シチリア島㉗ シトロンは柑橘の歴史を語る上でかかせない果実
シチリア島で出合った印象深い柑橘にシトロンがあります。
シトロン(Citron、学名 Citrus medica)は柑橘の中でも非常に古い柑橘で、原産地はヒマラヤ周辺〜インド北東部。
多くの地方系統があるため、野生のシトロンとはまったく同じというわけではありませんが、この形は野生に近いものです。
現代の研究によると、シトロンはザボンやミカンと並び、現在の多くの柑橘類の祖先の一つであると考えられています。
レモンやオレンジ、グレープフルーツなどもこれらの古い柑橘の交雑によって生まれたとされていて、シトロンは柑橘の歴史を語るうえで欠かすことのできない存在です。
シチリアのシトロン(Cedro)は、野生型より大型で、皮が厚く、果汁は少なく、香りを重視して選抜された栽培系統です。
農家さんが一つ、輪切りにしてくださったのですが、皮は本当に厚く、果肉が小さいため果汁は少くとも瑞々しく、そのままで十分食べられました。
爽やかな味がして、レモンほど酸っぱくはありません。
酸味は日本の小夏(日向夏、ニューサマーオレンジ)の収穫したてほどでしょうか。
味はもっと淡いと感じました。
今思えば、農園さんでひとつ買わせていただいて、宿でゆっくり食べてみればよかったなぁ、と思います。
シトロンはレモンやオレンジよりも早く地中海世界に伝わった柑橘であり、古代ローマ時代にはすでに栽培されていました。
当時の人々は現在のように果汁を利用するのではなく、強い香りをもつ厚い果皮を薬用や香料として用いていたと伝えられています。
古代ローマの博物学者プリニウスも、この果実の記録を残しています。
また、シチリアのシトロンには宗教に関わる特別な役割があります。
ユダヤ教の祭りである仮庵祭(かりいおのまつり)では「エトログ」と呼ばれるシトロンが儀式に用いられます。
この儀式では、形が整い、傷がなく、純粋な系統の果実を求められ、古くから品質の高いシチリアやカラブリアの産地のシトロンが重んじられました。かつてはラビが自ら産地を訪れ、果実を確認したという話もあります。
シチリアではシトロンは菓子作りにも欠かせない果実でした。
シトロンは果皮が非常に厚く香りが強いため、皮を砂糖漬けにして保存するのに適しています。
この砂糖漬けはパネットーネなどの伝統菓子に使われ、現在でもイタリアの菓子文化の中で重要な材料となっています。
シチリア島のシトロンは古代の交易、宗教、食文化に深く関わりながら今日まで受け継がれてきた、特別な意味をもつ柑橘なのです。
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