2-2.暗記が得意な人は、何が違う? ミラーと魔法の数字
電話番号を、どう覚える?
090-3847-2516。
電話番号の数字、11桁。
これを見たとき、私たちは「090」「3847」「2516」と3つの塊にわけて読みます。
電話番号なら、ハイフンで区切られているから当然に感じるかもしれませんが、クレジットカードの番号も、16桁の数字を4桁ずつのかたまりに分けて覚えているのではないでしょうか。

数字は、一つも減っていない。
それでも、ばらばらの数字より頭に残りやすい。
暗記が得意な人は、情報をかたまりにするのが上手です。
1950年代、通信工学の世界では情報の量を「ビット」で測っていました。
この物差しを使って、私たちの頭が扱える情報量を測ろうとしたのが、ハーバード大学の心理学者ジョージ・A・ミラーです。
トールマンが問うたのは、行動に現れる前から、頭の中では何が起きているのか。
ミラーが測ろうとしたのは、その頭の中で、どれほどの情報を扱えるのか。
そこで何度も現れたのが、魔法の数字「7」でした。
「7」に追いかけられた男
1956年、ミラーは論文の冒頭で、少し変わった告白をしています。[1]
「私は、ある整数につきまとわれている」
音の高さを聞き分ける。
点の数をひと目で捉える。
一度聞いた数字を、そのまま言い返す。
まったく違う実験なのに、なぜか限界として7前後が現れる。
偶然なのか。
それとも、人が一度に扱える数の限界が7なのか。
ミラーは、この数字に7年間もつきまとわれたと書いています。
論文のタイトルは『魔法の数7±2』。
7は心理学でもっとも有名な数字の一つになりました。

けれどミラー自身は、7をあらゆる情報処理に共通する法則とは考えていませんでした。[2]
暗記のコツは、束ね方
ミラーは、論文の中でこんな数字を示しています。
101000100111001110
0と1が並ぶ、18桁の数字。
これを、3桁ずつに区切ります。
101 / 000 / 100 / 111 / 001 / 110
0と1を3桁並べると、000から111まで8通りの組み合わせがあります。
そこで、それぞれに0から7まで別の名前をつける。
すると、18桁の数字は、
5 / 0 / 4 / 7 / 1 / 6
6つの数字に置き換えられます。

ミラーが紹介した実験では、20人の参加者に、こうした数字の置き換え方を数分間だけ練習してもらいました。すると、すべてのグループで、覚えられる0と1の数が増えました。[3]
情報の量はそのままに。
かたまりに分けて、整理する。
ミラーは、この情報のかたまりを「チャンク」と呼びました。
「ポイントは3つあります。」は、役に立つ?
では、人が一度に扱えるのは、本当は何個までなのか。
後の研究では、頭の中での繰り返しや、すでに知っていることとの結びつきが働きにくい条件で、容量が測り直されました。
すると、一度に意識して扱える量は、3〜5チャンクほどと考えられるようになります。[4]
プレゼン冒頭で、「今日のポイントは3つあります」と伝える。
箇条書きは、3つまでにする。
教わる相手にとって、理解の補助線にはなります。
けれど、それだけで頭の中に3つのチャンクができるわけではありません。
教える人は、情報を束ねて渡せる。
けれど、一つのまとまりとして受け取れるかは、その人が何を知っているかで変わります。

暗記が得意な人は、知っていることを使って、ばらばらの情報を一つにできる人なのかもしれません。
では、新しく教わったことは、すでに知っていることと、どうつながるのでしょうか。この問いに向き合ったのが、次に登場するデイヴィッド・P・オーズベルです。
[1]当時ハーバード大学の心理学者だったジョージ・A・ミラーは、情報理論を手がかりに、音の高さなどを見分ける「絶対判断」、点の数の把握、数字や単語の「即時記憶」、情報の再符号化を扱った研究を整理した。
一つの実験結果ではなく、異なる研究に現れる人間の情報処理の限界を検討した論文である。なお、この論文にトールマンへの引用はなく、両者の直接的な研究継承を示すものではない。
Miller, G. A. (1956). “The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information.” Psychological Review, 63(2), 81–97.
[2]ミラーは、異なる実験に「7」前後の限界が現れることを紹介したが、すべてが同じ仕組みから生じるとは断定しなかった。
論文の結びでは、この一致は偶然かもしれないとも述べている。後にネルソン・コーワンは、ミラー本人の回顧や書簡も参照し、固定された数字以上に、情報を意味のある単位へまとめるチャンク化が重要な貢献だったと整理した。
Cowan, N. (2015). “George Miller’s Magical Number of Immediate Memory in Retrospect: Observations on the Faltering Progression of Science.” Psychological Review, 122(3), 536–541.
[3]これは、0と1で表された2進数を3桁ずつ区切り、それぞれを8進数の1桁へ置き換える方法である。
101は5、000は0、100は4、111は7、001は1、110は6になる。
ミラーが紹介したシドニー・スミスの実験では、20人を5人ずつ四つの条件に分け、2桁、3桁、4桁、5桁ずつのかたまりを、別の数字へ置き換える方法を練習させた。短時間の練習後、すべての条件で覚えられる0と1の数が増えた。ただし、置き換えがまだ自動化されていなかったため、理論上予想されたほどには増えなかった。
Miller, G. A. (1956). “The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information.” Psychological Review, 63(2), 81–97.
[4]ミズーリ大学の心理学者ネルソン・コーワンは、頭の中での反復、情報の再符号化、長期記憶による補助などの影響を抑えた研究を検討した。
その結果、一度に保持できる中心的な容量は平均約4チャンク、幅を持たせると3〜5チャンク程度と論じた。あらゆる記憶課題に共通する、固定された上限を示したものではない。
Cowan, N. (2001). “The Magical Number 4 in Short-Term Memory: A Reconsideration of Mental Storage Capacity.” Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87–114.
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