ヤモリさん、家の外からお守りください
朝起きて新聞を取りに1階へ下りた。玄関とは反対側にある勝手口の引き戸を開ける。
なんだか、暑さで空気がどんよりしている。
「ちょっと換気しよう」
そう思って、しばらく戸を開け放しておくことにした。
網戸にして、身支度などあれこれして、いつもの朝のルーティンを済ませる。
そろそろ閉めようと引き戸に手をかけた。
そして、勢いよく戸を滑らせた、その瞬間。
私の手の甲に、ヒャラヒャラッと、なんともいえない感触が走った。
「ヒッ!」
思わず声が出た。え、まさかゴ〇〇リ?
恐る恐る、引き戸の周辺を見渡してみる。
……いた。
壁際の床面にペタっとへばりついている。ヤモリだ。
どうやら私は、引き戸を閉める勢いで、ヤモリに触れてしまったらしい。
「イヤ〜〜〜!」
朝っぱらから、ヤモリが私の手の甲を走ったー!
しばし、ヤモリを見つめて固まる。
向こうもじーっとしている。
「どうしよう……」
体長は10センチくらい?色は薄いベージュっぽい。
よく見ると、つぶらな目をしていて、ちょっとわいいかも(笑)
いやいや、かわいいかどうかの問題ではない。ここにいてもらっては困る。
そこで、スマホを取り出し、「ヤモリ 出た」と検索した。
ヤモリは家を守る縁起の良い益獣と言われているらしい。
害虫を食べてくれるうえに、「家を守ってくれる存在」として、昔から大切にされているという。
なので、家の中にいるヤモリを「安全に無傷でご退出いただく」方法がいくつか書かれていた。
そのひとつが、「新聞紙で優しく誘導」という手段。
なるほど。ちょうど近くにあった新聞で、そぉーっと誘導し、なんとか外へ出て行ってもらうことに成功した。
「よかった~」
ところが、縁起がいいと知ると現金なもので、ヤモリについてさらに検索してみた。
・ヤモリがいる家は栄える
・火事から家を守る
・富の象徴
などなど。
「むむ……」
さっきまで「早く出て行って!」と思っていたのが、急に惜しくなってきた。
「しまった!まだ近くにいるかな~」
慌てて勝手口の引き戸を開けてみる。でも、もうヤモリの姿はなかった。
そりゃそうだ。さっき私が新聞で丁寧にお見送りしたのだから。
「いやいや、家の中にいられても無理だから」と自分に言い聞かせる。
その反面、「富の象徴を追い出しちゃったな」という後悔の気持ちも残った。
朝からヤモリに驚かされ、ヤモリを追い出し、そのあとでご利益を知って惜しくなる。
そんな欲深い私は、
『ヤモリさん、外にいてくれるのは構いませんので、どうか家をお守りください』
と勝手なことを祈った。
