現代国語 『武石の現代文鉄則8』など
武石彰夫先生について
略歴
武石 彰夫(たけいし あきお、1929年3月31日-2011年 )先生は、日本の仏教文学の研究者で元高知大学教授・仏教文化研究所所長です。文学博士。
長年、旺文社の『大学受験ラジオ講座(ラ講)』の現代国語・現代文の講師を務めておられました。

ラ講講師として
武石先生は、ラ講で長年現代国語(現代文)の指導をされていましたが、先生独自の「現代国語読解テクニック」はかなり汎用性があり、人気がありました。
30~40年くらい前の受験生には「現代文(当時は現代国語)の先生」というイメージの人が多かったと思います。
先生の講義を聞き続けた学生は「試験中に問題文を読みながら武石先生の声が頭に響いた」という人が続出すると言った、独特のイントネーションとお声で「現代文のポイントを掴む読み方」を、言い換えれば「できる人はどんな調子で問題文を読んで、どこにチェックを入れているか」を叩き込んでおられました。
著書
武石先生は専門書の著作は多いのですが、学習参考書は3冊しか書かれていません。どれもいくつかのテクニックを提示して、それを用いて問題文を読解し、解答していく、というスタイルになっています。
『だれでも解ける現代文の公式12』(ライオン社)1987年
『現代文の攻略法7則』(三省堂)1987年
『武石の現代文鉄則8パーフェクトマスター』(旺文社)1994年
以下、武石先生のテクニックについて各著作の比較をしながら、解説します。
著作とテクニック
武石先生のテクニックとは
武石先生の提唱するテクニック集は著作によって数が変わったり、内容が多少変わったりしますが、いわゆる小手先の受験テクニックではなくて、文章読解のための正当な手続きをわかりやすくまとめたものとなっています。
まず、著書3冊の紹介とそこで紹介されているテクニックについてまとめます。
『現代文の攻略法7則』
📚書誌情報
書名:『現代文の攻略法7則』
著者:武石 彰夫
出版社:三省堂
出版日:1987年6月30日
判型:B6版
ページ数:222ページ

攻略7則
攻略1 中心語でセメル!
攻略2 結末ガヒント!
攻略3 接続詞デ解ク!
攻略4 前後カラセメル!
攻略5 登場人物ノ心理デセメル!
攻略6 場面ノ展開デセメル!
攻略7 具体例ニ注意セヨ!
この本が書籍としてまとめられたものとしては一番最初ですが、練習問題量も含めて一番しっかりとした本になっています。また、目次の下に「攻略関連語句」がページ数と共に掲載されており、編集もしっかりしています。
本書は上記の7つの大きな解き方のテーゼ(攻略1~7となっています)ごとに章立てをして解説していますが、この攻略法、単なるテクニックに一見すると見えながら、非常に本質を突いた「文章の読み方」のコツとなっています。
『だれでも解ける現代文の公式12』
📚書誌情報
書名:『だれでも解ける現代文の公式12』
著者:武石 彰夫
出版社:ライオン社
出版日:1987年11月1日
判型:新書版
ページ数:143ページ

公式12
公式1 主語でキメル!
公式2 キーワードでキメル!
公式3 文末断定でキメル!
公式4 設問部分と同一の一文・段落でキメル!
公式5 直前・直後からキメル!
公式6 無関係マークでキメル!
公式7 反対関係マークでキメル!
公式8 接続詞でキメル!
公式9 指示語でキメル!
公式10 照応語句でキメル!
公式11 共通表現でキメル!
公式12 小説は場面と心情表現でキメル!
この本が一番テクニックを細分化しています。その割に粗削りなところがあり、おそらく、これはライオン社から必要以上に「解答テクニック」的なものを求められて書かれたのではないかと思います。
事実、
「読解」より「正解」 ― 点を取るテクニック
とカヴァーの折り返し(つまり事実上最初の1ページ目より前)に赤い大きな文字で書いてあるように、例題を使いながら(例題の解説はありません)公式化されたテクニックを解説していく本です。
ようするに「正解テクニック集」なのですが、この本をただのテクニック集にするか否かは読者にかかっています。
①既に現代文の実力が相応にある人
②武石先生のテクニック集でない本(「現代文の攻略法7則」「ラ講テープライブラリー現代文鉄則8パーフェクトマスター」等)を読んだ人
という条件を満たしている人が読むと「正解を導くきちんとした読解をするためのテクニック集」に早変わりします。でも、本当に「現代文が苦手な人」「現代文の初歩や基礎段階の人」などが使って得るところはほとんどないです。
しかし、上記条件にあっている人(特に②の人)が「後は過去問をガンガン解いていくだけ」という段階直前のまとめとして仕上げると絶大な効果が出ます。
『武石の現代文鉄則8パーフェクトマスター』
📚書誌情報
書名:『武石の現代文鉄則8パーフェクトマスター』
著者:武石 彰夫
出版社:旺文社
出版日:1988年
判型:新書版
ページ数:143ページ
備考:ラ講テープライブラリー(音声講義:カセットテープ3本)

