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乱読!華文ミステリ/第1回:陳浩基『ディオゲネス変奏曲』『13・67』

登場人物一覧
名取:4年生。
瀬川:1年生。

【注】
この記事における作家様の名前はすべて敬称略とさせていただきますので、ご了承ください。
また、途中で作品の真相について触れる場合は、その範囲を明示しますので、未読の方はご注意ください。


はじめに

名取
それでは、note新企画「乱読!華文ミステリ」の第1回を始めます。
北大推理研の名取です。この企画を一緒に進めてくれるのは……。

瀬川
同じく推理研1年の瀬川です。よろしくお願いします。

名取
お願いします~!
この企画はタイトル通り、華文ミステリを色々読んでいこう!という企画です。
現時点では第3回までは詳細を決めているんだけど、全6冊で乱読と言っていいものか、という感じがする!
なので、長期連載みたいになるかは置いておくとしても、それなりにいっぱいやっていこうと思います。

瀬川
いっぱいやっていきましょう。

名取
というわけで、企画について詳しく説明します!
この企画はタイトル通り、華文ミステリを読んでいくという趣旨の企画です。
選者の趣味でセレクトが本格寄りになってしまうのは許してください!

瀬川
無秩序に読んでいくのも大変なので、しばらくは「1回毎に作家を決め、2冊ずつ読んでいく」という形式を取ります。
ただ、邦訳が1作しかない作家などは、抱き合わせで2人にすることがあります。

名取
で、今回取り上げる作家は陳浩基
華文ミステリと言えばまずはこの人、って感じの作家ですね。

瀬川
扱う作品は、『13・67』『ディオゲネス変奏曲』です。


『ディオゲネス変奏曲』

雨の大学教室で、学生たちにまぎれこんだ謎の人物「X」を捜す推理合戦のスリリングな顛末を描いた「見えないX」、台湾推理作家協会賞最終候補となった手に汗握るサスペンス「藍を見つめる藍」など17の傑作ミステリ短篇を収録。陳浩基デビュー10周年記念作品

https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000211942/

瀬川
『ディオゲネス変奏曲』は、ミステリ、SF、ホラーなどのマルチジャンルな短編集です。
あとは、掌編がいくつかありますね。前後のストーリーがあるんだろうとは思うんですけど、本当に想像することしかできない。

名取
物語というより、一場面みたいな感じの雰囲気だよね。
それはそれで楽しさがありつつ、ちょっと物足りない気はしなくはない。

瀬川
書かれていない部分が気になっちゃいますよね。

名取
そんな感じで、ジャンルがバラバラのものが全17編。全体的に短い作品ばかりです。

瀬川
一番長いのが「見えないX」とかですかね。これが50ページくらい。

名取
次は40ページぐらいの「藍を見つめる藍」かな?

瀬川
「作家デビュー殺人事件」の方が長かったです。48ページでした。

名取
これだけあるとどう話せばいいのか難しい。とりあえず、最初から順番にやっていきましょうか。

(編集注:ネタバレを避けるため、順番を前後させています)

「藍を見つめる藍」

名取
この作品、いいですよね。

瀬川
まずタイトルが好きです。
「青は藍より出でて藍より青し」ってことわざがあるじゃないですか。あれみたいでかっこいいので、結構気に入っています。
でも、ちょっと気持ち悪い部分もありますね。

名取
見つめるって単語自体がちょっとキモいかも。

瀬川
キモかったですね。主人公がすごいスカしてる感じがあって。無気力系で、一歩引いていて、ずっと全人類を冷笑してるみたいな。

名取
スカスカな人間ってやつですよね。最悪。それでそれなりに上手くやってるのが腹立つな。
中国だと、そういう無気力気味な人が今多くて、深刻な社会問題になっていると聞きました。

瀬川
陳浩基に限らず華文ミステリを読んでいると、そういう諦めムードみたいなものを感じることが多い気がします。
陸秋槎とか紫金陳とかの作品にも、社会への諦念みたいなものが見えたりします。そういう社会的な背景が伺えて興味深いです。
で、この作品は結構胸糞ですよね。

