父子のロードムービー北海道1983→2025⑫
●第十二章:久里浜駅、手帳の余白にて
8月15日、朝の久里浜駅。
旅の始点であり終点でもあるそのホームに降り立つ陽翔。
空は高く、風は少しだけ秋の匂いを含んでいた。
列車を降りると、駅舎の片隅にあるベンチに座り、リュックから「1983 北海道一周旅行」の手帳を取り出す。
最後のページには、こう書かれていた。
「夜行で帰宅。母と話す。夕食に冷やし中華。」
その一文を読んで、陽翔はふっと笑った。
42年前の父も、同じようにこの駅に降り、同じ空を見上げ、家路についたのだ。そして、何気ない日常へと帰っていった。
その旅が今の自分につながっている。
そのことが、何よりも奇跡のように思えた。
陽翔は手帳の最後の余白に、自分の文字でこう記した。
「2025年、父の旅を追い、久里浜に戻る。
今はただ、ありがとうと言いたい。
僕の人生も、ここからまた始まる。」
駅からの坂道をゆっくりと歩きながら、陽翔は思う。
旅はいつか終わる。
でも、記憶は終わらない。
父と息子。
42年の時を隔てた、二つの旅路。
それは、親から子へと手渡された1本のバトンだった。
そして──
そのバトンはこれからも誰かに渡っていくかもしれない。
新しい物語として、別の時代で、別の風景の中で。
陽翔は、家の玄関の前で立ち止まり、深く息を吸い込んだ。
「ただいま、父さん」
ドアを開ける音が、静かな町に優しく響いた。
【完】
※冒頭のイラストはAI生成されたものです。
