68歳、まだ夢の途中【vol.10】
PYOL——Protect Your Only Life。この言葉が、すべての原点だった
vol.9 で「公開前夜」を書いて、開発秘話シリーズに一区切りをつけました。
今回からは少し視点を変えて、**なぜ僕が「人に寄り添うサービス」を作り続けるのか**、その原点の話をします。
AIファッションアプリの話ではなく、僕自身の話です。
でもこれが、kitemir.jp のすべての根っこにつながっている。
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## 「こころに寄り添うテクノロジー」
マインドシード研究所。
聞いたことがない人がほとんどだと思います。僕が運営している小さな会社です。
スローガンは **「Protect Your Only Life」**——略して **PYOL**。
「あなたのたった一度きりの人生を、守る。」
大げさだと思いますか? でも僕は本気でそう思って、この言葉を選びました。
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## 障害を持つ人と向き合った日々
マインドシードの最初のサービスは、**障害者職業訓練の支援ツール**でした。
「支援コンパスAI」という名前のサービスです。職業訓練の指導員が、訓練生一人ひとりの様子を記録する。その記録をAIが分析して、「この人には、こういう訓練が向いている」「この人は今、こういう壁にぶつかっている」ということを見える化する。
なぜこれを作ったのか。
現場を見たからです。
障害を持つ人が社会に出ようとする時、その道のりは想像以上に険しい。身体的な困難だけじゃない。「自分にはできない」という思い込み。周囲からの偏見。「障害者にはこの仕事は無理だ」という空気。
でもそんな中で、黙々と訓練を続ける人たちがいた。
毎日同じ作業を繰り返して、少しずつ上達して、指導員に「できるようになりましたね」と言われた時に、泣いた人がいた。
30代の男性でした。
「生まれてから初めて、何かができるって言われました」と。
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## エンジニアとして、何ができるか
その言葉が、僕の頭から離れなかった。
生まれてから一度も「できる」と言われなかった人がいる。
僕はアセンブラの時代から40年以上、「動いた!」を繰り返してきた。コンパイルが通って、テストが通って、本番で動いて——「できた」の連続だった。
それが当たり前だと思っていた。
でも、当たり前じゃない人がいる。
「できた」を一度も経験したことがない人がいる。
エンジニアとして僕ができることは、コードを書くことだ。美しいコードでも、最先端のコードでもない。**誰かの「できた」を増やすためのコード**だ。
支援コンパスAIは、そういう想いで作りました。
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## いじめの匿名通報——「こころポスト」
次に作ったのが、**PYOL こころポスト**。
学校や職場でのいじめやハラスメント。被害を受けている人は、声を上げられない。上げたら報復される。相談しても「大げさだ」と言われる。
だから匿名で、安全に通報できる仕組みを作った。
これも現場の声から始まっています。
ある教育機関の方から聞いた話が忘れられない。「いじめがあることは知っている。でも証拠がない。生徒が自分から言ってこない。どうすればいいかわからない」と。
テクノロジーで解決できる問題じゃないかもしれない。人間の心の問題だから。
でも、**声を上げる仕組み**は作れる。テクノロジーは「声を届ける手段」にはなれる。
こころポストを導入した学校で、最初の匿名通報が入った日のことを覚えています。
管理者の画面に1件の通報が表示された。内容は書きません。でもそれを見た先生が「あの子だったのか」と気づいた。声を上げられなかった子の声が、ようやく届いた。
あの瞬間のために、僕はコードを書いているんだと思いました。
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## 「定着コンパスAI」——新人が辞めない職場を作る
企業向けに作った「定着コンパスAI」は、新入社員が職場に馴染めているかをAIが見守るサービスです。
日本の新卒3年以内離職率は3割を超えている。若者が会社を辞める理由の多くは、「人間関係」だそうです。
仕事がきついからじゃない。**居場所がないから**辞める。
その兆候を、AIが早期に検知できないか。上司が気づかない「小さなSOS」を、データから読み取れないか。
これも、人に寄り添うテクノロジーの一つの形です。