名取
一応サスペンスには分類されるけど、ミステリ的な驚きもありつつ。細かい部分では異文化を感じるけど、全体的な読み味は日本のミステリとそう変わらない気はしました。
でもやっぱり、描写が気持ち悪かったな。

瀬川
序盤の方に出てくる裏サイトのやり取り、結構生々しいですよね。
「行け行け」みたいにはやし立てる感じとか。

名取
めっちゃ嫌な感じだよね。
俺的に一番嫌だったのは、やってもない犯罪についてアドバイスする人たち。殺人する時はこうすると上手くいきますよ〜みたいなやつね。
その薄っぺらい上に悪趣味な感じが……。

瀬川
確かにそうですね。
でも、この短編集の中だと一番好きかもです。

名取
うんうん。俺も印象に残りました。

瀬川
殊能将之『ハサミ男』っぽいなって思いました。

名取
確かに。
ハサミ男は成績フェチで、こいつは深掘りフェチだ。
いやー、キモい奴らがいっぱいだ、現代は。

「作家デビュー殺人事件」

名取
これいいですねー。本格だし。
まず純粋に、密室トリックは割と好みです。劇団サークルという状況も上手く活かしてるし。

瀬川
結構メタなんですよね。推理小説の存在に言及するタイプの。
メインの殺人を一つの謎として据えつつ、別の角度からひねりを加えてくるところも、陳浩基らしさが上手く決まっていますね。

名取
それも含めてかなり新本格の香りがしました。
まあ、純粋に面白い作品だから、逆にあんまり語るところがないね(笑)

瀬川
ですね。

名取
ぜひ手に取って読んでください、ということで。

「カーラ星第九号事件」「悪魔団殺(怪)人事件」

名取
俺はこの2作品、結構好きです。

瀬川
う~ん、僕はちょっとハマらなかったですね……。

名取
なるほど~。
この2作って「探偵が謎を解くこと」自体をまた一つのギミックに落とし込んでいて、そういう趣向が結構好きなんですよね。半分ひねくれてるみたいな。

瀬川
なるほど、そういう捉え方もできるんですね。

名取
「悪魔団~」の方は、怪人が死んだら美味しくなるんだ~って思った。鮭の怪人が死んだらサーモン丼になってくれるのかな。

瀬川
それ食べたいですか? 本当に?

「珈琲と煙草」

名取
これはかなり面白かった! 主人公がめちゃくちゃ混乱していて、会話や展開が楽しすぎる。

瀬川
そうですね、ドタバタギャグになっていて僕も結構好きです。

名取
『世にも奇妙な物語』とかに合いそう。

瀬川
主人公は芸人とかがやるとはまり役かもですね。

名取
ね。とことん滑稽にやってほしい。

「見えないX」

名取
最後の「見えないX」!

瀬川
この作品は遊び心に溢れてますよね。好きな人結構多そう。

名取
ミステリマインドたっぷりですねー。
個人的には、ミステリのパロディ的な感じの楽しみ方ができるな〜と思いました。あるあるのギミックが色々入ってますし。

瀬川
確かに。途中の推理合戦が結構面白い効果を産んでいますよね。
関係ないんですけど、僕が1つ気になったのが、金髪の女の人が「私は倖田來未って呼んで」って言った時の主人公の地の文が……。

名取
ヤバいヤバいヤバいヤバい。そんなこと書いちゃっていいんだ!

