W杯日本代表、出身地から見えるもの
熱い。熱すぎる。
2026年W杯、日本代表はグループステージを1勝1敗1分、得失点差というギリギリの薄氷の上で2位通過。6月30日(日本時間)には決勝トーナメント1回戦で、よりによってブラジルと当たります。タフ、というより「いきなり最終ボス」感が強い組み合わせですが、戦いの前にちょっと脱線してみましょう。
代表メンバー26人の出身地を眺めていたら、思わぬ「お国自慢合戦」が見えてきました。
神奈川、ひとり勝ち
代表メンバー26人中7人が神奈川県出身。板倉滉、田中碧、久保建英、伊東純也、鈴木唯人、小川航基、早川友基――もうこれ、ひとつの都道府県の代表チームがつくれます。
川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、湘南ベルマーレなど、育成組織が充実したJリーグクラブが密集し、優秀な若手が大都市圏の高度な環境に集まる構造が完成しています。サッカー界の「大都市一極集中」を、地図で見せられている気分になります。
かつてサッカー王国と呼ばれた静岡・埼玉・広島はどうか。静岡2人(伊藤洋輝、後藤啓介)、埼玉1人(渡辺剛)、広島1人(大迫敬介)。輩出が途絶えたわけではなですが、もはや「かつての強豪が一線級でちょこちょこ顔を出す」くらいの存在感になっています。
一方で面白いのが、選手をひとりしか出していない地方。熊本の谷口彰悟、岡山の佐野海舟。彼らは地元代表どころか「地元そのもの」みたいな扱いです。大都市圏の選手が「7人のうちの1人」なのに対して、地方の選手は「その県の全部」を背負っている。
愛媛、まさかの2枚看板
この構図が最も鮮やかに表れているのが、愛媛県です。
西条市出身の長友佑都と、伊予市出身の鎌田大地。世界最高峰の舞台に同時に2人の同郷選手が立っていることは、市民の結束力とシビックプライドを爆発的に高めています。
グループステージ最終戦のスウェーデン戦(1-1)では、先発した鎌田から途中出場の長友へパスが渡る場面があり、地元では「愛媛コンビ」が静かにバズった。鎌田の地元・伊予市の喫茶店「サンセットタウン」は、試合のたびに店を挙げて応援営業をしているらしい。一杯のコーヒーに、町ぐるみの祈りが乗っている。
少年サッカーの現場ではもっと露骨だ。鎌田が小学生時代に所属したクラブでは、後輩たちが鎌田と同じ背番号15のユニフォームを着て練習。その活躍は地方のサッカー少年少女にとって手の届くリアルな夢として機能しています。
長友にまつわるスポット、今治市の乗禅寺には、長友の「足形」が奉納されています。高校時代に不調だった長友のために、母親がここで祈願し、レギュラー復帰を果たしたという由来。いまでは「勝負運の寺」としてファンが訪れる場所になっています。
サッカーは町おこしでもある
神奈川が育成インフラで選手を量産する一方、愛媛はたった2人で、町の空気そのものを変えてしまっている。人口減少に悩む自治体にとって「ひとりの地方出身者」がもつ熱量は、大都市の「7人のうちの1人」よりもずっと大きい、というのは、地図を眺めているだけで伝わってきます。
ブラジル戦がどうなるかは、まだだれにもわかりません。でも、愛媛県の各所ではもうすでに、つぎの試合についての話題がひときわ盛んになっていることでしょう。
