見出し画像

話すのが苦手な人の頭の中― 精神科作業療法士が考える"伝える"より大切なこと ―

第1章 「うまく話せない…」そんな自分を責めていませんか?

「何を話せばいいか分からない。」

「言いたいことはあるのに、言葉が出てこない。」

「話したあとに、『あんなこと言わなければよかった』と何度も思い返してしまう。」

そんな経験はありませんか。

私は精神科作業療法士として、多くの方と関わってきました。

その中で、

「人と話すのが苦手なんです。」

という言葉を、本当によく耳にします。

職場で上司に相談したいのに言えない。

友人から「大丈夫?」と聞かれても、「大丈夫です」と答えてしまう。

病院で先生に、本当は困っていることをうまく伝えられない。

決して話したくないわけではないのです。

本当は伝えたい。

助けてほしい。

分かってほしい。

そう思っていても、言葉が出てこないことがあります。

そして、話せなかった自分を責めてしまう。

「自分はコミュニケーションが苦手だから。」

「もっとちゃんと話せる人だったら。」

そんなふうに、自分を否定してしまう人も少なくありません。

でも私は、精神科の現場で多くの方と関わる中で、あることを感じています。

「話せないこと」と、「人との関わりが苦手なこと」は、必ずしも同じではありません。

話せなくなる背景には、不安や緊張、そして「安心できるかどうか」が大きく関係していることがあります。

だからこそ私は、

「どう話すか」よりも、「安心して話せる相手や場所があるか」の方が大切なのではないかと考えています。

第2章 話せないのは、性格だけが理由ではありません


「私は人見知りだから。」

「昔からコミュニケーションが苦手だから。」

そう思っている人は少なくありません。

もちろん、

人それぞれ得意・不得意はあります。

初対面の人と話すことが得意な人もいれば、

じっくり時間をかけて関係を築くことが得意な人もいます。

でも、

精神科の現場で多くの方と関わっていると、

「話せない理由」は、

性格だけでは説明できないことがたくさんあります。

例えば、

強い緊張。

失敗したらどうしようという不安。

否定されたらどうしようという恐怖。

「こんなことを言ったら迷惑かな」

「変に思われないかな」

そんな気持ちが積み重なると、

頭の中では話したいことがあっても、

言葉が出てこなくなることがあります。

そして、

一度うまく話せなかった経験があると、

「また失敗するかもしれない」

という思いが強くなり、

ますます話すことが怖くなってしまいます。

これは決して珍しいことではありません。

また、

話す相手や環境によっても、

話しやすさは大きく変わります。

安心できる人の前では自然に話せるのに、

職場では一言も話せない。

家族には言えないことが、

病院では話せる。

反対に、

医師の前では緊張して何も話せなくなる人もいます。

つまり、

「話せる・話せない」は、その人の能力だけではなく、環境や相手との関係にも大きく影響されるのです。

だから私は、

「もっと話せるようにならなきゃ」

と自分を責める前に、

「自分は、安心して話せる環境にいるだろうか」

という視点を持ってほしいと思っています。

話すことが苦手なのではなく、

安心して話せる場所が、まだ見つかっていないだけ。

そんなことも、

決して少なくないのです。

実際に復職に向けたリハビリテーションの現場でも

職場の緊張から一度離れて

安心した環境の中でリハビリをしていると

驚くほどに話し方や話す雰囲気が変わる人がいます

話すことが上手くなったとか、話す技術が向上したとか

そういう変化ももちろんあるかもしれませんが

それ以上に、本人の気持ちを安心して出せる

そんな変化なように感じています

第3章 安心できる場所では、人は少しずつ話せるようになります

精神科のリハビリテーションでは、

「コミュニケーションを練習しましょう。」

と伝えることは、実はあまり多くありません。

もちろん、

話す練習が必要になる場面もあります。

でも、

それ以上に大切にしていることがあります。

それは、

**「安心して過ごせる関係をつくること」**です。

初めて作業療法に参加した人の中には、

ほとんど言葉を発さない方もいます。

挨拶だけで終わる人。

質問されても短く答えるだけの人。

グループの中で、静かに座っているだけの人。

でも、

私はそれを「話せない人」とは思いません。

まずは、

その場に来ることができた。

同じ空間で時間を過ごせた。

それだけでも、とても大切な一歩だからです。

そして、

何度か顔を合わせるうちに、

少しずつ表情がやわらぎ、

「今日は暑いですね。」

そんな何気ない一言が聞けるようになることがあります。

また別の日には、

趣味の話をしてくれたり、

困っていることを話してくれたり。

その変化は、

「話し方を練習したから」ではなく、

「ここなら話しても大丈夫かもしれない」

という安心感が育ってきた結果なのだと感じています。

人は、

安心できる環境では、

少しずつ本来の自分を出せるようになります。

逆に、

緊張や不安が強い環境では、

どんなに話す力がある人でも、

言葉が出なくなることがあります。

だから私は、

コミュニケーションとは、

技術だけではないと思っています。

「誰と話すか」

「どんな場所で話すか」

それも、

同じくらい大切なのです。

もし今、

「うまく話せない自分はダメなんだ」

