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あなたの大事な人 #創作大賞感想

僕だけだろうか。恋愛の要素が含まれている物語を読んでいると、不器用と評されているはずの登場人物なのに、全然不器用じゃない描写に出会ったり、確実に成就するとわかるくらいに順調にことが進んだりする。

出てくる人、みんな恋愛慣れしてるよ、もっともっと下手な人がいるんだよ、と誰にともなく反論したくなることがある。

要は、自分自身に1ミリも重ねられないなと思うと、白けてしまうのかもしれない。父親になっても、子どもたちがいても、まだ僕は色々と辿々しいなと思う。

その証拠といってはなんだが、僕のことを言い訳がましく書くと、
 ・最初で最後の彼女が妻
 ・妻は小学校の同級生
 ・とはいえ結婚したのは30代
 ・付き合って3ヶ月でプロポーズ(された僕)
そして、夫婦生活も穏やかに10年が経過している。ご覧のように、恋愛経験というと、本当に乏しい。偶然なのか必然なのか、出会えたことが奇跡のようだ。

なぜか自分のことを明るみにしてしまった。なんだか言い訳したかったのだ。


昨今は恋人観や結婚観も、かなり変化してきているし、性別も年齢も、国籍も、いわゆるボーダーレスな人間関係が広がっている。ともすれば過去の常識は、笑い話にもならないほどにタブー視されていることもある。

だからこそ、時代にあった物語や、温度がより身近にイメージできる舞台設定の作品に、ホッとできるのかもしれない。読み手に寄り添ってくれる、そんな物語だと信じていながらも、巧みな展開に翻弄されて読み手もドキドキする。

そして、じんわり癒される。それが、この書き手の真骨頂だ。

花丸恵さんの「日和見日和」を読んだ。

衝動的に思いが溢れてくるような、グイグイと引っ張られてしまうような世界観とは違う、ありふれた街なかで起きるさまざまな人間関係のあれやこれやを楽しみながら、自分自身のとても愛おしい日々を思い出していた。

結婚してしまうと、あっという間に日々が過ぎてしまうという人もいる。しかし、結婚までの道のりというのは、意外と長く感じられるものだ。僕の場合は淡々としていたものの、自分の気持ちの変化や、相手の変化、そして家族の変化、幾つもの段階が必要になってくるから、記憶の”ひだ”に残りやすく、時間も長く感じられたのかもしれない。

恋愛のとりとめのなさを感じながら、色々な夫婦の形があるなぁ、と僕自身のことを棚に上げて、しみじみと読み進めた。僕が男だからなのか、それとも父親だからなのか、主人公を応援したくなってくる。登場人物のそれぞれに人間味があり、ほとんどの人に会ってみたいと思った。書き手の丸恵さん(ふだんからそう呼ばせていただいている)の描くキャラクターは、どこか身近で柔らかな印象がある。

婚活がうまくいかず、終電も逃してしまった主人公が、同級生と久しぶりに再会した。それだけでもドラマチックだけれど、この後の展開もまた面白かった。登場人物が少ない分、それぞれの人物像が緻密に設定されている。

若い時の恋愛は色々と”イタい”思い出になるかもしれないが、それなりに年齢を重ねていると”イタい”は”ヤバい”になる。親しい人なら心配を超えて、見限ってしまうことだって多いにありそうだ。

女の友情や謎の連帯感に、訳知りの隣人のようにほくそ笑んだ。僕のような人間でも、経験を積むと、思い当たる身の回りの事件や噂話が一つや二つあるから、まるで友人のように楽しんでしまった。


浮気や離婚など、明るい話題ではないけれど、何人かの登場人物は、諦めずに相手と向き合おうとしていたのが印象的だった。そして、自分自身にも向きあっていくことで、つい逃げてしまったり、焦ってしまったりする弱さに気がつくタイミングがあったことは、とても良かったなとホッとした。自分に気がつける瞬間は、人生においてそうそう多くないから、転機なんて呼ばれるのだろう。

読む人によって、その感想はさまざまになるだろうけれど、少なくとも僕はとても優しい物語として読んだ。物語が終わって、登場人物たちがそれぞれの未来をどう生きるのか想像した時、生き生きとした暮らしを続ける温かな空想が広がった。

いつしか登場人物に、自分を重ねて読んでいた。そのことは、僕の日々を肯定してくれているようでもあった。

反面、この物語でも、悲しむ人が登場する。本人を軽んじることはできないし、悲しみが癒えることを祈るしかないけれど、それを支えてくれる人がすぐそばにいることも読み手は知っている。それは救いだった。

作中、主人公がとある人物と10年後の再会を約束する場面がある。ちょっと思いついた、という風情で交わされる軽いノリの約束だけれど、実現させて欲しいと勝手に願ってしまう。

読めば読むほどに、友情も愛情も、仕事も家族も、僕のそばにある光景がチラついて離れない。僕の場合には、妻や子どもたち、そして自分たちの両親たちだった。物語の終わりが気になるのに、結末までは急ぎたくない不思議な心境だった。

読み終わって、大事な人のことが思い浮かぶ、温かい作品だった。




#創作大賞感想






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