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Interview vol.37 和田たすくさん(元町映画館スタッフ)「お客さんが来てくれてこそ成り立つ仕事」

 第37回は、この8月に16周年を迎える元町映画館のスタッフで、長年映写と受付を担当している和田たすくさんです。




オールナイト当日の様子、タルコフスキー特集はこの日を皮切りに、上映の1週間盛況だった

■モトエイ初のオールナイトを開催!

―――元町映画館初めてのオールナイトが終わったところなので、まずオールナイトのことについてお伺いできればと思います。
和田:オールナイトはずっとやってみたかったんですよ。かつての京都みなみ会館や、シネ・ヌーヴォのオールナイトに行っていましたし。ヌーヴォは「仁義なき戦い」オールナイトが印象深いですね。一夜通してあの作品群を観ると、帰りはその世界観にどっぷり浸っているし、広島弁をしゃべりそうになったり(笑)

RCSが京都みなみ会館の番組編成していたときは、ポップコーンナイトという覆面上映でしたが、何が上映されるか事前にわからないんですよ。でも、ポップコーンナイトにはみなさん絶大な信頼を置いていて、実際に何度も観に行きましたが、本当にハズレがない。こういう作品を持ってくるのかという発見があって、すごく楽しかったですね。

―――和田さんは京都みなみ会館勤務時代に映写としてもオールナイトを経験しているのですか?
和田:僕が働いていたときは、RCSから吉田館長に代わり、みなみ会館らしいセレクトの面白い作品を集めてやっていました。当時は神戸から出勤していたので、オールナイトシフトには数回しか入りませんでしたが、働く側としてもオールナイトってすごく不思議な感じがするんですよね。

―――まさに夜勤ですよね。
和田:そうですね。この前は午後10時半から翌朝7時半ぐらいまでなんですけど、今回は当館では初めてだったので、眠気に負けることなく最後までいけましたね。みなみ会館のときはフィルムが多かったので、深夜にフィルムを変えたりするのは大変でした。今回はデジタル上映だったので、タッチパネルの操作だけで済むというのは楽でしたね。

―――初のオールナイトでしたが、通常営業のお客さまと客層の違いはありましたか?
和田:シニアの方もいらっしゃいましたが、オールナイトということで若いお客さまが多かったです。当館に初めてお越しになるような方々がイベントみたいに参加してくれた感じがしますね。映画を映画館でどっぷり観るという体験をしてもらえたらいいですね。

―――なるほど。上映の間にはどれぐらい休憩があり、みなさんどんなことをされているのですか?
和田:今回はロシアのアンドレイ・タルコスキーの作品(『鏡』『ストーカー』『惑星ソラリス』)だったので、お客さまも上映後静かにトイレに行かれたり、近所のコンビニで夜食を買いに行かれて、静かに座席で待つという感じでしたね。僕がみなみ会館に行っていたときは、休憩時間中にロビーでお話しされたり、外でタバコを吸ったり、トイレの大行列ができていた記憶があります。

当館では初めての開催だったので、参加人数が全く読めなかったのですが、蓋を開けたら思った以上にたくさん来てくださり、念のため20分組んでいましたが皆さん早めに席に戻られ結局15分でも間に合っていましたね。


受付に置かれたオールナイト上映のスケジュール
手書きのPOPも良い味に

―――もうすぐ17年目を迎える当館で、まだはじめての企画があったのかと。
和田:オールナイトを今までしなかった理由の一つが、周辺が住居の地域なので、夜中に騒々しいことはできないという点がありました。ただ、今回タルコフスキー特集の上映が決まったので、これだ!と思って、提案してみたんです。タルコフスキーの作品はとにかく長くて静かなので。

―――日ごろからの熱い思いがあったからこそ、初のオールナイト上映が実現したんですね。
和田:タルコフスキーのオールナイトは東京の新文芸坐で度々開催されており、行きたいけど遠方なので行けなかった。大阪の第七藝術劇場でも今回の特集でオールナイトをされたので、余計にやりたくなり機をうかがっていました(笑)

先日参加された若いお客さまと、上映が終わってからお話しすると、「また次回、アンゲロプロスでオールナイトお願いします!」とリクエストしてくださって。ギリシャのテオ・アンゲロプロスは僕も大好きなんですが今は配給権がないと思うんです。何かのタイミングで上映があると嬉しいですね。これまた長くて静かです(笑)

―――お客さんもオールナイト推しに!
和田:そうですね。日頃、昼間忙しくても夜だとどっぷりと浸れますし、夜寝る時間を映画館で映画を観ながら寝るみたいなところはあると思います。今回の上映中も驚くほど静かで、長い尺の作品ばかりなのに、上映中にお手洗いに出てくるお客さまがひとりもいらっしゃらなかった。通常上映との違いを色々と感じますね。

ただ、今回は特集上映の作品でオールナイトを組んだので、そこに集中しすぎてしまうと一般上映の回のお客さまが減ることになってしまう。その棲み分けが難しいところですが、今回は通常上映にもたくさんお越しいただいたので、影響は少なかったと思います。