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## なぜ68歳でファッションアプリを作ったのか
ここまで読んでくださった方は、気づいたかもしれません。
マインドシードのサービスはすべて、**「生き難さを抱えている人の味方になる」**という一本の軸でつながっている。
障害を持つ人が社会で活躍するための支援コンパス。
声を上げられない人のためのこころポスト。
居場所をなくした新人のための定着コンパス。
そして——**おしゃれを諦めかけた50〜70代の女性のためのkitemir.jp。**
笑われるかもしれません。「障害者支援」と「ファッションアプリ」を並べるなんて、と。
でも僕にとっては同じことなんです。
「自分には無理だ」と思い込んでいる人に、「そんなことないですよ」と伝えたい。テクノロジーの力を借りて。
妻がバーチャル試着で「これ、本当に私?」と驚いた顔。あれは、職業訓練で「できた」と泣いた30代の男性と、根っこでは同じなんです。
**「自分にも、こんなことができるんだ」**という発見。
その瞬間を生み出すために、僕はコードを書いている。アセンブラの時代も、Cの時代も、PHPの時代も、ずっとそうだった。
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## 若い世代に伝えたいこと
僕はこの記事を、若い人にも読んでほしいと思って書いています。
生き難い世の中だと思います。人間関係は複雑で、SNSでは比較され、将来は不透明で、「夢を持て」と言われても何を夢にすればいいかわからない。
僕が68年生きてきてわかったことを、一つだけ言わせてください。
**夢は最初から大きくなくていい。**
僕だって、「障害者支援プラットフォームを作るぞ!」と思ってマインドシードを始めたわけじゃない。目の前に困っている人がいて、「自分にできることはないか」と考えた。それだけです。
kitemir.jp も同じ。妻がクローゼットの前で悩んでいるのを見て、「AIなら何かできるかも」と思った。それだけ。
**目の前の「なんとかしたい」が、夢の正体です。**
大きなビジョンなんていらない。目の前に困っている人がいるなら、その人のために何かを作ればいい。それが回り回って、気づいたら自分の人生の軸になっている。
僕の場合は40年かけて、それが「こころに寄り添うテクノロジー」という言葉になった。
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## 68歳のチャンスが、あなたのチャンスでもある理由
「でも、68歳だからできるんでしょ。時間があるから」
そう思うかもしれません。確かに、定年退職して時間はある。
でも逆に聞きます。20代のあなたには、僕にはないものがある。
**体力。反射速度。新しいものへの吸収力。あと50年という時間。**
僕が1年でAIファッションアプリとECサイトとB2Bサービスを作れたのは、40年分のエンジニア経験とAIのおかげです。
あなたが同じことをやれば、もっと速くできる。もっと良いものが作れる。もっと遠くまで行ける。
68歳の僕にチャンスがあるなら、**あなたにはその何倍ものチャンスがある。**
これは励ましの言葉じゃなくて、エンジニアとしての冷静な計算です。
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## PYOL——たった一度きりの人生を
Protect Your Only Life。
あなたの人生は一度きりだ。
障害があっても。若くても。年を取っても。人間関係が辛くても。夢が見つからなくても。
その一度きりの人生を守るために、テクノロジーにできることがある。僕はそう信じて、コードを書き続けています。
68歳になっても、まだ作りたいものがある。まだ届けたい人がいる。
これが、僕が「まだ夢の途中」だと言える理由です。
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## 次回予告
vol.11 では、支援の現場で出会った人たちの話をもう少しします。
障害を持ちながら、社会の中で自分の居場所を作ろうとしている人たち。いじめに遭いながら、それでも学校に通い続けた子どもたち。
彼らから僕が教わったことは、どんな技術書よりも大切なことでした。
**「それでも前に進む」ということの意味を、彼らは体で知っていた。**
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*68歳、まだ夢の途中。この連載は、kitemir.jp 開発秘話シリーズの「第2章」として続きます。*
*マインドシード研究所: https://pyol.net/*
*Protect Your Only Life——こころに寄り添うテクノロジー*