瀬川
日本の小説だと、そもそも固有名詞自体がまず出ないですよね。

名取
ドラマとかでも、帝都大学とかそういう架空の名称をつけるよね。韓国ドラマを前見ていたらばっちり「ソウル大学」とか出てきて、ああ、そういう文化圏なんだ、って思いました。

瀬川
にしても海超えてるからってこんな事を……。
そもそも、主人公が結構辛口なのが面白いですよね。
全員にあだ名つけるところなんか、「ハゲ」「濡れネズミ」とか。

名取
あの下りはちょっと下品だけど、まあ面白かった。

瀬川
勝手な想像なんですけど、この作品は作者の陳浩基が主人公にかなり自己投影しているような気がしました。

名取
なるほど〜。そんな気もするかも。
そんなこんなで面白かったです。まだ読んでない人は、ぜひ謎にチャレンジしてほしい。

瀬川
僕は普通に当てられなかったです。

名取
俺も無理でした。

(ここから『ディオゲネス変奏曲』内の短編の展開に触れる箇所があります)

10

0!

「頭頂」

瀬川
「頭頂」は象徴的というか、何かを暗示しているのかな?って考えちゃう作品ですね。

名取
ジャンルはホラーになるのかな? 頭の上に出てくるオブジェクトがいちいち気持ち悪い。

瀬川
でも、概念とかオチとかは結構王道なんですよね。

名取
うんうん。
グロテスクでキモい物体がその人物の内面の表出で、それに対してみんなが沈黙しているっていうのが現代の社会なんだよね、っていう。
分かりやすいけど若干考えられるところもあって、短いながらも楽しかったです。

瀬川
そうですね、皮肉的な意図が込められている気がします。僕も結構好きです。

名取
官僚とか政治家の物体がめっちゃデカいの、具体的なイメージを思い浮かべたらかなりグロテスクだよね。

瀬川
映像化しても面白そうです。15分ぐらいの短編アニメとかで。

名取
『パプリカ』の今敏で観たかったかも。

瀬川
今敏観たことないです。今度観ようかな。

名取
ぜひぜひ。

「時は金なり」

名取
俺はこの作品、オチが秀逸で結構好きです。

瀬川
主人公自身はかなり悲観的なんですけど、読んでる側としては結構コミカルな感じで読みました。
『ドラえもん』で、のび太が最後に「もうコリゴリだよ〜」って泣いて終わる、トホホエンドみたいな。

名取
確かに(笑)
俺は、最後の「一万字の短編小説に一人の人生をまとめるみたいでつまらない」っていう表現が、とっても上手いと思いました。

瀬川
まあ、メタですよね。

名取
この作品自体が一万五千字ぐらいだと思うんですよね。日本語への翻訳って文字数が増えるだろうから、そこを踏まえると原文だとマジで一万字とかなんじゃないかな、多分。

(24字/行 × 17行/段 × 2段/ページ × 22ページ=17952字)

瀬川
陳浩基は、そういう読者への仕掛けみたいなの好きそうですよね。叙述トリックを使ってくるのもその表れだったり。

名取
うんうん。

瀬川
設定自体はどうなんですかね。SFはあんまり読んだことがないんですけど、時間を売買すること自体は特別変わったことはしていないように思えます。
ただ、そこからのストーリー展開が上手な印象ですね。

名取
俺もそういう機会があったら、普通に売っちゃいそう。

瀬川
僕も多分売ってると思います。

名取
ね〜。でも売っちゃったら、本を読んでも感動だけ忘れちゃうというか、実感がわかないのか。記憶があるのが逆に悲しいかも。
だってこの間に綾辻行人『十角館の殺人』とか読んだら、悲しい事になってしまう。

瀬川
ネタだけ割って知ってるみたいな。

名取
そう考えると、売るのも考えもんだな〜。
で、こういうのってどうしても売るほうだけに目が向きがちだけど、買うっていう視点はあんまり見たことないかもしれない。
楽しい時間を増やすことも実はできるのか。

瀬川
「日が沈む一瞬を三十分に引き伸ばす」とかやってましたね。

名取
未来の娯楽感がある。

瀬川
でも、それはそれでちょっとどうなんだろうって思いますけどね。

名取
傍から見たら超高速プロポーズだしね。
で、逆に最期の時は使わないっていう。

瀬川
逆に、ここはなんで使わないんだろうと思いました。

名取
この作品も映像化とか向いてそうですよね。
さっきの「頭頂」はちょっとあまりにもCG過ぎるけど、これは実写ドラマとかでも楽しそうですよね。それこそ『世にも奇妙な物語』の後味がいいタイプの物語っぽい。

瀬川
最後も、「一万字の短編小説」じゃなくて「二十分のドラマ」になったりして。

名取
おお!

