【池袋東口で骨の髄まで嚙み砕く家系――池袋ラーメン 梟 のり玉ラーメン】
うくぐごぇぇーー画面に映し出された自分を胃を見ながら、成す術なくぐったりする自分の体にイライラしていた。
だが医者から『綺麗な胃ですよ、ピロリ入ったことないね』と言われると、なぜか褒められた自分の臓物に愛しさを覚えた。
営業マンにとっての昼飯はただの食事ではない。
自分と向き合い、成果を最大化するための内省の時間なのである。
年に1度の健康診断を終えた。他人に覗き込まれた胃袋はさぞ屈辱的な気持ちだろう……こんな時に、体を労った小綺麗な定食はいらない。今の俺に必要なのは、体中の全細胞を叩き起こすような、野生に溢れた圧倒的な「熱量」だ。
目指すは池袋東口、パチンコやヘルスを通り抜けた少し先、静かな佇まいを見せる「池袋ラーメン梟」。
神田の名店「わいず」のDeNAを受け継ぐ、この界隈で今もっとも熱い男たちの砦だ。
暖簾をくぐり、タッチパネル式の券売機に対峙する。財布から北里柴三郎を抜き出し、『のり玉ラーメン』のボタンを迷わず叩き、可愛い大学生くらいのアルバイト店員に食券を渡す。『硬めで』
L字型のカウンターに腰を下ろし、顔の前で合掌。自分と向き合い静かにその時を待つ。厨房から漂うスモーキーなチャーシューの香りが、俺の男性ホルモンを激しく刺激する。
『お待たせしました、紙エプロンご利用ですか?』
ーーなんと気が効くんだ!ただ今日はYシャツじゃないので勲章は飛ばし放題だ。悪いが断らせてもらう。『エプロンお願します』
差し出されたのは、ゴールドのラインが美しく光る丼。
一目見て、その完成された「構成美」に息を呑んだ。ピンク色に輝く吊るし焼きチャーシューが鎮座し、深緑のほうれん草、立体的にそびえ立つ漆黒の海苔、そして美しく茹で上げられた味玉。非の打ち所がない、完璧なビジュアルバランスだ。
まずはレンゲを差し込み、褐色の濃厚スープを口に運ぶ。
脳天に電流が走る。
なんだ、この圧倒的な浸透圧は。まるで胃袋の中にカメラを入れ、内視鏡で直接覗き見ているかのように、スープの分厚い旨味が渇ききった胃壁の隅々にじわじわと染み渡っていく。
豚骨と鶏ガラの圧倒的なコクの奥に、昆布と野菜の奥深い旨味のレイヤーが幾重にも重なって押し寄せてくる。
唇を合わせると、コラーゲンがまったりと絡みつく、最高にベッタリとした感触。そして、舌の上を通り過ぎる骨粉由来の微細なザラザラ感。このワイルドで濃厚なスープは、ただ塩辛いだけのスープとは格が違う。旨さの芯がしっかりと通っている。
続いて、三河屋製麺特製の中太麺をガシッと掴み、一気に啜り上げる。
硬めに茹でられたその平打ち麺を奥歯で噛み締める。
パツ、パツーー。
低加水の麺が弾ける快音。噛むたびに、俺の歯が、顎が、生きている喜びを爆発させている。スープの重厚感に全く負けない、圧倒的な存在感と弾力。この麺を噛み砕くプロセス自体が、男としての闘争本能をこれでもかと満たしてくれる。
そして、この「吊るし焼きチャーシュー」だ。
国産の赤身肉を使い、特製窯で丁寧に吊るし焼きされた肉は、香ばしいスモーキーな香りを放ち、噛むほどにしっとりとしたジューシーな旨味が溢れ出す。
骨の髄まで染み込んだ特濃なスープ、海苔の磯の香り、肉の燻製香、そして甘みが口腔内で完全に調和し、完全栄養食となって体を駆け巡る。
あっという間に丼を空にし、冷水で喉を鳴らした。
口の周りをまったりと覆うゼラチン質の余韻を手の甲で拭い去り、席を立つ。
扉を出ると、池袋の様々な匂いが混ざった風が俺を現実に戻した。
胃が喜ぶ様子が手に取るように分かる。
営業車に飛び乗り駐車料金に驚愕するも気を取り直して一路活動を開始した。
さぁ走りだせ……浜風背に受け……
店舗名 わいず一門 池袋ラーメン梟(フクロウ)
所在地 東京都豊島区東池袋1-38-1 シャトー豊島 101
アクセス JR・東京メトロ『池袋駅』東口 徒歩6分
電話番号 03-6912-5016予約不可、混雑時は並び制
営業時間 11:00 - 15:00 / 17:00 - 22:00
L.O.は各営業時間の終了時刻(スープ切れ終了あり)
定休日 不定休
客席構成 L字型カウンター 9席
決済方法 タッチパネル式券売機(現金決済のみ対応)
