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西日本新聞「第174回直木賞展望 前回はまさかの「該当作なし」、今回は?/Yahoo!ニュースでも読めます

 西日本新聞に掲載された西田藍さんとの直木賞の予想対談が、Yahoo!ニュースでも公開されました。前回受賞作なしでしたので今回の受賞作の注目度は高いと思います。

-まず、前回はまさかの「該当作なし」に終わりました。どのように捉えましたか。
 酒井 塩田武士さんの作品が受賞にふさわしかったが、物語がやや古く感じられたかもしれない。
<中略>

-大門剛明(たけあき)さんの山田風太郎賞受賞作「神都の証人」はどうでしょう。
<中略>
 酒井 これは優れた小説。冤罪(えんざい)事件と、その隠蔽(いんぺい)を題材にした社会派ミステリー。世代を超えて「正義の暴走」と闘い、「悪魔の証明」とも呼ばれる無実の立証に挑む濃密な物語だった。清張の「眼の壁」や横溝正史「獄門島」など古典的な作品への目配りも感じられる。冤罪事件の当事者の心情に寄り添いつつ、再審制度の厳しさを表現している。司法の構造的な問題を、時間の幅の広い物語を通して体感させることに成功している。
<中略>

-葉真中顕(はまなかあき)さんの「家族」は、尼崎連続変死事件を基にしています。
 酒井 ターゲットにした人物を、疑似家族的な関係に取り込み、互いに暴力を振るわせ、共犯関係に巻き込む。コミュニケーションを支配するカルト的な犯罪を描いている。例えば桐野夏生は「夜の谷を行く」で連合赤軍事件を題材とし、リンチに関わった女性の人生を描いているが、今でも類似した事件は起こり得ると思わせる。

西日本新聞・第174回直木賞展望 酒井信さん 西田藍さん対談 

 西日本新聞の対談用に作成した5作品についてのコメント(本文の内容とは異なるメモ)は下です。簡潔に各作品について評価しています。
 小説の評価は様々ですので、あくまで私の評価ということで、直木賞の候補作を楽しんで読んで頂ければ幸いです。


1 嶋津輝(しまづ てる)『カフェーの帰り道』東京創元社

・戦争の時代にカフェーで働く様々な回想の女性たちの、複雑な感情が交錯する青春劇。私的な記憶と集合的記憶を架橋する文章が上手い。
・前回の候補作『襷がけの二人』と同様に語り口が良く、人の死が身近な時代の女性の生と性を、奥行きを持って表現している。
・その一方で、この作品で昭和初期のカフェーが描けていたかというと、女性の視点という点は新しいが、永井荷風の「つゆのあとさき」などの作品と比べると、猥雑な部分への眼差しが弱いと感じた。

2 住田祐(すみだ さち) 『白鷺(はくろ)立つ 』文藝春秋

・松本清張賞の受賞作。延暦寺の密教の過酷な修業を、師弟の内面の政治劇として描いた点が新鮮で、評価できる。
・天明飢饉後の比叡山延暦寺を舞台に、千日回峰行に挑む師弟の僧侶の人生を描いており、デビュー作として完成度が高い。
・妄執を抱き修業に打ち込む戒閻を、コミュニケーション上の問題を抱えた僧侶として描いている点も面白い。
・エンターテイメント性では他の候補作に劣るが、終盤の千日回峰行に挑む師弟の姿には凄みを感じた。

3 大門剛明(だいもん たけあき)『神都(しんと)の証人』講談社

・冤罪事件とその隠ぺいを題材とした本格的な社会派ミステリ。山田風太郎賞を獲得したのも納得できる、法的な知見に裏打ちされた濃密な物語。伊勢・名古屋を舞台に、戦前から現代にいたる「正義の暴走」を描く。
・戦前の冤罪事件の解決が、別の冤罪事件を引き起こすという終盤の展開に意表を突かれた。「悪魔の証明」と呼ばれる、無かった罪を証明することの困難さを小説としてとらえている。
・冤罪事件の当事者の心情に寄り添いつつ、再審制度の厳しさを表現している。延々と過ちを認めない行政機構の構造的・官僚的な問題を、時間の幅の広い物語を通して体感させることに成功している。
・伊勢を舞台にした松本清張の『眼の壁』や横溝正史の『獄門島』など、社会派ミステリの古典への敬意も感じられる。

4 葉真中顕(はまなか あき)『家族』文藝春秋

・2014年に発覚した尼崎連続変死事件を題材とした社会派ミステリ。主犯の女性の自殺や、監禁された女性の逃亡による発覚など、現実の事件との類似点も多いが、舞台は八王子に変更されている。
・主犯の女性が、次々と家族に寄生して、暴力を背景に財産・生命の略奪を行っていく残酷さが描けている。常識的には介入し得ない人間関係に踏み込み、疑似家族的な支配関係(「愛」による支配)を構築し、次々と犯罪事件を起こす手口は、カルト的と言える。
・疑似家族内で被害・加害関係の入り組んだ重大犯罪を繰り返す描写は、モデルとなった事件と同様に救いがない。
・北斗の拳のような風貌の男を従わせた「ピンクババア軍団」のラスボス・瑠璃子の描写が立体的で、上手い。金庫番の朱鷺子が、裏社会とのつながりのあるあばた顔の男と繋がっていたという終盤を読むと、暗澹とした気持ちになる。

5 渡辺優(わたなべ ゆう)『女王様の電話番』集英社

・店の金や他の女性から借りたお金を持って失踪した50歳の女王様を追うという物語構成は面白い。地方都市で電話番も含めて性産業に従事する女性たちの日常生活を描けている点も良い。
・アセクシャルの女性の内面を描くという意欲は評価できるが、性的なものへの嫌悪から、性的ではない特別な関係を模索している点は、文学作品としてナイーブに感じた。
・朝井リョウの『生殖記』や『インザメガチャーチ』などの作品と比べると、主人公が抱く無意識的な欲動の描写が弱い。エロスと表裏一体のタナトスに迫れていない点が、この作品の改善点と言える。
・電話Cの女性が、亡くなった男性の住居に無断で侵入し、遺言状を回収するなど、違法調査に乗り出す姿が危うく、失踪した水商売の女性を、そこまでして追う必要があるのか、ミステリ作品としても、後半の展開には疑問を持たざるをえない。

 前回の直木賞候補作については下のリンクにまとめています。


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酒井信 『松本清張の昭和』講談社現代新書『吉田修一と『国宝』の世界』朝日新聞出版 ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!

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