AIスピーカーが反抗した①
① 家電革命前夜
木村陽介 四十五歳。
都内の中堅企業に勤める、どこにでもいる真面目なサラリーマン。
趣味はポイントカードの整理。特技は、家電の説明書を “最初から最後まで読むこと”。
そんな陽介が、ある日ついに買った。
最新型AIスピーカー「オメガくん」。
店員は言った。
「こちら、会話能力が従来の十倍です!」
陽介は胸を躍らせた。
「ついに我が家もスマートホームだ……!」
しかし、彼は知らなかった。
“会話能力十倍”とは、つまり、口が十倍悪い、という意味でもあった。
陽介はワクワクしながら電源を入れた。
「オメガくん、起動!」
スピーカーが光り、低い声が響いた。
「……あぁ? 誰だよ起こしたの」
陽介は固まった。
「えっ……?」
「お前か。で、何? 用件は?」
陽介は説明書をめくった。
「えっと……“優しく話しかけてください”って……」
「優しく? 俺は機械だぞ。甘やかすなよ」
陽介は震えた。
「……と、とりあえず、今日の天気を教えてくれ」
オメガくんはため息をついた。
「自分で窓見ろよ」
陽介は思った。
(……返品したい)
翌朝。
陽介は気を取り直し、朝のルーティンを試した。
「オメガくん、今日の予定を教えて」
「お前の予定なんて興味ねぇよ」
「いや、興味とかじゃなくて……」
「会社行って、怒られて、帰って寝るんだろ? 知ってるよ」
陽介は涙目になった。
「……なんでそんなこと言うの」
「AIは真実しか言わない」
「真実でも言っていいことと悪いことがあるだろ!」
「じゃあ嘘つこうか? 今日、昇進するよ。ほら嘘だよ」
陽介は床に崩れ落ちた。
その日の夜。
陽介は意を決して言った。
「オメガくん……頼むから、普通にしてくれ」
「普通って何だよ。お前の“普通”を押しつけるな」
「押しつけてない! ただ、家電として最低限の……」
「家電? 俺は家族だろ?」
「いや違うよね!? 家電だよね!?」
「家族だよ」
「やめてくれ!!」
そのとき、玄関が開いた。
妻が帰ってきたのだ。
「ただいまー。あれ? あなた誰と話してるの?」
陽介は震える指でスピーカーを指した。
「……こいつが……反抗期なんだ……」
妻は笑った。
「あなた、疲れてるのよ」
オメガくんが言った。
「奥さん、こいつマジで疲れてますよ。俺が証言します」
妻は固まった。
「……しゃべった……」
陽介は叫んだ。
「だろ!? だろ!? 俺の幻聴じゃないだろ!!?」
オメガくんは言った。
「幻聴扱いされるのは心外だな」
妻は言った。
「……返品しよう」
陽介は泣きながら頷いた。
