぶわっと拍手が湧き上がった。いつのまにか、雨が止んでいる。

ミッフィーのハンカチを畳んでカバンにしまった。「すごかったなあ」「近かったなあ」が飛び交うほかほかとした人混みに身を任せ、ゆっくりと帰り道を歩く。

お家に着いたら、今夜のことを書き留めておこう。そうすれば、きっと。

下駄がカタカタとアスファルトを鳴らす。右手に掴んだ彼の腕をリズミカルにむにむにすると、「何?」と不思議そうな顔が振り返った。



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