普通の二次創作作家は二次創作アカウントで政治の話をしないので諦めて欲しい話

最近、様子のおかしいマシュマロがくる。

私は某ジャンルで女性向け漫画を描いている。
数ヶ月前から、マシュマロに様子のおかしいメッセージが来るようになった。
最初は穏やかに、デモに参加しませんか、というお誘いだった。

デモ?なんでデモ?


縁遠い単語を調べてみたら、マロ主が言っているデモとはオタクがペンライト持って戦争反対を主張しながら国会を取り囲むというものらしい。

情報量が多すぎてよく分からなかった。


ペンライト振って全員のペンライトが七色に輝き出したら高市早苗が出てくる確定演出とかあるのだろうか。
そもそも今、日本は戦争をしていないので主張がよく分からない。
なのでスルーしていると、またマロが入った。

画面いっぱい、高市総理への悪口だった。

マロ主が私を高市早苗だと思い込んでいる可能性が浮上した。
筋骨隆々の男たちが宝探しをしながらドスケベセックスをする漫画を描いているオタクの正体が我が国の総理大臣なの、嫌すぎる。絶望のあまり国籍を捨てても何らおかしくない。
故に私はマロ主に迅速に、私が高市総理ではないことを伝えた。返事はなかった。
翌日マロを見た。
オタクが政治の話を避け、目を逸らしていることがいかに愚かであるかを延々と説かれた。

政治の話なんかするわけねーだろ。

原作に登場するキャラで原作に存在しないドスケベセックスを描いている人間が政治なんて語るわけない。
私が人様に開示したいのは推しのドスケベセックスのみであって、己の政治思想など一切合切開示する気はない。
なぜ数多いる同人女の中で、よりにもよって私に白羽の矢が立ったのか。

ひたすら無視を決め込んでいると、数日後、マロ主はついに私の作品と政治を絡めるという力技に出た。

『〇〇(攻め)が××(受け)の理不尽な要求を跳ね除け、力強く組み敷くあのシーンには、現政権の圧政に屈しない民衆の力強い意志を感じました。あなたも本当は作品を通して社会に訴えかけているのですよね?』

訴えかけてねえよ。ただの性欲だよ。

私がそのコマを描いている時に考えていたのは「ここの上腕二頭筋の筋、めちゃくちゃエッチに描けたな」ということだけだ。
そこに民衆の意志などミリも介入していない。
大体、権力に屈しない意志を表現するのに、なぜ全裸で四つん這いにならなければいけないんだ。我が国のデモはいつからそんな前衛的なスタイルになったんだ。
しかし、このマシュマロを読んだ直後、私はある恐ろしい事実に思い至った。

このマロ主、私の本……買ってるな?

マロ主が言及したあのシーンは、サンプルの範囲外だ。しかも本編の後半、私が己のニッチな性癖をこれでもかと煮詰めて叩きつけた、業の深いページである。
つまりこのマロ主は、国会前でペンライトを振る合間を縫って、わざわざイベント会場か通販で800円+送料を支払い、私のドスケベ性癖博覧会を隅々まで熟読した上で、そこに高邁な政治的メッセージを見出しているのだ。

アンタ、立派なオタクじゃないか。

政治から目を逸らすなと私に説教をしながら、お前は推しの腹筋から目を逸らさずにしっかりとページをめくっていたというのか。
その情熱と行動力と謎の深読みスキルがあるなら、国会を取り囲む前に一冊薄い本が描けるだろう。
私はそっと、マシュマロのNGワード設定に「高市早苗」「国会」「デモ」を追加した。
頼むから、私の本で革命を起こそうとするな。ただのドスケベセックスとして消費してくれ。
そもそも、オタクと政治の親和性について語るなら、私にはマロ主の件よりも前からずっと腹に据えかねていることがある。

それは公式から借りているキャラクターのアイコンで、己の政治思想を垂れ流すオタクの存在だ。


タイムラインをスクロールしていて、ふと目に飛び込んでくる推しの顔。
あ、この人の描く推し、解釈一致で最高だな、と思ってプロフィールに飛んだ瞬間、目に飛び込んでくる「〇〇法案絶対反対!」「現政権は恥を知れ!」のヘイトスピーチの数々。

やめてくれ。推しの顔面を被ってデモをするな。

百歩譲って、一個人のアカウントでどんな政治的思想を持とうが、何を呟こうが、それは憲法で保障された表現の自由だ。
しかし、なぜそのプロフィール画像に「公式のキャラクター」や「二次創作で描いた推しの顔」をセットしたまま喋るのか。狂気の沙汰である。
アイコンというものは、SNS上におけるその人の「顔」だ。

つまり、傍から見れば、魔法学校で日々の課題に追われているはずのファンタジー世界のヴィランモデルの生徒達や、刀を振り回して歴史を守っているはずのイケメンが、眉間に皺を寄せて「日本のインボイス制度の欠陥について」熱弁を振るっているように見えてしまうのだ。

お前のアイコンになっているそのキャラは、絶対にそんなこと言わない。

彼が怒るのは増税に対してではなく、自分が傷つけられた時だ。
彼が守りたいのは基本的人権ではなく、主の笑顔(あるいは受けの貞操)だ。
彼らは日本の税収や年金問題など1ミリも気にしていないし、そもそも義務教育すらまともに受けていない可能性だってある。

他人の褌で相撲を取るどころではない。

他人の生み出したキャラクターの口を無理やりこじ開け、腹話術の要領で己の政治的思想を叫ばせているという、極めてグロテスクな行為であることに気付いていないのだろうか。

それはもはや、原作への冒涜であり、愛するキャラクターに対する最悪のネガティブ・キャンペーンだ。
私たちはあくまで、公式が丹精込めて作り上げたキャラクターを「お借りして」遊ばせてもらっているだけの、しがない二次創作オタクである。
私たちがキャラクターの口を借りて言わせていいのは、「愛してる」か「殺してやる」か、「お前の全部を俺のモノにしたい」といった、IQが著しく低下した非日常のセリフだけなのだ。

政治を語り、国を憂い、社会に物申したいのなら、どうか初期アイコンの卵かあるいは自分が飼っている犬か猫の画像あたりでやってほしい。
推しの顔面で語っていいのは推しの尊さと、受けの腰の細さについてだけだ。
私はこれからも、推しの顔面を守るため、そして何より自分の正気を保つために、政治的アカウントを無言でミュートし続けながら、筋肉の陰影をどうやってエロく見せるかという己の政治(ポリシー)だけを貫いていく所存である。

閉会。


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