力を抜くという難題
合気道の稽古をしていると、「力を抜く」という言葉によく出会う。
実に簡単そうな言葉である。
「肩の力を抜いてください」
そう言われれば、すぐにできそうな気がする。
ところが、これがなかなか難しい。
力を抜こうと思った瞬間、もう別の力が入っている。
「抜かなければ」
「上手くやらなければ」
「相手に負けてはいけない」
人間というものは不思議なもので、力を抜くことにまで力を使う。
合気道は、相手を打ち負かすためだけの武道ではない。
相手を倒すよりも、相手と一緒に動くことを大切にする。
言ってみれば、人と仲良くするための稽古である。
しかし、仲良くするというのも簡単ではない。
相手に良く思われたい。
失敗したくない。
自分を守りたい。
そんな気持ちが強くなるほど、身体は固くなる。
相手に向かう手が、いつの間にか相手を押す手になる。
稽古を繰り返していると、ほんの一瞬だけ「ああ、これか」と思う時がある。
余計な力が抜けると、相手の動きが感じられる。
自分だけで頑張らなくても、自然に身体が動く。
不思議なものである。
これは仕事でも同じなのかもしれない。
不安な時ほど、人は力を込める。
失敗が怖い時ほど、前に出る足が重くなる。
けれど、前に進むために必要なのは、いつも強い力ではない。
ほんの少し、握る力を緩めること。
相手を見る余裕を取り戻すこと。
社会の中で人と関わる時も、必要なのは勝つことばかりではない。
余計な力を抜いた人の方が、周りと自然につながれることがある。
合気道では、何度も何度も力を抜く練習をする。
たぶん人生も同じなのだろう。
力を抜く。
簡単なようで、実に奥深い。
だから、今日も畳の上で稽古をするのである。