―――和田さんが思うオールナイトの魅力とは?
和田:自分が観客として観に行っていたときは、誰かと一緒に行ったのではなくても、映画館でオールナイト上映を一緒に観て過ごした他の観客というのは、お互いに喋ったりしなくても、観終わるとどこか仲間のような感じがするんですよ。全ての作品を全部観たという達成感を共に味わった者同士という感じでしょうね。

オールナイトを行う映画館側の立場になると、通常の勤務時間ではなくて、商店街の店が全部閉まり、街がすごく静まり返る時間帯から勤務するんですよね。最後の映画上映が終わるころは明け方になり、外に出ると鳥のさえずりが聞こえたりもする。日頃の職場が違って見える感じがするので、体はキツいけど、気持ちはリフレッシュしましたよ。

ただ、深夜勤務になるので、出勤前までに仮眠を取っておかなければと思ったけれど、うまく調整ができなくて。きっと初めてのオールナイトでどれぐらいお客さんに来ていただけるかという心配が大きかったのだと思いますが、結局朝から一睡もできず出勤し、オールナイト終了して帰ってもしばらく寝られませんでした。今回は成功に終わったので、次にオールナイトをするときは、出勤までにしっかり仮眠を取れると思います(笑)

―――オールナイトの他にも、以前「元町映画館ものがたり」用にインタビューさせていただいたとき思い出の一本で挙げてくださったのが、ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』でした。
和田:台湾は実際に映画のロケ地巡りで、ホウ・シャオシェンや他の台湾作品のロケ地もいくつか行ったので余計に思い入れがありますね。2023年に台湾の映画祭で『悲情城市』4Kデジタル修復版が上映されているのでデジタル素材はあるはずですが、日本ではまだ公開されていません。以前はフィルムで上映しましたが、もうフィルムの状態があまり良くないそうで4Kデジタル修復版の公開を待つしかないのが現状です。それでもまた上映してみたいですね。

最近息子がテコンドーを始めたこともあり、元々韓国映画は好きでしたけど、より韓国の文化が好きになりましたね。イム・グォンテク『春香伝』も好きな映画の一本ですが、先日大阪でパンソリ劇『春香』を観ることができ感動しました。



ゲスト登壇回の前説を務める和田さん

■コロナ後のお客さまは?

―――和田さんは映写や受付周りを主に担当しておられるので、当館スタッフの中で一番お客さまと接する機会が多いと思いますが、コロナ以降のお客さまの動向や変化は?
和田:コロナ禍が終わり、戻ってきてくれたお客さんもいるんですけど、もう映画館離れしちゃったのか、転居をされたのか、戻ってこられない方もいらっしゃいます。コロナ禍で配信プラットフォームが多数揃い、視聴環境も整ってしまったので、若い方だけでなくシニアの方も配信を待つという人が増えているし、ちょっと厳しいところはあると思います。

もう一つ、僕が神戸のアサヒシネマで勤めていた90年代も大阪や京都が先で、その後神戸で公開という順番が多かったのですが、その傾向が今も続いています。だから神戸の映画好きの方は、先に大阪に観に行ってしまう人も多くて。やはり、大阪はミニシアターが多いので、一度行くと、他の作品もハシゴしながら観たりできるんですよね。お客さんのいち早く観たいという気持ちもわかります。だから、大阪と時間をあまりあけたりせずに上映するのもいいんじゃないかと思います。先に大阪の上映の成績を参考にできるメリットはありますが、神戸のお客さんを取られるというデメリットもありますから。

あとは、なかなか情報を届けるのが難しいことを実感します。SNSで宣伝はしていますが、SNSがどれだけ効果があるのかは実際のところわからないし、シニア層は特にですがSNSを見ない層も一定数いらっしゃる。その中で、上映情報をどう届けていくかですね。



今年は8/8-11の4日間連続開催の「夏休みの映画館」
お子さんの夏休みの自由研究にもぴったり!

■お客さんと接することができるのはすごく嬉しい

―――なるほど、和田さんは、お客さまと接する機会も多いですよね。
和田:お客さんと接することができるというのは、自分にとってはすごく嬉しいですね。観終わって出てこられたときの反応であったり、直接感想を話してくれたり。また感想だけでなく、どこでどんな映画を観たよと、今オススメの映画を教えてくださったりもします。僕は今子育て中で、自分が映画館に映画を観に行けていないので、また時間ができたときにお客さんに教えてもらった映画を観ようかなと思ったりしますし。

―――「元町映画館ものがたり」の時も接客が好きとおっしゃっていましたが、全くブレていませんね。
和田:映画館はやはりお客さんが来てくれてこそ成り立つ仕事ですから、ここまで足を運んで観に来てくださったお客さんに気持ちよく帰っていただきたい。ただ僕も100%ちゃんと接客ができているかといえば、全然できてないなと反省するときもあります。例えばこちらが忙しい時に声をかけていただいて、お客さんがお求めになっていることについては返事するのですが、もうちょっとこう言えたらよかったなみたいなことを後から振り返って考えたりして。

―――和田さんや受付のアルバイトさんは、お客さまからすれば映画館の顔ですから。
和田:アルバイトさんも含め、映画館で働いている人みんなが楽しく仕事できれば、気分がいいと思うし、結果的に雰囲気の良さというのは、お客さんに伝わるものです。

