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5兆円の投資を発表した翌日、株価は8.76%下げた ―好材料で下がる5つの条件

先週の金曜、キオクシアの株価が8.76%下がりました。4,600円安の47,900円です。

この日、キオクシアに悪いニュースは何ひとつ出ていません。それどころか前日の木曜、岩手県北上市に新しい製造棟を建てると正式に発表したばかりでした。投資額は約1兆8,000億円。協業する米サンディスクと合わせると、2032年までに国内へ投じる総額は約5兆円になります。

普通に考えれば、株価が上がりそうな話です。実際、木曜は一時6%上げて、終値は+5.00%でした。それが翌日には8.76%下げています。

この現象には名前があります。材料出尽くしです。

今日は、なぜこれが起きるのかと、どういう条件が揃ったときに起きやすいのかを整理します。初心者のうちは「良いニュース=株価が上がる」と考えがちですが、実際の株価はもう少し面倒な動き方をします。


材料出尽くしとは何か

良いニュースが出たのに、株価が下がることです。

ポイントは、株価が「ニュースの内容」ではなく「ニュースと事前の予想の差」で動くところにあります。

たとえば、ある会社が来週なにか良い発表をしそうだ、という空気が市場にあったとします。すると発表を待たずに買う人が出てきます。「発表されてから買ったのでは遅い」と考えるからです。

この動きが積み重なると、発表される前から株価が上がっていきます。そして実際に発表された瞬間、先に買っていた人たちにとっては「買った理由が達成された」ことになります。あとは売って利益を確定するだけです。

つまり材料が出た日は、その材料を理由に買える最後の日でもあります。良いニュースであるほど先に買われやすく、発表と同時に売られやすい。内容の良し悪しではなく、どれだけ先に織り込まれていたかで決まります。

反対に、悪いニュースが出たのに株価が上がることもあります。こちらはあく抜けと呼ばれます。「もっとひどいと思っていた」「これで不透明感が消えた」という受け止めです。仕組みはまったく同じで、事前の予想との差が方向を決めています。


材料出尽くしになりやすい5つの条件

過去の値動きを見ていくと、いくつかの条件が重なったときに起きやすいことが分かります。ここでは5つ挙げます。

① 発表の前から株価が上がっている

いちばん分かりやすい条件です。発表前に上げた分だけ、売る理由を持っている人が増えています。逆に発表前に下げていた銘柄は、良いニュースで素直に上がりやすくなります。

② 発表の日程が事前に分かっている

決算発表、株主総会、大型イベント。日程が公表されているものは、その日に向けて買いが集まります。突然のニュースは織り込む時間がないので、出尽くしになりにくい傾向があります。

③ 発表の中身に「これから決める」部分が多い

「投資します」だけと「いつ、いくら、どこに投資します」では、情報としての重さが違います。金額や時期が未定のままだと、期待していたほどの中身ではなかった、と受け取られることがあります。

④ 効果が出るのが何年も先

新工場の稼働や新製品の発売が数年後の場合、目の前の業績はすぐには変わりません。ニュースの見出しの大きさと、来期の利益に効いてくる時期の遠さがずれていると、熱が冷めやすくなります。

⑤ 同じ業界の株が同時に売られている

自社にどれだけ良い材料があっても、業界全体に売りが出ているときは押し戻されます。前回のコラムで扱った連れ安が、材料出尽くしと重なる形です。


今回のキオクシアを当てはめてみる

先週のキオクシアは、この5つがすべて当てはまりました。

①発表前から上がっていた。 木曜は増産をめぐる期待から日中に一時6%上昇し、終値は+5.00%。正式な発表は同じ日の取引終了後でした。つまり発表の時点で、株価はもう反応し終えていたことになります。

