お嬢様育ちの人妻 保奈美 (1)
「保奈美は世間知らずなところがあるから、そういうところで働くのも、たまには良いんじゃない?」
学生時代から親友である宝来 瑠璃(ほうらい るり)は、保奈美にそう言った。
ここはホテルの高層階にある、アフタヌーンティーが有名なラウンジ。
目の前で優雅にアールグレイのティーカップを傾ける瑠璃は、今日も仕立ての良いハイブランドのワンピースを完璧に着こなしている。
「ちょっと瑠璃ちゃん、世間知らずってどういう意味よ。」
「言葉通りの意味よ。だって私たち、幼稚園から大学を卒業するまで、ずーっと同じ私立の付属校だったでしょ?
『お仕事』と言えば、親族の会社で名前だけのインターンをしたり、せいぜい知り合いのツテで家庭教師を数回やった程度だもの。
生活のために汗を流して時給を稼ぐなんて、考えたこともなかったじゃない。」
確かにその通りだ。保奈美も瑠璃も、いわゆるエスカレーター式の『お嬢様学校』で学生時代を共に過ごしてきた。
何不自由ない箱入り娘として育てられ、世間の泥臭い荒波なんて、テレビの中の出来事だと本気で思っていた時代もあった。
しかも、保奈美の夫である浩介も彼女と同じく富裕層の出身で、現在は大手企業のエリート会社員だ。
実家を出て彼と家庭を築いた今も、相変わらず泥臭さとは無縁の、何不自由ない満たされた日々が続いている。
だからこそ、保奈美は自分からその〝温室〟のドアを開けてみたくなったのだ。
「面接とか、あるの?」
「うん、来週ね。」
保奈美が頷くと、瑠璃はふふっと面白そうにくすくす笑った。
「それにしても保奈美がパートだなんて……
浩介さん、ご実家も立派だし大手のエリートなのに、まさか生活費をケチられてるの?
お小遣いが足りないなら、あなたのご実家に甘えればいいじゃない。」
「違うよ、生活に困ってるわけじゃないの。
ただ……日中、家で一人でいると時間が余っちゃって。それに、私だって〝普通の世界で〟お仕事してみたいのよ。レジ打ちとか、品出しとか、特売日のポップ作りとか。」
そう言う保奈美を見て、瑠璃はあきれたように肩をすくめた。
「まあ、保奈美がやりたいなら止めないわよ。
でも、スーパーのパートさんたちって結構クセが強いらしいから、カルチャーショックで倒れないように気をつけるのよ?」
「もぉ瑠璃ちゃん、子ども扱いしないで。私だって、ちゃんとやれるんだから。パートさんたちだって、それはさすがに偏見じゃない?」
口では強がりを言いつつも、保奈美の胸の奥には、期待と不安が入り混じっていた。
生まれて初めて飛び込む、庶民的でリアルな社会。
少し冷めかけたカフェラテを両手で包み込みながら、保奈美はまだ見ぬ新しい職場に思いを馳せて、ドキドキと胸を鳴らした。
「まぁ、合わないと思ったらすぐに辞めてもいいんだからな。」
優しい夫である月城 浩介(つきしろ こうすけ)は、保奈美がパートとして働きに出ることに反対はしなかった。
「瑠璃ちゃんがね、私は世間知らずだからスーパーのパートは苦労するって。酷いよね、私を子供みたいに言って。」
「あははっ!確かにスーパーで働いてる保奈美はあんまり想像できないもんなぁ。」
「もぉ、浩介まで私を子供扱いしないでよぉ。」
プンプンと怒ったように頬を可愛らくし膨らませる保奈美。
月城 保奈美(つきしろ ほなみ)
すでに結婚して人妻という身でありながら、まだ20代の彼女には、女子大生のような初々しい可愛らしさがたっぷりと残っていた。
少し童顔な顔立ちは、〝可愛い〟と〝美人〟のちょうど中間に位置するような、絶妙なバランスを保っている。
そして何より目を引くのは、透き通るような色白の美肌だ。
お嬢様として大切に温室で育てられ、世間の泥汚れを一切知らずに生きてきた純真な心そのものを表すかのように、くすみ一つない瑞々しい輝きを放っている。
ほっそりとしたしなやかな手足。
最高級のシルクを撫でているかのように滑らかで、指先に吸い付くようなもっちりとした感触の柔らかな肌質。
そのスタイルの良さと肌の美しさは、同性の友人たちからも羨望の的だった。
そして、清楚で上品な衣服の下には、その華奢なシルエットからは到底想像もつかないような豊かな果実が隠されている。
学生時代、着替えの際などに
「保奈美って……おっとりしてるのに、意外とエッチな身体してるよね」
とからかわれたことも一度や二度ではない。
ふんわりと極上の柔らかさを持った双丘は、なんと見事なFカップ。
無防備に身を乗り出したり、クスッと笑って肩を震わせたりするたびに、
服の中で〝たゆんたゆん〟と柔らかな揺れを起こし、男の視線を無意識に釘付けにしてしまうほどの破壊力を持っていた。
そんな、男の情欲を嫌でも煽るような扇情的なスタイルを持ちながらも、保奈美の性の経験は夫である浩介ただ一人という純白さを保っている。
本人は自分の肉体がどれほど周囲を惑わすかなど微塵も理解しておらず、その無自覚な危うさが、彼女の〝人妻〟としての色香に拍車をかけているのだった。
「もう、本当に二人とも心配しすぎなんだから。私にだって、スーパーのパートくらいできるもん。」
ふんわりとした豊かな胸をツンと張りながら、保奈美は目の前の夫に向かって、拗ねたように唇を尖らせた。
