シナモンロール・トリップ
コーヒーとシナモンロール。
この組み合わせは、どう考えても最強だ。
同系色のハーモニー。
デニッシュ生地の渦に、乳白色のアイシングがとろりと流れ、
その隣では漆黒のコーヒーが、まるで深い湖のように静かに輝く。
香り。
コーヒー──そして、シナモン。
鼻から脳天を抜けるような快楽が、静かにじわじわと染み込んでいく。
「……はあ」
目をつむり、香りに身を任せていた。
ああ、なんて幸せな時間なんだろう。
何もかも忘れて、この瞬間に溶けてしまいたい──
そんなことを思った、次の瞬間だった。
靴が沈んだ。
目を開けると、そこは巨大なシナモンロールの上だった。
糖衣がカリッと割れて、靴がめり込んでいる。
一歩踏み出すたびに、ザク、ザク、と甘い香りが立ち上る。
視線の先には、漆黒の湖。
いや──それは、コーヒーだ。
広がる湖面から、髭のように湯気が立ちのぼり、
シナモンの香りと混じって脳が痺れる。
「これは……罠か?」
誰かの策略だろうか?
ハニー?それとも……シューガートラップ?
背筋から後頭部へと、ぞくぞくと快感がせり上がってくる。
甘さと苦さがせめぎ合い、
理性のすみっこが、どこかで小さく叫んでいた。
気を抜いたら落ちる。
溺れるのは、どっちだ?
シナモンの渦か、コーヒーの深淵か。
──ぱちり。
まばたきをすると、現実のテーブルに戻っていた。
残ったシナモンロールに、冷めかけたコーヒー。
そろそろ、席を立たなければならない時間になった。
そして、午後が始まる。