そう思っているなら、

一度だけ考えてみてください。

あなたは、安心して話せる相手と出会えていますか。

もしまだ出会えていないのなら、

話せないのは、

あなたのせいではないのかもしれません。

第4章 「伝えること」よりも大切なこと

「ちゃんと話さなきゃ。」

「自分の気持ちは、自分で伝えなきゃ。」

そう思えば思うほど、

言葉が出なくなることがあります。

もちろん、

自分の気持ちを伝えることは大切です。

でも私は、

精神科の現場で多くの方と関わる中で、

それ以上に大切だと感じていることがあります。

それは、

「安心して話せる関係」があることです。

人は、

安心できる相手の前では、

自然と言葉が出てくることがあります。

反対に、

「否定されるかもしれない」

「評価されるかもしれない」

そんな不安がある相手には、

本当の気持ちを言えなくなることがあります。

つまり、

話す力だけが問題なのではなく、

話せる関係があるかどうかも、

とても大きな要素なのです。

私はこれまで、

最初はほとんど話せなかった方が、

数か月後には笑顔で近況を話してくださる姿を、

何度も見てきました。

その変化は、

「話す練習」をたくさんしたからではありません。

「この人になら話しても大丈夫」

「ここなら無理をしなくてもいい」

そんな安心感が少しずつ育った結果だったように思います。

だから、

もし今、

話せない自分を責めているなら、

無理に話せるようになろうとしなくても大丈夫です。

まず探してほしいのは、

「安心して話せる人」

なのかもしれません。

一人でもいい。

家族でも、

友人でも、

職場の同僚でも、

主治医でも、

カウンセラーでも、

作業療法士でも構いません。

「この人なら少しだけ本音を話せる。」

そんな存在は、

思っている以上に、

心を支えてくれます。

そして、

もう一つお伝えしたいことがあります。

私が精神科の現場で大切にしていることがあります。

それは、

「伝えること」と「伝わること」は違う

ということです。

私たちは、

「ちゃんと話さなきゃ。」

「うまく説明しなきゃ。」

と思いがちです。

でも、

どれだけ上手に話せても、

相手に伝わっていなければ、

本当に伝えたいことは届いていないかもしれません。

反対に、

言葉が少なくても、

相手があなたの思いを受け取り、

理解しようとしてくれたなら、

それは十分に"伝わった"と言えるのではないでしょうか。

だから、

コミュニケーションは、

話すことだけではありません。

紙に書く。

メモを見せる。

LINEやメールで伝える。

誰かに代わりに伝えてもらう。

「うまく話せないので、代わりに説明してください。」

そうお願いすることもできます。

そして、

伝えたあとに、

「私の言いたいこと、伝わっていましたか?」

と確認することも、

とても大切なコミュニケーションです。

うなずくこと。

少し表情が変わること。

涙が出ること。

「分かりません」と言うこと。

「今日は話したくありません」と伝えること。

それも立派なコミュニケーションです。

私は作業療法士として、

患者さんがうまく話せない時には、

本人の代わりに医師や看護師へ思いを伝えることがあります。

また、

本人が書いてくださったメモを一緒に見ながら話をすることもあります。

大切なのは、

話し方の上手さではありません。

あなたの思いが、相手に届くこと。

そのための方法は、

「話す」だけではないのです。


第5章 話そうとしなくてもいい。小さな一歩から始めればいい

「もっと話せるようにならなきゃ。」

そう思うほど、

話すことは苦しくなることがあります。

だから私は、

「たくさん話すこと」を目標にしなくてもいいと思っています。

実際、

精神科のリハビリでも、

最初から会話が弾む人はほとんどいません。

むしろ、

小さな一歩を積み重ねていくことを大切にしています。

例えば、

朝、「おはようございます」と挨拶をする。

相手の話を聞いて、うなずいてみる。

「ありがとうございます」と伝えてみる。

一言だけでも、自分の気持ちを言葉にしてみる。

それだけでも十分です。

コミュニケーションは、

長く話すことではありません。

人と人が、少しでも気持ちを通わせること。

それが本来の目的なのだと思います。

そして、

話すことが難しい日は、

無理をしなくても大丈夫です。

笑顔で会釈をする。

相手の話を静かに聞く。

「今日は少し疲れています。」

そう一言伝える。

それも立派なコミュニケーションです。

私自身も、

精神的な不調を経験した頃は、

人と話すことがとても怖くなった時期がありました。

何を話せばいいのか分からない。

変に思われたらどうしよう。

そんなことばかり考えていました。

でも振り返ると、

少しずつ話せるようになったきっかけは、

「頑張って話そう」としたからではありませんでした。

安心して話を聞いてくれる人がいたこと。

それが一番大きかったように思います。

だから、

もし今、

「自分はコミュニケーションが苦手だ」

そう思っているなら、

まずは話す量ではなく、

安心できる相手との時間を少しずつ増やしてみてください。

言葉は、

安心できる場所では、

少しずつ自然に出てくるものです。

焦らなくても大丈夫です。

一歩ずつ、

あなたのペースで進んでいけばいいのです。

第6章 あなたの言葉は、安心できる場所で少しずつ育っていく

ここまで、

