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[ショートショート]ポイント

せっせとゴミ拾いをしている男がいた。


毎朝、決まった時間に町へ出て、空き缶や紙くずを拾って歩く。

いつからか、町は男の働きによって綺麗になっていった。

やがて人々も彼を見習い、
町ぐるみのクリーン活動が始まった。


山奥の一軒家で、一人暮らしをする老婆がいた。

ある日、一人の青年が訪ねてきた。

「電球の交換に来ました」

「こんな山奥まですまないねぇ」

「お気遣いなく。ボランティアですから」

青年は笑顔で脚立に上り、切れた電球を交換した。


公園の広場には、一台のピアノが置かれている。

少女が椅子に腰掛け、静かに鍵盤へ指を置いた。

美しい旋律が流れ始めると、
道行く人々が次々と足を止めた。

子供も、大人も、老人も。

誰もがその音色に聴き入った。

演奏が終わると、大きな拍手が起こった。

少女は笑顔で立ち上がり、深々とお辞儀をした。


近年、世界のあちこちで、こうした善行を行う者たちが増えている。

見返りを求めないボランティア。

町は清潔に保たれ、

老人は不自由なく暮らし、

人々は感動を分かち合う。

まるで理想の世界だった。


十年前。
世界中で、ある制度が導入された。

『人は生まれてから五十年間、善行を積むこと』

すべての善行は数値化される。

ゴミを拾う。

困っている人を助ける。

誰かを喜ばせる。

その一つひとつが「善行ポイント」
として加算され、五十歳を迎えた時点でのポイントに応じて、その後の生活が保証される。

高得点者には、
豊かな住居と十分な年金、手厚い医療。

ポイントが高ければ高いほど、幸福な老後が約束された。


制度導入後に生まれた者には、
出生時に体内へ小さなチップが埋め込まれた。

それ以前に生まれた者たちは、
手首に特殊な腕輪をつけた。

始めこそ混乱を呼んだものの、
それも三年ほどで収まった。


人々は幼いうちから小さな善行を積み重ねるようになった。

世界からゴミが減った。

孤独な老人も減った。

人々は互いに助け合うようになった。

犯罪さえ減少した。

世界は、確実に優しくなっていた。


ある日。
男はいつものように公園でゴミを拾っていた。

しかし、なかなかゴミが見つからない。

ベンチの下を覗き、植え込みを探し、
ゴミ箱の周囲まで歩いた。

ようやく小さな空き缶を一本見つける。

男はそれを拾い上げながら、ため息をついた。

「近頃はゴミひとつ落ちていない。
そろそろ別の善行を考えなければならんな」

その時だった。

「……すまん」
か細い声がした。

振り返ると、痩せこけた老人が立っていた。

汚れた服をまとい、震える手を男へ差し出している。

「水を……少し、水をくださらんか……?」

男は眉をひそめた。

そして一歩、後ずさった。

老人はもう一度、手を伸ばす。

「一口でいいんじゃ……」

男はしばらく老人を見つめていた。

やがて手にしていた空き缶を放り投げた。

缶は老人の足元に転がった。

「雨が降ったら、それでしのいだらいい」

老人は黙って空き缶を拾った。

そして大事そうに懐へしまった。


男はその姿を見て鼻で笑う。

「……ふん。

 “憎まれっ子世にはばかる”……だ」




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