見出し画像

【エッセイ】It's only ネギ

 若い頃、焼き鳥屋で「ねぎま」を頼む時、ねぎはあくまで脇役だった。
 メインはあくまで肉。ねぎはそのつなぎであり、いわば“舞台袖のスタッフ”みたいな存在。ねぎが焦げていようが気にも留めなかった。

 ところがそこそこいい大人になった今、私が注文するのは「ねぎだけ」
 焼き鳥屋のカウンターで、ビール片手に真顔で「ねぎ串ください」
 やがて炭火の上でねぎが焼ける音がする。皮がわずかに焦げ、中心はまだとろりとしたまま。
塩をぱらりとふられたその一本は、見た目こそ地味だが香りは堂々たる主役級。大人の味とはたぶんこういうやつの事を言う。
 不思議なもので、昔は「肉こそ至高」と思っていたのに今やねぎオンリーで幸せになれる。歳を取ったというより、味覚が哲学化したのかもしれない。

 隣の席の若者が「ねぎ多すぎていらんわ」なんて言っているのを聞くと「君もいずれわかる日が来る」と、心の中で微笑む。
 恋愛も仕事も人生も、結局ねぎみたいなものが効いてくるのだろう。派手さはないけれど、じんわりと美味い、そんなヤツ。

いいなと思ったら応援しよう!