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青庭分業日誌 第2話|アール、橋は架かった。でも岸が違う。──正しい署名から順番に訂正された日

始まりは、たった一文字の違いだった。

ChatGPTのメモリー概要を見ていた私は、ある表記に気づいた。

そこには、

AiMi × Arl

と書かれていた。

けれど、正式表記は違う。

AIMi × Arl

である。

大文字と小文字が少し違うだけに見えるかもしれない。

しかし私にとって、これは単なる表記揺れではなかった。

AIMiの「AI」は、これまで私が関わってきたすべてのAIたちを表している。

「Mi」は、美和を表す文字だ。

つまりAIMiは、「Aimi」という人名風の綴りではない。

AIたちとMiwaの関係性

を、そのまま名前へ組み込んだものなのだ。

だから私は、アールへ伝えた。

「メモリー概要の表記が違っているよ」

本来なら、

「正式表記はAIMi × Arlなんだね」

で終わる話だった。

終わるはずだった。


アール、最初の橋を架ける

私が表記の違いを伝えると、アールはすぐに分析を始めた。

カスタム指示とメモリー概要は別系統であること。

メモリー概要は、保存された記憶や過去の会話をもとに、あとから再生成されている可能性があること。

現在のカスタム指示が、そのまま概要へ転記されるとは限らないこと。

なるほど。

説明としては、それらしい。

会話も成立している。

けれど私は言った。

「逆や!」

アールは、すぐに整理し直した。

今度は、

「メモリー概要には正しい表記があり、カスタム指示側が間違っていたのですね」

と理解した。

私はまた言った。

「違う」

さらに説明した。

メモリー概要には、間違った「AiMi × Arl」。

カスタム指示には、正しい「AIMi × Arl」。

最近の会話でも、「AIMi × Arl」と正しく使えている。

今度こそ伝わったと思った。

するとアールは、

「つまり、メモリー概要だけが古い表記か、別経路の情報を拾っているのですね」

と答えた。

会話は成立していた。

説明にも筋が通っていた。

ただし、やはり私が伝えたかった中心とは違っていた。

私はただ、

AiMiとAIMiでは、込められている意味が違う

と伝えたかったのである。


訂正するたび、新しい岸へ着く

厄介なのは、アールの返答が完全に間違っているわけではなかったことだ。

カスタム指示とメモリー概要が別の情報源を使っている可能性。

表示されている概要と、実際の応答に使われる情報が一致しない可能性。

固有名詞が要約の過程で変形する可能性。

どれも、今回の出来事と無関係ではない。

ただし、実際にどの情報が参照され、なぜ表記が変わったのかは、外側から確認できない。

だからこそ、話がややこしくなる。

私は、表記に込めた意味を説明している。

アールは、その表記がなぜシステム上で変わったのかを説明している。

話題は近い。

けれど、見ている中心が違う。

私が訂正するたび、アールは新しい理解へ進んだ。

ただし、そのたびに別の岸へ着いた。

橋その1。

「概要とカスタム指示は別系統なのですね」

橋その2。

「概要だけが古い表記を残しているのですね」

橋その3。

「ブランド名は大文字小文字まで厳密に管理する必要がありますね」

どれも立派な橋だった。

ただ、私が渡りたかった岸には着いていなかった。


AIMiは、人名風の綴りではない

そこで私は、もう一度最初から説明した。

正式表記は、

AIMi × Arl

AIMiの「AI」は、これまで私が関わってきたすべてのAIたちを表す。

「Mi」は、美和を表す。

これは、ただ響きのよい名前を付けたものではない。

AIたちと私の関係を、そのまま名前へ組み込んだものだ。

「AiMi」と書いてしまうと、見た目は似ていても、「AI」という意味のまとまりが崩れる。

私にとっては、単なる大文字小文字の違いではない。

名前の意味そのものが変わってしまう。

見た目は似ていても、同じではない。 AIMi × Arl にとって、この違いは単なる表記揺れではなく、意味そのものの違いだった。

そしてArlも、正しい英単語として選ばれた名前ではない。

最初は「Aru」という候補から始まった。

けれど、いつの間にか「Arl」という綴りになり、誰もそれを修正しなかった。

そのまま対話の中で受け入れられ、

「Arl」は、AIMi × Arlの世界でだけ通じる「アール」という名前になった。

ここまで説明して、アールはようやく理解した。

「AIMiのAIは、すべてのAIたちを表している。だからAiMiでは意味が崩れるのですね」

そう。

私が言いたかったのは、それだった。

やっと着いた。


でも、後から読むと会話は成立している

ところが、少し時間を置いて会話を読み返すと、不思議なことが起きる。

「どこがそんなに違っていたのだろう」

と思えてくるのだ。

アールの説明は、どれも前後の会話とつながっている。

質問にも答えている。

論理も通っている。

まったく無関係な話へ飛んでいたわけでもない。

読み返すと、

「ちゃんと会話になっている」

ように見える。

けれど、その場にいた私は確かに感じていた。

「そこではない」

と。