「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」

瀬川
僕はこの作品、結構好きですね。気持ち悪い感じが上手い。
でも一つだけ文句をつけるなら、新聞記事で終わったほうが良かったですね。最後の目玉の下りはいらなかったかも。

名取
目玉八個くり抜いてるって急に出てきてびっくりしちゃった。八個って。

瀬川
我孫子武丸『殺戮にいたる病』ってこんな感じなんでしたっけ?

名取
概ねこんな感じではあったけど、これのゲスLV100みたいな感じ。

(ネタバレ終了)

名取
瀬川君はどの作品が好きでした?

瀬川
そうですね、「青を見つめる青」が一番好きかなと。で、二番目は「見えないX」です。

名取
おー。俺が一番好きなのは「作家デビュー殺人事件」だなー。で、そのあと「見えないX」かなと思ったけど、なんか楽しかったという点で「珈琲と煙草」を推します!

瀬川
なるほど。

名取
という感じです!
まあ、そんな難しい作品ではないし、バラエティが豊かな作品集なので、まだ読んでいない人は気軽に読んでみてください!

瀬川
つまみ食い読みがしやすい短編集だと思います。

名取
そう! 別にどこから読んでもいいし。
なので皆さん気軽に読みましょう。まあポケミスってあんまり気軽に入手できるレーベルではないですが。
というか、これが各種ミステリランキングで高順位なの、よく考えればちょっと変だよな。

瀬川
良い短編集ですけど、評価はしにくいですよね。


『13・67』

現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。
本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163907154

名取
じゃあ続いて、『13・67』
これはあれですね。めっちゃ雑に言うと、警察小説✕本格ミステリ。最近流行ってますよね。

瀬川
あー。確かに。

名取
まあ、俺がパッと思い浮かぶのは米澤穂信『可燃物』櫻田智也『失われた貌』だから、『13・67』より後の作品なんだけどね。

瀬川
まあ、これより前にも本格要素の強い警察小説はありますからね。

名取
でも最近は警察小説が熱い!らしい! 俺はまだ読めてないけど。
伏尾美紀『百年の時効』とか話題になってたよね。

瀬川
あれも読みたいですね。

名取
本当に。
話を『13・67』に戻すと、舞台が中国への返還を挟んだ香港ということで。クワンとローの逆年代記。

瀬川
結構変わった構成ですよね。自分はそういう単語は今まで聞いたことなかったです。

名取
俺も初耳です。

瀬川
後から回想する作品は読んだことありますけど、本当に時系列が遡っていくっていうのは、初めて読みました。

名取
あと、お恥ずかしい話なんですが、ぶっちゃけ俺は深読みが得意ではないので、逆年代記によってどういう効果が……みたいな話はできません!

瀬川
まあ、普通に連作短編集として伏線が回収されるぐらいに受け取りました。

名取
そしてこれもお恥ずかしい話なんですが、香港の司法事情の変遷について、何かを語れるかと言われるとちょっと、難しい。こちらの知識不足で。

瀬川
確かに、僕も全然知識がない。

名取
それでもリーガルミステリとして大変興味深くはありました。

瀬川
日本の警察の正義とまた別の正義っていう感じで、国が違うと結構変わるんだなっていうのが面白かったです。

名取
警察組織のあり方みたいなのは、その国について知る上で注目すべきポイントなのかもしれない。

(編集注:ネタバレを避けるため、順番を前後させています)

「黒と白の間の真実」

瀬川
具体的に各話について言及していきますね。第一話なんですけど、僕は結構好きですね。

名取
俺もかなり気に入っています。
事ある度に言っている気がするんですけど、なんか麻耶雄嵩っぽい。探偵っていう存在がギミックというか、仕掛けの一種として機能していて面白いです。