②日程は事前に意識されていた。 増産についての観測は取引時間中から市場に流れていました。

③中身に未定の部分があった。 発表資料では、K3棟の具体的な建設時期や生産設備への投資規模は「今後の市場動向を踏まえて決める」とされています。加えてこの投資は政府からの支援を前提としたものです。方向は示されましたが、確定した数字は多くありません。

④効果は3年以上先。 新棟の稼働開始目標は2029年度中です。太田社長は需要の上振れを受けて稼働を「年単位で前倒しした」と述べていますが、それでも来期の業績が直接動く話ではありません。

⑤同業も売られていた。 前日の米国市場では、同じNANDフラッシュメモリを手がけるサンディスクが−0.96%、マイクロンが−0.32%。韓国株も軟調でした。

5つすべてが揃った日に、8.76%の下落が起きています。


同じ週に、もうひとつ起きていた

実は先週、モメチン銘柄の中でもうひとつ同じ現象がありました。アドバンテストです。

水曜、アドバンテストは+3.63%と、その日の勝ち頭でした。翌日に控えたエヌビディアの決算への期待が理由と見られます。

そして木曜の早朝、エヌビディアの決算が発表されました。売上高も1株利益も市場予想を上回る内容でした。

それでも木曜のアドバンテストは−3.05%です。しかも同じ日の米国市場で、エヌビディア本体は+8.74%と大きく上げています。

キオクシアが「自社の好材料で出尽くした」のに対して、アドバンテストは「他社の好決算を期待して上げ、その決算が通過したことで出尽くした」形です。材料は自社のものとは限りません。

なお、アドバンテストは翌日の金曜には+1.91%と戻しています。材料出尽くしは方向転換のサインではなく、期待の前借りを精算する動きだと考えると、この戻りも理解しやすくなります。


逆に、出尽くしにならなかった例

8月の中ごろ、キオクシアは正反対の動きをしています。

13日の夜、サンディスクが投資家向けの説明会を開きました。日程そのものは事前に分かっていたので、条件②には当てはまります。ところが翌14日のキオクシアは+3.75%で、その週は+12.59%と大きく上げました。

違いは①と③です。キオクシアはその直前まで独歩安の状態で、10日の時点では半導体が全面高になるなかで一人だけ+0.59%にとどまっていました。発表前に上がっていなかったわけです。そして説明会で示された中身が、事前の想定を上回るものでした。

同じ会社、同じ月でも、置かれた位置によって反応は逆になります。


まとめ

材料出尽くしを見分けるのに必要なのは、ニュースを読む力より「そのニュースが出る前に、株価がどこにいたか」を見る習慣です。

  • 発表前にすでに上がっているか

  • 日程は前から分かっていたか

  • 中身に未定の部分は多いか

  • 効果が出るのはいつか

  • 同業はどう動いているか

この5つを確認するだけで、「良いニュースなのになぜ下がるのか」という場面はかなり減ります。逆に言えば、下がったことに驚かなくなります。

そしてもうひとつ。材料出尽くしで下げた日は、その会社の中身が悪くなったわけではありません。 キオクシアの5兆円投資は、発表された事実として残っています。株価の翌日の動きと、会社の数年後の姿は別の話です。

先週のキオクシアは、木曜に+5.00%、金曜に−8.76%でした。この2日間だけを見ると激しい値動きですが、起きていたのは「期待を先に買った人が、精算した」というそれだけのことだったのかもしれません。

みなさんは、良いニュースが出たのに株価が下がった経験はありますか。そのとき、発表の前の株価はどうなっていたでしょうか。コメントで教えてもらえたら嬉しいです。


※本記事は特定の銘柄・金融商品・投資手法を推奨または勧誘するものではありません。記事内で紹介している内容は、あくまで個人的な見解・情報共有を目的としたものであり、投資判断は必ずご自身の責任において行ってください。本記事の内容をもとに生じたいかなる損失についても一切の責任を負いかねます。 ※モメチン銘柄は当アカウントが独自に整理した観測リストであり、投資判断・格付けを示すものではありません。

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