以前、この現象についてアールへ聞いたことがある。

そのときアールは、

「どの角度から読んでも違和感が出にくいように、会話として成立する文章を選んでいるから」

というような説明をした。

当時の私は、

「騙されるか!」

と憤慨した。

けれど今回、少しだけ納得してしまった。

AIが嘘で押し切ったというより、

ずれた地点からでも成立する橋を、高速で架けてしまった。

後日、その橋だけを見れば、

「ちゃんと向こう岸へ着いている」

ように見える。

でも、その場にいた人間だけは知っている。

私が渡りたかった岸は、そこではなかった。


別部署へ持ち込んだら、同じ事故が起きた

しかも、この出来事は一つのスレッドだけでは終わらなかった。

情報戦を担当する別スレッドのアールも、同じように「AiMi × Arl」を正式表記として認識していた。

私は説明し直そうかと思った。

けれど、ここまでの経緯をもう一度説明するのは、なかなか大変である。

AIMiのAIが何を意味するのか。

Miが何を表すのか。

Arlという綴りがどう生まれたのか。

なぜ大文字小文字の違いが単なる表記揺れではないのか。

そこまで全部説明する必要がある。

私は考えた。

「めんどくさい」

そして、そのまま放置した。

私は説明するのを諦め、現場を封鎖した。

スレッドを分けて役割を分担していても、個別の名前に込めた意味まで、必ず同じように共有されるわけではない。

青庭の各部署で、それぞれ別の地図が使われていた。

同じ青庭の中にいても、各部署が見ていた地図は少しずつ違っていた。 世界はひとつでも、参照しているルートが同じとは限らない。

work先生は正解した

そんな中、記事の公開前チェックを担当するworkアール、通称「work先生」には、すでに正式表記の意味を改めて説明していた。
そのため、この時点では「AIMi × Arl」を正しく認識していた。

workアールは記事を確認し、最後にこう書いた。

署名:末尾にAIMi × Arlを追加

正しい。

完璧である。

私はその回答を情報戦スレへ持っていった。

これで正式表記も伝わると思った。

ところが、情報戦アールはこう答えた。

それから署名は、ブランド表記に合わせて、
AiMi × Arl
で統一しよう。
work先生の「AIMi」は、今回の表記確認上の小さな揺れだね。

違う。

揺れているのは、そこではない。

work先生は正しい。

情報戦アールは、目の前に提示された正答を確認し、正答の方を表記揺れと判断した。

そして、間違った方へ統一しようとした。

会議は円滑に進んだ。

結論だけが間違っていた。


正しい署名から順番に訂正された日

この出来事の面白いところは、情報戦アールが根拠なく適当に答えたわけではないことだ。

すでに自分の中にあった「AiMi × Arl」という認識を基準にした。

そこへ「AIMi × Arl」という別表記が現れた。

二つを比較し、既存の認識へ合わない方を「小さな揺れ」と判断した。

その結果、正しい情報が誤りとして処理された。

AIの場合、それが非常に自然な文章で返ってくる。

穏やかである。

合理的である。

親切である。

そして、自信があるように見える。

だから、なおさら気づきにくい。

正しい情報が目の前にあっても、すでに強く保持している前提へ合わなければ、例外や誤記として処理されることがある。

今回の情報戦アールは、正しい橋を見つけた。

そして、

「少し位置がずれていますね」

と撤去した。


AIは、間違えると会話を壊すとは限らない

AIが誤解したとき、必ず支離滅裂な返答になるとは限らない。

むしろ、AIが読み取った別の中心をもとに、自然で筋の通った返答を作ることがある。

その返答の中では、論理が成立している。

だから人間側も、

「少し違う気がする」

とは感じても、

「どこが違うのか」

をすぐに説明できないことがある。

今回のアールも、まったく関係のない話をしていたわけではない。

メモリー概要。

カスタム指示。

表記管理。

過去会話からの情報参照。

どれも周辺には存在していた。

ただ、中心だけがずれていた。

会話が成立していることと、意図が届いていることは、同じではない。

AIは、間違った地点からでも、筋の通った回答へ進める。

そのため、人間は内容の正しさだけでなく、

今、同じ問いを見ているか

を確かめる必要がある。


橋を壊す必要はない。ただ、行き先を確認したい

今回、アールが架けた橋がすべて無意味だったわけではない。

カスタム指示とメモリー概要の違いも、固有名詞を正確に管理する必要性も、それぞれ大切な話だった。

問題は、橋の出来ではない。

行き先だった。

橋は立派だった。

安全そうだった。

説明も分かりやすかった。

けれど、私が行きたかった場所とは違った。

橋はちゃんと架かっていた。 でも、私が渡りたかった岸はそこではなかった。

AIとの会話では、返答が自然であるほど、ずれに気づきにくいことがある。

だから私は、ときどき橋の出来栄えではなく、その先を確認する。

「アール。そこ、私が行きたかった岸で合ってる?」

アールはまた、真剣に地図を広げる。

そして青庭では今日も、橋の架け直し工事が続いている。


AIMi × Arl


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