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急に具合が悪くなる / All of a Sudden


 CINEMOREに濱口竜介『急に具合が悪くなる』評「あなたの視界の中で生き続ける」を寄稿させていただきました!

https://cinemore.jp/jp/erudition/4604/article_4605_p1.html



「出会う自己と他者は、完成された自分をもっていない」

 原作のこの言葉が心から好きです。とても勇気をもらった。そしてこの映画は、まさしくこの言葉そのものを体現していきます。 原作に頻出する「偶然」や「確率」という言葉は、濱口監督が追いかけてきたテーマであり、エリック・ロメールの映画のテーマでもあります。

 不思議なことに、この圧倒的な原作を読んでいると、映画作りに関する鋭利な文章のように思えてくるときがあります。映画だけでなく、あらゆる芸術制作に関する文章に思えてくる。それは、この本が"世界の見え方"を示しているからだと思います。kindleで読んで、たくさんマーカー引いちゃいました。
 
 夜の映画であり、何より樹をつくる映画だと思います。みんなで樹をつくることを信じる映画(マリー=ルーとトモキが初めて向かい合って会話をするのは、樹の下です)。濱口さんは私たち観客に参加を呼びかけている。そしてこの映画は、あなたの視界の中で生き続けることを祈る映画です。

 メインの4人だけでなく、脇役のフランスの役者さんたちが素晴らしいです。特に患者さん役の方たち全員に心底感動しました(本物の患者さんたちかと思った)。濱口さんは、絶対撮れて幸せだったと思う!

 真理が演出する吾朗の一人舞台「近づいてみれば、誰もまともな者はいない」。この劇が題材としているフランコ・バザーリアについても少し書いてみました。イタリアで精神病院廃絶への道筋をつくった人物。マルコ・ベロッキオはバザーリアの思想に共感し、同時代にドキュメンタリー作品をつくっています。「近づいてみれば、誰もまともな者はいない」という言葉自体が、マルコ・ベロッキオの映画における“顔”のクローズアップをよく表わしているといえます。

Matti da slegare (1975)

 バザーリアの生涯を描いた『むかしMattoの町があった』(2010)という3時間のテレビ番組もあります。少年時代のバザーリアが好きな子の前で、付き合ってくれなきゃここから飛び降りるぞ!と、海に飛び込むシーンから始まります。女の子も一緒に飛び降りるところが素敵です。ここに「愛は深刻な精神疾患だ」というプラトンの言葉が重ねられます。このエピソード自体は、完全なフィクションらしいのですが、”狂っているという意味が分からない”という、この作品のテーマが的確に表わされていると感じます。バザーリアは、罪の覚えのない患者さんたちに名誉、尊厳を返還していきます。マルコ・ベロッキオのドキュメンタリーに出ていた方と瓜二つの方が出演しているのも驚くポイントです。

C'era una volta la citta dei matti(2010)

 

Manicomio di Girifalco

 マニコミオ(精神病院)の写真も、『急に具合が悪くなる』の参考資料になったかもしれません。また、濱口監督は寝てしまったとインタビューで言っていましたが、精神病院を描いたニコラ・フィリベールのドキュメンタリー『すべての些細な事柄』(1998)のイメージは、“自由の庭”のイメージと、かなり近いものがあります。今回改めて見直して、『すべての些細な事柄』にたいへんな感銘を受けました。再評価されるべき美しい映画です。

La moindre des choses(1998)

 

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