―――元町映画館でオールナイト以外にやりたいことはありますか?
和田:やはり、神戸のお客さんが観たい映画をやるというのが一番いいと思うんです。また昔の話になりますが、アサヒシネマで勤めていたときは『宋家の三姉妹』や『シュリ』『リトル・ダンサー』『ムトゥ踊るマハラジャ』など、アジアやヨーロッパのいい作品はよく入りました。やっぱり、そういう神戸の映画ファンが好きな作品を大事にしたいですね。

―――神戸の子どもたちがミニシアターデビューできる企画「夏休みの映画館」も、8月に当館で開催します。
和田:息子が通う小学校や学童にもチラシを置いてもらえるようになったのは、ありがたいですね。毎日上映後にイベントがありますし、息子も友達と行きたいと楽しみにしています。


■50歳を迎えるにあたって

―――お父さんの職場である映画館に友達と行けたら、きっといい思い出になりますね。和田さんご自身のリフレッシュ法は?
和田:そうですね。もともと僕も映画、音楽、バスケットボールに旅行と、自分の趣味を楽しんで生きてきたのですが、息子が生まれてからは、趣味より息子が一番になりました。とにかく息子が可愛いです。でも、最近は息子が大きくなってきたので、夜にバスケットボールに行ったり、映画やライブを観に行けるようになったのはリフレッシュになっていますね。

もうすぐ50歳になるので、ちょっと体力づくりをしていきたいですね。若いつもりではいたんですけど、やっぱり体は嘘をつけないので(笑)最近は神戸の市ケ原まで家族でハイキングするようになったんですよ。市ケ原は昔から小学校の遠足コースだったので、先日息子と一緒に行って、すごく懐かしかったです。自分が子どもの頃に感じていた距離感覚とは全然違うし、逆に、子どもの体重で登っていたのと今の体重で登る時の足腰の負担などを比べると、色々変化があって面白かった。やっぱり気持ちがいい場所なので、できれば週1回ぐらいで行って、このハイキングを習慣にしていこうかなと思います。神戸に暮らしている人らしい生き方という気がしますし、50歳を前にその良さに気づけたのは大きいですね。あと、息子がテコンドーを習って帰ってくると、僕を相手に練習したいというので、一緒に習いたいなと思っているところです。バスケットで使わない身体の使い方をするんですよ。元気でないと仕事はできないし、映画館で働いている人で運動している人は珍しい方だと思うのですが、今後も続けていきたいですね。



まだまだ現役のフィルム映写機、「夏休みの映画館」や16周年記念「戦争映画特集」でもフィルム上映作品あり

■映画館のデジタル映写機問題

―――もう一つ、今はデジタルがメインの映写について、お話を伺えますか?
和田:デジタル映写の機材を導入してから10年ちょっと経ちました。フィルムの映写機はちょっと壊れてきたというのがわかりやすかったんですけど、デジタルの場合は、いきなり動かなくなったりする。そういう現象が、そろそろ出てきているんですよ。他の劇場も機材の買い替えを考えたり、実際にクラウドファンディングで資金を募ったりされていますよね。やはり結構高額ですから。今までもレンズや基板を交換したり、業者の方と試行錯誤しながら使い続けています。

―――どんどん映写機も性能が新しくなっていきますし。
和田:デジタル映写機については、これからも知識をアップデートしていかないといけないです。今は、各映画館がそれぞれにデジタル映写機のことを調べており、デジタル映写機の買い替えや、故障したらどう対処するかというものが、共通知にはなっていないんです。具体的なトラブルに対する対処のケーススタディなどはなかなかなくて。全国規模ではなくても、まずは身近なところで京阪神のミニシアターで、お互いにデジタル映写機に関するトラブル対応の悩みをちょっと話せると助かりますね。

―――デジタル映写機を扱う現場の切実な声ですね。
和田:これからは8Kやそれ以上になってくるでしょうし、当館が買い替えるとしても4Kはまだ高いんですよ。でも、2Kに買い替えても、そのうち時代遅れになると思うんですよね。4Kは発売されたころは高額でしたが、今は多分値段が下がってきていると思います。当館はまだ2Kですが、いずれ更に高画質が主流となるとスクリーンでの差が出てくると思います。もちろん画質だけではないですがホームシアターのレベルが上がっているのでミニシアターだからという言い訳はできなくなる気がしますね。

―――本当に先送りできない問題ですね。ありがとうございました。最後に、みなさんにお伝えしたいことは?
和田:「映画館で映画を観てください」ですね。スマートフォンなどで映画を観ると気が散りやすいので映画の印象もそれなりになってしまいます。一人で観に来ても、ほかのお客さんと同じ場を共有したり、映画館に来るまでの出来事も含めて、きっと思い出に残ると思うんです。
(2026年7月7日収録)

<和田たすくさんプロフィール>

1976年兵庫県生まれ、アサヒシネマを皮切りに神戸、京都のミニシアターで映写を担当。元町映画館では映写、受付、Web関係を担当。小学生の息子と親子ともに成長中。

Text江口由美

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