純文学|家族のために、土日は働かない
今日も、
お見送りメールをアーカイブする。

件名には、
選考結果のお知らせ、とあった。
開く前から、
だいたい分かっている。
最後まで読んで、
受信箱から消した。
洗濯物はもう畳んだ。
昼に使った皿も洗った。
時計を見ると、
まだ二時だった。
もう一度、
受信箱を開いた。
新しいメールは来ていなかった。
夫は、
ついに土日も働き始めた。
慣れない肉体労働で、
帰ってくると、
首の後ろまで汗で濡れている。
最近、
ため息が増えた。
「疲れた?」
そう聞くと、
「まあね」
とだけ言った。
夜になると、
腕や背中を掻いている。
処方された薬でも効かないと言う。
私はドラッグストアへ行った。
かゆみ止めの棚の前で、
塗り薬のクリームと
リキッドを見比べる。
値段は、そんなに変わらなかった。
何度か手に取って、
また棚へ戻した。
最後に、
リキッドの方をかごへ入れた。
それでも、
どちらがいいのか分からなくて、
夫の赤くなった首を思い出した。
毎日家にいる私が、
土日も働く夫の薬を選んでいる。
私は何をしているんだろう。
仕事を辞めた頃は、
まだ選べると思っていた。
これまでの経験が生かせる仕事。
この先につながる仕事。
そうではない求人は、
開いても、すぐに閉じた。
数か月たって、
閉じていた求人を、
もう一度開いた。
未経験歓迎。
接客経験不問。
制服貸与。
面接には、
前の仕事で着ていた
紺のジャケットを着ていった。
その店では、
制服を貸してもらえるらしい。
面接で、
土日は出られますか、と聞かれた。

「平日は大丈夫です。
土日は家族の時間にしたくて」
そう答えた。
土曜の朝くらい、
二人でコーヒーを飲みたかった。
言い終えてから、
これで落ちるかもしれない、
と思った。
夫は、
家族のために土日も働く。
私は、
家族のために土日は働かない。
数日後、
お見送りのメールが届いた。
土日に働けないことが、
理由だった。
薬を持って帰ると、
夫は「ありがとう」と言った。
それだけだった。
土日を守った私は、
何を守ったんだろう。

私が土曜日を守ろうとしていた頃、
夫は、土曜日を手放していた。
▶︎ 夫の正体|土曜日がなくなった