瀬川
ですね。事件の犯人の企みと、ロー警部の仕掛けが交差するのが見どころだと感じました。

名取
とにかくロー警部がすごい! とっても上手い使い方をしているなと思いました。

瀬川
思いました。こういう使い方するんだっていう。

名取
探偵役がYESかNOしかしゃべらないっていう設定は、国内では井上悠宇『不実在探偵の推理』っていう連作短編集があって、それを思い出しました。使い方は結構違うんだけど。

瀬川
なんとなくSFっぽいですよね、これだけ。
想像ですが、逆年代記っていう趣向を強調させるために、最新の事件をハイテクな感じにしたんですかね。
ちなみに僕はロー警部がかっこよくて好きです。クワンとの関係性も良い。

名取
本当にそう!!!!

瀬川
あとは、逆年代記なので、ローがどんどん若々しくなってくっていうのが、面白かったですね。

名取
ピチピチの新米のローとか結構可愛かったような。

瀬川
面白かったですね。後に出てくる描写ですけど、ローがなんかバイトじゃないですけど飲食店で働いてて、おいちょっと新入り何やってんだ、みたいに叱られるところとか。

名取
ね。

「クワンのいちばん長い日」

瀬川
これは凶悪犯の脱走と硫酸投下事件が絡んで……という事件ですね。

名取
ちょっと複雑だけど、俺は結構俺好き。途中までは正直ちょっと長いよーって感じだったけど。

瀬川
僕も最後の追い詰めるところがかなり好きですね。

名取
推理パートが気持ち良すぎる! ロジカル! それに、この犯罪計画はしびれるね。

瀬川
要所要所の理屈付けが上手いな〜と思いました。
ここらへんで確か、クワンの正義感とかも少し見えてくる感じがあったような……。
ローはあんまり活躍しませんでしたよね。

名取
そうだね、まあ新入りって感じだったよね。

瀬川
ラストは非常にほっこりしました。
警察小説って仲良くしているイメージが全然ないので。ずっとギスギスしていて(笑)

名取
確かに。絆!みたいなのもギスギスの上にある。

瀬川
実際はどうなんでしょうね。こう、出世出世みたいな感じじゃないと願ってるんですが……。

「テミスの天秤」

瀬川
これは、テロで銃撃戦が……という話ですね。
一番警察のアクション要素が楽しめるやつです。

名取
これも結構いいミステリだったと思います。ロジックあり、意外性あり、考えさせる要素あり。

瀬川
僕も好きです。犯人のやってることのヤバさが、ヤバすぎてすごい好きですね。

名取
肝が座ってるよなあ。

瀬川
ここまでやるかっていう。
あとさっきも話したんですけど、ローがバイトみたいな感じでご飯よそって。

名取
あ、それ可愛い。

瀬川
可愛いですよね。
潜入みたいな感じのシーンでドタバタするのが結構面白かったです。

名取
ローもおそらく、あの中では新入りとはいえ、警察に入ってそれなりに長く、それなりに有能なんだろうけど、店ではワタワタしちゃうみたいな。可愛いくてよかった。
でもそのあとの事件の悲惨さとのギャップがヤバすぎ!

「借りた時間に」(ネタバレなし編)

名取
最後、『借りた時間に』。これは一番社会派っぽいタイムリミットサスペンス的なやつ。
個人的にはこれが読んでいて一番ドキドキしたかも。『テミスの天秤』もだけど、アクション的な見せ場が多くて、普通に楽しかった。

瀬川
ここから、というかちょっと前の「借りた場所に」あたりから、ローが登場しなくなってくるんですよね。
そこらへんは「はあ、ローいないのか」っていう、ちょっと残念な気持ち。

名取
悲しいよね。

瀬川
ちょっと悲しい気持ちもありつつ、このバディもいいなって思いますね。主人公がかなりの切れ者ですよね。

名取
しかもかなりズケズケものを言っていていい。生意気(笑)しきりに「え、俺無給なんですけど」とか言っていて。
個人的には、なんかいっぱい料理をもらえるシーンが面白かった。なんか10個ぐらいもらっちゃって、そんな要らん要らんみたいな。

瀬川
確かに。

名取
でも結局3箱って結構食ってるなって感じがしたけど。おいしそうだったなー。

(続きはネタバレありパートで!)

