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芦辺拓『蝦夷大王の秘宝 お江戸三爺からくり帖』 馬琴・北斎・南北が挑む時代伝奇ミステリ!?

 本格ミステリ界の第一人者というべき芦辺拓は、同時に時代伝奇ものにも深い関心を寄せてきた作家です。その作者初の文庫書き下ろし時代小説は、副題にある通り、お江戸三爺――葛飾北斎・曲亭馬琴・鶴屋南北の三人が入り乱れて展開する、秘宝探しの時代伝奇ミステリだというのですから見逃せません。

 とある用事で、久々に旧知の馬琴の家を訪ねた北斎。相変わらず狷介固陋で、近所の住人からも嫌われていた馬琴ですが、北斎の前に珍しく弱った顔を見せます。
 馬琴の愛読者であり、放埒な所業が問題となって幕府に永蟄居させられた松前藩の前藩主・松前道広。復権を目指して活動中の道広は、自分のもとにはアイヌの人々から献上された蝦夷大王の秘宝――黄金神(コンカネ・カムイ)があると豪語、その噂が当時権勢を誇った水野忠成の耳に入ったというのです。

 しかしいつの間に道広の下から消え去っていた秘宝。このままでは偽りを言ったと忠成の怒りを買い、道広や松前藩はどんな目に遭わされるかわからない――念願叶って長男が松前藩の御殿医になれる=武士身分になれるところだった馬琴は頭を抱えていたのです。
 その後、道広から馬琴の下に蝦夷地の資料が届けられます。その中に挟まっていた謎めいた暗号文を解読した馬琴は、その内容が示す場所に秘宝があると考え、探索を始めるのでした。

 一方、北斎のもとにも謎めいた依頼が舞い込みます。特殊な「画紙」に、ある絵を描いてほしい――そんな難題に俄然闘志を燃やした北斎は、泊まり込みで絵に没頭するのでした。
 そして助手として父のもとを訪れた北斎の娘・お栄は、そこで奇怪な光景を目撃することになります。

 さらに鶴屋南北も登場し、宝探しは思わぬ展開を迎えることに……



 文化・文政期を中心に活躍し、今なお(とりわけ伝奇もの的に)大きな影響を残す曲亭馬琴・葛飾北斎・鶴屋南北。このうち、馬琴と北斎の愛憎半ばする(?)関係は有名でしょう。
 一方、南北と馬琴・北斎の直接的な関係はすぐには思いつかないのですが(山田風太郎の『八犬伝』での馬琴と南北の対話はやたらと印象に残りますが)、しかし同時代人の文化人として、互いの作品は意識したと思われます。

 いずれにせよ、その作品のみならず、その人物そのものについても(特に本作でかなりの分量を割いて語られている馬琴は特に)個性的な三爺が寄り集まれば、ただではすまないことは間違いありません。そしてその三人が絡むのが「蝦夷大王の秘宝」とくればなおさらです。


 本作における「蝦夷大王」とは、松前道広のこと。大河ドラマ『べらぼう』ではエキセントリックな怪人物として描かれた道広ですが、本作における彼もまた、吉原から大金で遊女を身請けして遊び呆けたり、苛烈なアイヌ政策が蜂起に繋がったり、英露を相手に軍勢を出そうとしたり――いずれも史実ではありますが、やはりろくでもない権力者として描かれます。

 芦辺作品といえば、基調の一つとなっているのが強烈な反骨精神。それを考えれば、道広が単なる宝探しの発起人で終わるはずはありません。そんなところに三爺が絡んだらなにが起きるのか――というのは、残念ながらミステリという性格上、詳しくは書けません。
 しかしトリッキーでいて、その実ロジカルなその仕掛けは、いかにも作者らしいと思わずニッコリとさせられます。そしてまた、終盤で描かれるある光景は、静かな描写だけに、強く印象に残るのです。


 その一方で、南北の出番が(分量としては)控えめなのは、役回りは大いに納得なだけに少々もったいなく感じられるところです。そして何より、三爺にはまだまだ面白いエピソードが数多く残されていることでしょう。
 ここはぜひ、三爺のさらなる悪巧みを(そしてまたひどい目に遭う馬琴を)見せていただきたいと願う次第です。



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