[ショートショート] 武士の誇り
維新後の武士たちは、ひもじい思いをしていた。今日食べるものもなく、明日の灯りもない。
島田一郎は、内職で日々を繋いでいた。
傘張りをするその手は、あかぎれで裂け
血がにじんでいる。
「島田様!」
夜更け、戸が開く。
若い男が飛び込んできた。
中村晋三は息を切らし、興奮を隠せぬまま
告げる。
「来週、奴は晩餐会へ出かけるそうです。
その道中が好機ですぞ!」
島田は黙って白湯を出した。
「そうか。よく探ったな……準備はできておる」
当日。
大久保利通は馬車に揺られていた。
朝の空気は澄み、東京の街はまだ眠たそうだった。
「何もかも順調である」
独り言を漏らした、その瞬間。
道の脇から数人の男が躍り出た。
刃が光る。
馬車は止まり、正義は一瞬で血に染まった。倒れながらも、大久保は島田の手首を強く掴む。
「……国の正義に逆らうのか……
お前は……誰だ…」
島田は答えなかった。
ただ喉元へ刃を突き立て、とどめを刺した。
血を浴びた男たちは、震える拳を強く握り
叫ぶ。
「我々にも正義がある!
守るものがある!」
突然の雨、朝焼けを闇へと溶かす。
激しく打ちつける雨は、
正義も、悪も洗い流すかのように降り続けた。
