【英語の話44】 flea bites — エイズと間違われた話
LAで猫を飼っていた時期があった。
かわいい猫だった。ただ、その猫のせいで、家にノミが大量発生した。
不思議なことに、やられたのは私だけだった。
脚に、茶色い点のような跡がいくつもできた。
少し大きめの、しつこい跡だった。
ある日、別の用事で病院に行った。
ついでに、この脚も診てもらおうと思った。
診察台に座って、脚を見せた。
女性の医療スタッフが、立ったまま私の脚を見た。
「Wow…」
その一言と、その直後の表情で、私は全部わかった。
あ。エイズだと思われてる。
カポジ肉腫。エイズ患者に出ることがある、茶色い斑点。
私の脚の跡が、それに見えたのだと思う。
あの頃、エイズはまだ「よくわからない病気」だった。
マジック・ジョンソンがHIV陽性を公表したのが1991年。
Eazy-Eが感染を公表し、その約1ヶ月後に亡くなったのが1995年。
命を救う治療薬が登場したのは、その翌年、1996年のことだ。
Eazyはその薬に、一年届かなかった。
マジックが今も元気でいられるのは、
早期発見と、その後の治療薬の恩恵があったからだと思う。
医療の現場でさえ、まだ誰もが手探りだった時代。
感染への恐怖が、人の表情や手つきににじみ出てしまうのも、
無理のないことだったのかもしれない。
彼女は冷静だったが、脚への触り方が変わった。
触りたくないのに触らなければならない、という感じの、
微妙な距離感。
表情も、これはまずいかもしれない、という顔になっていた。
私は焦った。
違う。絶対違う。でも、なんて言えばいい。
その少し前、彼氏に教わっていた言葉が頭に浮かんだ。
蚊にやられた跡はmosquito bites。
じゃあノミは、flea bites。
「flea bites! flea bites だから!」
我ながら必死だったと思う。
でも、すぐには聞き入れてもらえなかった。
その後どうやって誤解が解けたのか、正直あまり覚えていない。
気づいたら何事もなく終わっていた。たぶん解けたのだと思う。
この「flea bites問題」は、その病院だけでは終わらなかった。
別の病院でも、同じ説明をした記憶がある。
どこだったかは全く覚えていないけれど、また言ったのだ。
flea bites だから、と。
そういえば、クレンショーに
マジック・ジョンソン・シアターがあった。
そのマジックの映画館で、私も一度映画を観たことがある。
黒人ならば、行って当然のような場所のように思えた。
そして、跡が完全に消えるまで、3年かかった。
その間、ミニスカートは履けなかった。
丈の短い洋服は、封印した。
LAにいながら、脚を出せなかった。
辛かった。ほんとうに、辛かった。
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