鉄則8
鉄則1 前後から意味をシボル!
鉄則2 同一文ヒントで解ケル!
鉄則3 同一段落でシボル!
鉄則4 中心語でセマル!
鉄則5 語句の対応をツカム!
鉄則6 指示語でセマル!
鉄則7 主人公の心情でセマル!
鉄則8 中心語の展開でセマル!
これがある意味、本家本元です。
そもそも武石先生のメソッドはこのラ講の為に作られたものですし、何と言ってもご本人の解説講義付きなのですから。
しかし、小説問題に対しての鉄則が鉄則7の1つしかないので、これに『現代文の攻略法7則』の「攻略6 場面ノ展開デセメル!」「攻略7 具体例ニ注意セヨ!」を加えると万全なように個人的には思います。
国語指導に「統計的視点」を導入した人
「中心語」という概念
『だれでも解ける現代文の公式12』には出てきませんが、その他の『現代文の攻略法7則』とラ講テープライブラリーの『武石の現代文鉄則8パーフェクトマスター』には「中心語」という概念が登場します。
かつてラ講を受講していた人なら「武石先生と言えば中心語と接続詞」というイメージがある人が多いほどです。接続詞の重要性は言わずもがなですが、この中心語という考え方は大学に入った後、あるいは社会人になった後でも、必要に迫られて本を読むときなど、短時間で必要な知識を身に着ける基礎となりますし、文学を研究する人にとっては文学研究法の基礎技術を既に受験時代に身に着けることに通じます。
このように「攻略法」というテクニック本のような体裁を取りながら「文章を正確に読み取るための王道」を体得させる、貴重な十代後半から二十歳前の時間を捧げるに値する本、と言えるでしょう。
「中心語」の定義
さて、この「中心語」について武石先生は次のように定義しています。
中心語とはキーワードとも言い換えられます。つまり、文章の論旨の中心となる言葉、言い換えれば、その文章の内容を理解するカギとなる言葉です。
中心語は、必ず一つというわけではありません。むしろ複数で存在するものと考えてください。たった一つの言葉で、一つの文章を割り切ってしまうのには、やはり無理があります。
そして、その「中心語」をどうやって見つけるか、ということについては次のように断言しています。
何度も繰り返されている言葉が中心語
同じ意味の言葉が何度も別の言葉で言い換えられているものも中心語
そして、この「中心語」を頼りに読解していくのは「数量的な問題」だから、誰でもわかるはずだとしています。そしてこう結んでいます。
統計的視点は現代文読解において不可欠なもの
また、ラ講でも
1つ、2つ、3つと数えていって、一番多いのが中心語。
絶対ではないけれど「漢字の語」「カタカナの語」「カギカッコ付きの語」が中心語になることが多いですね。
とよく言っておられました。この統計的視点の導入は、大学受験国語指導の歴史の中で武石先生が最初に提唱されたものです。そして、この統計的視点は大学入試にとどまらず、文章の読解、特に評論などの論理的文章の読解においては非常に重要な考え方です。
「中心語」を改めて定義する
武石先生の書かれたものや、講義中で仰っていたことをまとめると、この「中心語」という概念は以下のようになります。
文中で1番多く出てくる語が中心語
漢語、外来語、カギカッコ付きの語が中心語の候補
中心語は複数あることが多い
中心語と重要語
そして「中心語」は「重要語」でもあります。重要語というのは武石先生の言葉をお借りすれば、以下のようになります。
自分が重要語だと思った語が重要語
なんといいかげんな、と思う方も多いでしょう(笑)
でも、そのすぐ後にこうあります。
(そのくらい)ゆったり構えていればいいのです。リラックスしてください。これも心構えの鉄則です。
つまりまとめると、重要語の中で繰り返し出てくるものが「中心語」である、と言えます。
杜のくま流 鉄則11
鉄則11
大変不遜ながら、武石先生の方法論を再編して鉄則11とさせていただいてみました。
鉄則1~9が論理的文章に対する鉄則
鉄則10、11が小説に対する鉄則です。
鉄則1 前後から意味をシボル!
鉄則2 同一文・同一段落でシボル!
鉄則3 接続詞デ解ク!
鉄則4 中心語でセマル!
鉄則5 中心語の展開でセマル!
鉄則6 語句の対応をツカム!
鉄則7 指示語でセマル!
鉄則8 結末ガヒント!
鉄則9 具体例ニ注意セヨ!
鉄則10 主人公の心情でセマル!
鉄則11 場面ノ展開デセメル!
こうすると、武石先生の方法論が完成形になるのではないでしょうか。
🐻杜のくまの視点
私と武石先生
残念ながら、御存命中にお会いする機会には恵まれませんでした。しかし、ラ講の武石先生の講座はずいぶんと拝聴していました。
高校生の頃から、予備校講師になってしばらく、ですから12年ほど聞いていたことになります。
武石先生の方法論について
現代国語ができない、という学生にとっては非常に強力な味方になってくれる方法論だと思います。詩歌・随筆関連の方法論がないという弱点はありますが、大学入試の現代国語においては評論文と小説がメインなので、これは現実的にはあまり大きな弱点にはならないと思います。
ただ『現代文の攻略法7則』に関して言えば、例題が「国語が苦手な学生にはハードすぎる」きらいが無きにしも非ず、なのですが、裏を返せば、この方法論でかなり難しい文章でも難なく対処できるという証左でもあります。
その点では『武石の現代文鉄則8パーフェクトマスター』の方が例文が易しいので、この方法論を必要とする国語弱者にはマッチしていると思います。
残念なのは、この武石先生の後を継ぐタイプの予備校講師などが出なかった点です。ラ講の受講生は多かったと思うのですが、私の知る限り、後を継ぐ人は出ていません。
私はこの方法論を拝借して、特に「現代国語が苦手な学生」のクラスで教えていましたが、だからと言って「武石先生の跡を継いで」という不遜なことが言えるほどでは間違ってもありません。
でも、とても好きな先生でした。