「話すのが苦手」

ということについて考えてきました。

もしかすると、

この記事を読んでくださっているあなたも、

「うまく話せない自分」を変えたいと思っていたのかもしれません。

でも私は、

精神科作業療法士として、

そして一人の当事者として、

今、あなたに伝えたいことがあります。

話せるようになることだけが、ゴールではありません。

大切なのは、

安心して話せる場所や人と出会うこと。

その安心感があるからこそ、

人は少しずつ本来の自分を取り戻していけるのだと思います。

私自身も、

精神的な不調を経験した時、

「もっと上手に伝えられたら」

そう何度も思いました。

でも今振り返ると、

必要だったのは、

話し方を身につけることではありませんでした。

「この人になら話しても大丈夫」

そう思える相手との出会いでした。

安心できる相手がいると、

言葉は少しずつ増えていきます。

焦らなくても、

無理をしなくても、

「今日は少しだけ話せた。」

その積み重ねが、

いつの間にか大きな変化につながっていきます。

だから、

もし今、

話せないことで悩んでいるなら、

どうか自分を責めないでください。

話せない日があってもいい。

言葉が見つからない日があってもいい。

あなたの価値は、

話すことの上手さで決まるものではありません。

そして、

これだけは忘れないでほしいのです。

あなたの言葉を待ってくれている人は、きっといます。

その相手は、

家族かもしれません。

友人かもしれません。

職場の誰かかもしれません。

あるいは、

主治医や看護師、作業療法士など、

支援者かもしれません。

すぐに見つからなくても大丈夫です。

安心して話せる場所は、

探してもいいものです。

そして、

その場所に出会えた時、

あなたの言葉は、

少しずつ、

あなたらしく育っていくはずです。

おわりに

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

この記事を読んでいる方の中には、

「人と話すことが苦手。」

「うまく気持ちを伝えられない。」

そんな悩みを抱えながら毎日を過ごしている方もいるかもしれません。

そして、

「もっと話せるようにならなきゃ。」

「ちゃんと伝えられる人にならなきゃ。」

そう、自分を励ましながら頑張ってきた方もいるのではないでしょうか。

でも私は、

精神科作業療法士として多くの方と関わる中で、

そして私自身も精神的な不調を経験した一人として、

強く感じていることがあります。

それは、

人は、安心できる場所でこそ、本来の自分を少しずつ表現できるようになる

ということです。

話すことが苦手なのではなく、

安心して話せる場所が少なかっただけ。

そう考えると、

今まで話せなかった自分を、

少しだけ優しく見つめられるかもしれません。

だから、

無理に自分を変えようとしなくても大丈夫です。

少しずつ、

安心できる人と出会うこと。

少しずつ、

「この人には話してみようかな」と思える相手を見つけること。

その積み重ねが、

きっとあなたらしいコミュニケーションにつながっていきます。

話すことが得意な人になる必要はありません。

あなたらしい言葉で、

あなたらしいペースで、

伝えられれば、それで十分です。

そして、

もし今、

一人で抱え込んでいる気持ちがあるのなら、

どうか思い出してください。

あなたの言葉を、待ってくれている人はきっといます。

その一歩は、

決して大きな一歩でなくても構いません。

今日の記事が、

あなたにとって「安心して話せる場所」を探すきっかけになれば、とても嬉しく思います。

おまけ

あなたが「安心して話せる相手」を見つけるセルフワーク

話すことが苦手なのは、
決して悪いことではありません。

大切なのは、
「どんな人なら安心して話せるのか」
を知ることです。

少しだけ、自分の心を振り返ってみましょう。


□ 最近、「話しやすかった」と感じた相手はいましたか?

どんな人でしたか?

どんな雰囲気でしたか?

その時、あなたはどんな気持ちでしたか?


□ 「この人には話しにくい」と感じる相手には、どんな共通点がありますか?

例えば…

・急かされる

・否定されそう

・評価されそう

・緊張する

・正解を求められる

思いつくことを書いてみましょう。


□ あなたは、どんな時なら少し話しやすくなりますか?

例えば…

・一対一で話す時

・歩きながら話す時

・メッセージなら伝えやすい

・ゆっくり話を聞いてくれる人

・質問してくれる人

あなたに合うものを書いてみましょう。


□ 最近、人と話して「少し安心した」と感じた瞬間はありましたか?

短い会話でも構いません。

「ありがとう」

「お疲れさま」

そんな一言でも十分です。

思い出せることを書いてみましょう。


□ 今日からできそうな、小さな一歩はありますか?

例えば…

・挨拶だけしてみる

・ありがとうを伝えてみる

・一人だけ、安心できる人に話してみる

・「少し疲れています」と伝えてみる

無理のない一歩を書いてみましょう。


安心して話せる相手を見つけるセルフワーク

最後に

話すことが得意になる必要はありません。

大切なのは、

安心して話せる場所や人を、一つずつ見つけていくことです。

あなたのペースで大丈夫。

あなたの言葉には、

ちゃんと価値があるのです。

↓仕事の人間関係についてこちらもご覧ください↓🌱


いいなと思ったら応援しよう!