ちいさな雲の はじめての雨
広い青空に、生まれたばかりの小さな雲が浮かんでいました。
名前は、くもちゃん。
ふわふわ、ゆらゆら。
風に乗って、毎日空をお散歩しています。
ある日、大きな雲のおばさんが言いました。
「くもちゃんも、そろそろ雨を降らせてみませんか?」
「ぼくが、雨を?」
くもちゃんは、びっくりして目を丸くしました。
雨を降らせるのは、今日が初めてです。
「もし、たくさん降りすぎたらどうしよう」
「大きな音がしたら、みんなが怖がるかもしれない」
考えれば考えるほど、くもちゃんの胸はどきどきしました。
くもちゃんは空の隅へ移動すると、小さな体をきゅっと縮めました。

次の日も、空には明るい太陽が輝いていました。
くもちゃんが地上を見下ろすと、草原の花たちが元気なく頭を下げています。
小さな池の水も、ずいぶん少なくなっていました。
池のそばでは、緑色のカエルくんが空を見上げています。
「雨、降らないかな……」
その声が、くもちゃんのところまで届きました。
「ぼくの雨を、待っているの?」
くもちゃんは、もう一度地上を見つめました。
ピンクの花も、黄色い花も、白い花も、雨を待っています。

くもちゃんは、ゆっくり草原の上まで進みました。
けれど、雨を降らせようとすると、やっぱり胸がどきどきします。
「大丈夫。ほんの少しだけ……」
くもちゃんは、目をぎゅっと閉じました。
小さな体に、きゅっと力を入れます。
ぽつん。
くもちゃんのおなかから、透明な雨粒が一つ生まれました。
雨粒は、お日さまの光を受けて、きらりと輝きます。
そして、ゆっくり地上へ落ちていきました。
ぽとん。
最初の一滴は、しおれていたピンクの花に届きました。
花は驚いたように揺れると、ほんの少し顔を上げました。

「届いた!」
くもちゃんは、そっと目を開きました。
カエルくんも、嬉しそうに飛び跳ねています。
「もう一滴、お願いします!」
くもちゃんは、今度は目を閉じませんでした。
ぽつん。
ぽつん。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
透明な雨粒が、草原へ降り始めました。
雨は少しずつ数を増やし、花や草、小さな池を優しく包みました。
ざあざあ降る、強い雨ではありません。
さらさら。
しとしと。
葉っぱを優しく撫でるような、小さな雨でした。

花たちは、ゆっくりと顔を上げました。
池の水面には、小さな丸い輪がいくつも広がっています。
カエルくんは、石の上で両手を広げました。
「気持ちいい!」
草も、木も、花も、雨粒を受けてきらきら輝きました。
くもちゃんは、地上の笑顔を見つめながら思いました。
「雨って、怖いものじゃなかったんだ」
「誰かを元気にすることも、できるんだね」
やがて雨は、ゆっくりと止みました。
雲の隙間から、お日さまの光が差し込みます。
すると、青空に大きな虹が現れました。

赤、橙、黄色、緑、青、紫。
虹は、雨上がりの草原を優しく包んでいます。
小さな池には青空が映り、元気になった花たちは風に揺れていました。
カエルくんが、くもちゃんへ大きく手を振ります。
「くもちゃん、ありがとう!」
くもちゃんも、小さな手を振りました。
「どういたしまして!」
初めての雨は、ほんの一滴から始まりました。
その一滴は、花を元気にし、池を潤し、カエルくんを笑顔にしました。
そして、くもちゃんの胸にも、小さな自信を届けてくれました。
初めてのことは、少し怖い。
けれど、小さな一歩が、誰かの笑顔につながることもあるのです。
くもちゃんは虹の下で、ふわふわ、ゆらゆら。
前より少しだけ誇らしそうに、青空を進んでいきました。

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