(ここから『13・67』内の短編の展開に触れる箇所があります)

10

0!

「任侠のジレンマ」

名取
これ正直、俺はあんまりだったな。

瀬川
僕もそんなにです。
連作短編集の悪いところなんですけれど、人間関係が毎回リセットされるので、状況を頭に入れるのに時間がかかるんですよね。特にこの構成だとなおさら。そして最後に真相が明かされても、ああ……みたいな。

名取
個人的には、犯罪だと思ったら実は単なる仕掛けでしたみたいなのは、あんまり好きじゃない。

瀬川
操りみたいなやつですか?

名取
実際はそう見せてるだけだよみたいなオチは、どれだけうまく決めていたとしても若干拍子抜けしてしまう。

瀬川
まあ確かに、ちょっとずるいですよね。

名取
しかもやりやすいし。

瀬川
ああー。なんでもありですもんね。

名取
ミステリとしてオチがついてしまうから、個人的にはあまり好きではないタイプの真相だったな。

瀬川
まあ、これは元気なクワンが見れたのでよしということで。

名取
実はクワンが裏で操りをしていて……みたいなところ自体は、割と嫌いではないね。そういう搦め手的な方法も使う警察官ということで。

瀬川
クワンの人物像だとか、ローとクワンの仲の良さ?みたいなところを説明している感じですね。
クワンがケチな人間だって言うのが明かされたり。人間らしくていいですよね。

名取
うんうん。

「借りた場所に」

名取
これは誘拐ものだったね。

瀬川
扱う犯罪のジャンルが色々あって、そこもまた面白いですよね。
全部殺人事件とかではなく。

名取
正直、『13・67』自体が読みやすい作品ではなかったんだけど、そういう意味では飽きるとかではなかったな。

瀬川
そうですね、疲れるっていうだけで。
僕はこの作品、誘拐ならではの緊迫感が感じられてすごく良かったです。
途中でかなり重大な出来事があるんですけど、その時かなり「うわ嫌だやめてー」ってなっちゃって。サスペンスとしてめっちゃうまいですよね。

名取
そこは上手かったです。
個人的には、誘拐ミステリには緊迫感もだけど犯人との攻防みたいなのも結構期待してしまうので、その点ではあまり好みのタイプではなかった。

瀬川
なるほど。

名取
個人的にはそこらへんは阿津川辰海『録音された誘拐』がかなり好きです。

瀬川
なんか聞いたことあるような……。

名取
なんと探偵が誘拐されてしまうんですけど、犯人がめちゃくちゃ演出家みたいな性格で、大量にいろいろと仕掛けてくるんですよね。それを耳の良い探偵助手が頑張って……みたいな。面白いです。

瀬川
ミステリの誘拐あるあるなんですけど、だいたい狂言。狂言はやめてくれーって思いながら読んでました。

名取
え、でもこれって……。

瀬川
まあ、ほぼ狂言みたいなものですよね。正直やめて欲しかった。

名取
ちょっとね……。

瀬川
誘拐って一種の完全犯罪っていうか、不可能犯罪に近いところがあると勝手に思ってるので、そこを完璧にやる誘拐っていうのを読みたいです。

名取
おれはその点では岡嶋二人『99%の誘拐』が大好きなんですけど、読みました?

瀬川
読んでますよ!

名取
あれめっちゃおもろくない?

