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休暇

 毎年秋にまとめて休みを取ることにしている。

 コムスメが小さい時は、学校の休みに合わせて取るようにしていたが、そのころはまだ下っ端で、しかも働き方改革の後押しもなかったので、なかなか思うようにはならなかった。医者は年功序列、入局年度が大きくモノを言う。先輩から順に夏休みを申請していくが、他の医者と日程が被らないように知恵を絞る必要があったので、自然と休める時期が限られた。

 トップになった今、好きな時期に好き放題休みが取れる幸福を噛み締めている。しかし、それでも手術の日程や売上に響かないようプランを組む癖がついてしまっているのは何故だろう。貧乏性なことだ。

 休暇を取るとき、遠慮しすぎると、却って酷いめに遭う。これが、私が長年の経験で得た真実だ。

 ほんとうは病棟や外来が無医村にならないよう気を配ることはトップの仕事で、下っ端が気遣うところではない。だが、各々に任せてしまうと自重する人とそうでない人が分かれる。
 オットは、下積み時代から部長並みに人員配置を気にする男であった。先に誰かに休まれると、必ず自分は「休めない」と判断してしまう。
 ここでトップが「誰でも勝手に休んでいいよ」という無責任な輩だと、「気がついた人がバチをかぶる」羽目に陥り、自重する人間は、いつまで経っても思うように休暇が取れなくなってしまう。
 案の定、オットはいつもうまく休みを取れないでいた。不器用な男だ。

 もちろん、彼が先陣切って休みをとり、誰彼構わず迷惑をかけまくる唯我独尊的男だったら、私はそもそも彼と結婚などしていないので、ズルをするくらいなら損をする、でちょうどよい。しかし、常に後塵を拝してしまうというのはいかがなものか。帳尻を合わせようとすると、その帳尻の皺寄せは常に家族が解決する羽目になるのだ。わかってんのか。

 それでもオットは今の病院に勤めるようになって、ついでに大病も患ったせいか、以前よりそういった「俺がやらなきゃ誰がやる」という強い切迫感は鳴りを潜めた。だが、強靭な責任感と使命感は元々の性格も手伝い、そんなに全部は変わらない。
 
 「ここの枠の外来をする人がいない」

 今年も秋に家族旅行を計画したが、後になってオットはこんなことを言い出した。連休、他の連中のことなど全くお構いなしに休暇をぶっ込んでくる不逞の輩に、オットは根性から負けている。周囲の都合を全く考えず、「休むったら休むんだよ」と言えれば即、解決なのだが、外来診療に穴を開けることに良心が咎めてしまうオットは、同じ時間帯を担う医者が休暇を取るので自分は休めない、と言い張る。

 「あんなにこの日程でいい?って確認したのに・・・」
 旅行の予約を取るのは私の楽しみでもある。半年も前から検討に検討を重ね、四方八方に了解を得てきた日程を無碍にされると、のっぴきならない事情がわかっていても腹が立つ。
 「僕、後から行くよ。外来診療を終わらせないと」
 「休めばいいじゃん、休んだって誰も怒んないよ」
 「患者さんが困るでしょ」
 「1回くらい予約が飛んでも大丈夫だって」
 説得を試みるがオットはテコでも動かない・・・仕方がない。駐車禁止の標識が出ていたら、周囲に誰もいなくても車を停めることは絶対にできない男だ。そういう、お天道様以外全く見ていないところですら、ズルができないところを彼の長所だと思って結婚したのだから、仕方がないのだ。

 同じ外来を担当する老ムッシュは、オットの責任感をアテにして、相談もせずに休みを取るというのに。

 「私が文句言ってあげようか??」

 オットが言い出したら絶対に引かないことを知っていながら、私はこう申し出る。うちのオットが先に休もうと思ってたんです、相談もなしにあなたが休みを入れてくるだなんて、失礼じゃないですか・・妄想の中で、すでに老医師はたじたじになって、オットに休みを譲っている。シュミレーション、よし。武者奮い。

 「やめて。あなたはハルマゲドンみたいな人なんだから。世界が終わるでしょ」

 世界が終わったら旅行もクソもないでしょ、とオットは言い、私はヤケクソで日程を1日ずらして、やっぱり彼と一緒に出立したいと思うのだ。もう、それは仕方がないのだ・・・
 そばでピスピスと小次郎が鼻を鳴らしている。小首を傾げて、喧嘩はよしなよと言っている。

 

 

 

 

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