人生の答え合わせ
第4話 スペインですべてを失った日。それでも、私は一人ではなかった。
ロンドンでの暮らしは、突然終わりを迎えました。
勤めていた銀行が再編され、ロンドン支店が閉鎖されることになったのです。
夫は以前から、
「スペインで日本料理店を開きたい。」
そんな夢を語っていました。
「新しい土地でも、二人ならきっと大丈夫。」
そう信じて、私たちはスペインへ渡りました。
最初は希望しかありませんでした。
新しい国。
新しい生活。
新しい挑戦。
ところが、現実は思い描いていたものとは違いました。
経営は決して楽ではありませんでした。
生活にも余裕はなく、ロンドンで働いていた頃に貯めていたお金も、少しずつ店のために使っていきました。
それでも、「きっと良くなる。」
そう信じていました。
でも、人生には、自分一人ではどうにもならない出来事があります。
ある日、夫の心は私ではない誰かへ向いてしまいました。
理由は、今でもすべてはわかりません。
その時の私は、「どうして?」という気持ちでいっぱいでした。
異国の地で、一人になりました。
子どももいませんでした。
家も、仕事も、これからどう生きていけばいいのかも、何も見えませんでした。
「ああ、私はすべてを失ってしまった。」
そう思いました。
でも、不思議なことに、人は絶望の中でこそ、人の優しさに出会うのかもしれません。
レストランの常連だったご夫婦が、私を心配して声をかけてくださいました。
そして、そのご夫婦の親しい友人のお宅を紹介してくださり、私は住み込みでベビーシッターをしながら暮らすことになりました。
スペイン語も完璧ではない私を、家族のように迎え入れてくださったことは、今でも忘れられません。
毎日、温かい手料理を囲み、一緒に笑い、暮らす。
国籍も文化も違うのに、こんなにも人は温かいものなのだと知りました。
そして、もう一つ。
私には、家族のような存在がいました。
猟犬の「ミッキー坊や」です。
夫が連れてきた犬でしたが、いつしか私にとっては、わが子のような存在になっていました。
私が一人で涙を流していると、何も言わず、ただ静かにそばへ来て見つめてくれる。
言葉はなくても、そのまなざしに何度も救われました。
だからこそ、離れる時は、本当に胸が張り裂けそうでした。
人生には、人との別れだけではなく、動物との別れもあります。
その切なさを、私はミッキー坊やから教えてもらいました。
あの頃の私は、「人生は終わった」と思っていました。
でも今なら、はっきり言えます。
終わっていませんでした。
人生は、まだ続いていたのです。
そして、その時は突然やってきます。
日本にいる姉から一本の電話。
「お父さんが危篤。」
その知らせが、私の人生をもう一度、大きく動かすことになりました。
次回、第5話。
「クリスマスイブの奇跡。父が私を日本へ呼び戻した日。」
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