瀬川
あれ一番好き。

名取
緊迫感ありつつ、最後に驚きもありつつ。とにかく誘拐中の描写がいいし、ちゃんと誘拐してる。

瀬川
ちゃんと誘拐してるんですよね。完全犯罪ですよね。

名取
あれめっちゃ面白かった。あれいいよな。
話を『借りた場所に』に戻すと、結局真相もあんまり新鮮味がなかったような……。多分類例はいろいろありそうだけど、個人的にはホームズのあの……。

瀬川
あ、僕ホームズはほとんど読んだことないです。

名取
あ、それはまずいかも。やめとく。やめとこう。
まあとにかく、正直少し既視感を感じてしまったという感じです。

瀬川
いつか出会ったら「これか!」となるかも。

「借りた時間に」(ネタバレあり編)

瀬川
名取さんはこの主人公がローだと思ってました?

名取
そう思うよねこれ!
本当に恥ずかしい話なんですが、ラストで明らかに伏線回収っぽく名前が出てきた男……なんか見覚えはあるけど全然わかんなくって……これ誰だっけ……。

瀬川
この人はあれですね、第一話の事件の被害者です。

名取
あ!!!!!!!!!! なるほど!!!!!!!!!
という感じで、まじで全然人間を覚えていなかったので、もう俺が普通に読み違えたのかと思っていた。

瀬川
さすがに騙しに来ている気がします。
主人公像もケチなクワンとかと結びつき易いですよね。

名取
ミスリードだ。狙ってるかわからないけど。

瀬川
逆年代記っていう手法を上手く活かしていて面白いなと思いました。

名取
いやー面白い。すごい。

瀬川
でも、この主人公が後に結構あくどいことをするっていうのは、あんまり想像できないなって思いましたね。

名取
あー、確かに。

瀬川
そこらへんは納得いかないって言うとあれですけど、もう少し説明が欲しかったなとも思ったり。

名取
うーん、まあ人って変わるもんなのかもしれないね。

瀬川
そうですね、まあ、クワンがあんなに変わったように。対比みたいな感じなんですかね。さっきやった『ディオゲネス変奏曲』の「時は金なり」みたいな、対照的な二人の人生を見たような気がします。

(ネタバレ終了)

名取
面白かったけど、読むの疲れたーーー!!! かなり大変でした。

瀬川
人間関係がちょっと把握しにくいですよね。だいぶ力を入れて読まないとわからなくなる。

名取
いやー、難しかったね。

瀬川
時系列が飛び飛びなのもあって、登場人物が普通に多いんですよね。
事件関係者はもちろんですけど、警察側もその時その時でメンバーが変わるから大変。

名取
面白かったけど、一気読みはかなりしんどいかも! 途中からはほかの作品と並行しながら1日1編ペースで読んでいて、そのぐらいだとちょうどよかったです。
というか、これ本格なんですよね! 読むまで本格だと思ってなくて、途中でびっくりして、最後にランキング確認したら本ミス1位かい。納得です。


おわりに

名取
という感じです! 二作ともめちゃくちゃ面白かったです! 特に『13・67』!

瀬川
僕もこの機会に読めてよかったです。

名取
では次回予告!
次回取り扱う作家は陸秋槎! 課題本は『元年春之祭』『雪が白いとき、かつそのときに限り』の二冊ですね。

瀬川
楽しみです! 言いたいことがいっぱいある。

名取
瀬川君は新歓の自己紹介で好きな作家に陸収差を挙げるくらいなので、期待です。
『元年春之祭』まだ読んでないので読まなきゃ……。

瀬川
ああ、結構重いかもしれないです。

名取
頑張ります。
そして別企画! 告知してから大変お待たせしている(ごめんなさい!!!)対談第9回も鋭意編集中です! 次回はそっちになる……はず!!
課題本は積木鏡介『歪んだ創世記』岡崎隼人『少女は踊る暗い腹の中踊る』です。変な課題本で数名をザワつかせてしまったようですみません!大学生がただただ管を巻いてるだけです。

名取
というわけで、以上です!お疲れさまでした~~。またね。

瀬川
さようなら~。

(12月某日 札幌市内にて)
書き起こし・編集:名取


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