[ショートショート] 後 悔
男はホームセンターで、
ガムテープとゴムホースを買った。それを車に積み込むと、いつものようにパチンコ店へ向かった。
顔見知りの客に軽く会釈し、店内をぶらつく。
特に狙いはなかったが、何となく引き寄せられるように隅の台へ座った。
しばらく遊んでいるうちに、思いがけず大勝ちした。
「今更ツキが回ってきたか」
男は苦笑した。
ここが潮時と席を立ち、勝ち逃げを決めた。
給料袋を抱えたまま、なじみの焼き鳥屋に入りジョッキを片手に鶏串を頬張る。
真っすぐ家には帰らない。
「今日はいつもより、美味い」
ひとり、ささやかな乾杯をした。
ほろ酔いのまま近くのホテルにチェックインした。
翌日もまた、何事もなかったかのように朝からパチンコ店へ足を運んだ。
昨日の勝ちは、直ぐに消えた。
「まぁ、こんなもんだろう」
男は店を後にし、薬店で安定剤を買った。
自販機で缶ビールを一本落とす。
車に戻り、エンジンをかけて走り出す。
ガソリンを満タンにし、何も考えずに走った。日が暮れ、薄闇の中を抜けてひとつのトンネルへたどり着く。
「ここにするか…」
エンジンを切った。
窓を開けると、生ぬるい夏の風が頬を撫でた。
トンネルの向こうの夜空にはまだ、星が見えなかった。
後部座席からゴムホースとガムテープを取り出す。
マフラーにホースを差し込み、隙間をガムテープで塞ぐ。ホースの先を窓の隙間に入れ、丁寧に目張りをした。
全ての準備を終えた。
「案外簡単だったな。俺の人生と同じだな…」
運転席に戻り、缶ビールを開けた。
安定剤を飲み干し、ポケットから小さなメモ帳を取り出す。
母へ
妻へ
息子へ
娘へ
それぞれに言葉を残した。
「悔いることは無いが、本当に済まない」
男の頬に涙が伝った。
エンジンをかける。
静かなトンネルに低い音が響く。
遠のく意識の中、娘の声がしたように感じた。
「……お父さん」
その時、男に強い後悔の念が湧き上がる。
しかし、もう身動きも取れないほど、深い眠りについていた。
