見出し画像

好感度の低いマンガの主人公は、なぜ編集者に受け容れてもらえないのか?

 マンガ雑誌編集部への投稿か持ち込み作品についての質問だと思いますが、持ち込んだマンガ雑誌のジャンルなど詳細がわからないので、一般論で回答させていただきます。

 まず、少年週刊誌のようなメジャーな雑誌に持ち込んだのでしたら、「好感度の低い主人公」が受け容れられない理由は、よくわかります。「好感度の低い主人公の作品は、売れた前例がない」からです。
 メジャー少年誌の場合、いま、発行部数は落ちているとはいえ、数万から数十万人の読者がいることを前提に編集されています。またマンガが全国的・世界的なヒットになるためには、アニメ化・実写化・ゲーム化など他媒体への展開も不可欠です。
 つい先日、集英社の収益が出版物よりもIP(知的財産権)関連の方が多かったことが話題になりました。紙の出版市場は落ち込む一方で、少子高齢化が進む日本の人口分布を見ても、将来の回復は望みが薄いでしょう。そのために既存のマンガ出版社、新規参入のマンガメディアも、目指しているのは海外マーケットです。
「世界でヒットするコンテンツ(マンガ・アニメ・ゲーム)」ので、好感度が低い主人公の作品はあるでしょうか?
 もし、あなたが、どうしても「好感度の低い主人公のマンガ」を描きたいのなら、方法は、いくつかあります。

1)まずヒット作を出して、その実績を元に好きな作品を描かせてもらう(メジャー誌の場合)

2)「好感度の低い主人公」のマンガを採用してくれそうな媒体をさがす

3)SNSなどで作品を発表し、認めてもらうのを待つ



1)まずヒット作を出して、その実績を元に好きな作品を描かせてもらう(メジャー誌の場合)

 1)は、いくつも前例があります。たとえば竹宮惠子先生は少年愛を描いた『風と木の詩』で知られていますが、この作品は「前例がない」ということで、連載が許可されませんでした。「どうしても描きたいなら」ということで編集者から出された条件が「他の作品をヒットさせて実績をつくること」でした。そこで竹宮先生は『ファラオの墓』という作品を1年半にわたって連載し、人気投票で2位という実績をつくりました。そのうえで(おそらく編集部としては実験的なつもりもあったと思われますが)『風と木の詩』の連載をはじめたら、竹宮先生の代表作ともなるヒット作となりました。

 私は「コロコロコミック」で『ゲームセンターあらし』というマンガを連載していたとき、『こんにちはマイコン』というプログラミングを学べる学習マンガを企画しました。私自身がパソコンにハマり、その面白さを伝えるマンガを描きたいと思ったからです(パソコンを仕事にすれば新しいパソコンが買えるという下心もありましたが)。ちょうど『ゲームセンターあらし』がアニメにもなり、コミックスも増刷に増刷を続けているときで、編集部としては売れるか売れないかわからない学習マンガよりも『あらし』を増ページしたいという状況でした。「それなた他の出版社で出します」と拗ねたところ、関連書籍がそこそこに売れていたことから(専門書としては)、『こんにちはマイコン』の描き下ろしにGOが出ました。
 初版の部数は少なかったのですが、この本も増刷に増刷を重ねて続編も描き、『ゲームセンターあらし』とともに小学館漫画賞を受賞することになりました。また、ここで始めた学習マンガというジャンルが、75歳のいまでもマンガ家として生活できる基盤をつくってくれました。

 最近ですと『チェンソーマン』の藤木タツキさんが描いた『ルックバック』という傑作も、やはり先に実績があったからこそ長編読み切りの一挙掲載というギャンブルをさせてもらえたのではないかと思っています。

 先にヒット作を送り出し、そのうえで描きたいものを描かせてもらう。メジャー誌で「作者のわがまま」を通すのなら、時間はかかりますが、やはり、この方法が王道です。


2)「好感度の低い主人公」のマンガを採用してくれそうな媒体をさがす

「好感度の低い主人公」がどんなタイプの主人公かはわかりませんが、平々凡々だったり、ネガティブだったり、イヤなヤツだったりといったマンガは、たくさんあります。ただし、こんな主人公のマンガが掲載されるのは、メジャーな娯楽誌ではありません。「オルタナティブ(Alternative:代替するもの)」とも呼ばれる非メジャー誌に掲載されるマンガ作品の中には、メジャー誌で求められる「好感度」とは無縁の主人公が出てくる作品が、たくさん掲載されています(ミステリーには読んで後味の悪い「イヤミス」というジャンルもあります)。
 昔だったら「マニア誌」と呼ばれていた「ガロ」や「COM」がそんなオルタナティブ雑誌の代表でしたが、いまは「コミックビーム」や「トーチ」が似たような役目を果たしているように思います。ただし「コミックビーム」からは、最近でも『本なら売るほど』とか『隙間』といった傑作+ヒット作が生まれていますが。

〈参考〉


3)SNSなどで作品を発表し、認めてもらうのを待つ

 もし既存の雑誌で作品が受け容れられないようなら、Xや、このnoteのようなSNSを使って自作を発表してみてはいかがでしょう。昨今、マンガを掲載するメディアはWebも含めると増加する一方で、新人の育成に時間をかけられない出版社や新興メディアの編集者が、ウの目タカの目で、ネットに掲載される作品を見てまわっています。そのとき編集者が気にするのは、フォロワーの数と「いいね」の数です。結局、こういうところでも基準になるのは「数字」です。
 SNS(ネット)に掲載された作品が認められ、出版社から刊行されてヒットした作品や作者もたくさんいます。とりわけ多いのはコミックエッセイの作品・作者ですが、既存の媒体だったら掲載されないような作品が多くありました。
 ちなみに、私が出した本(マンガではありませんが)には、SNSに掲載した作品や発言がきっかけで出たものが何冊かあります。

 この本はnoteにコツコツと連載していた文章が編集者の目に留まり、単行本(新書)になりました。

 こちらの本は、私がXで税金について発言していたのを見た編集者が、「確定申告の本を書きませんか?」と声をかけてくれました。

 同じようなものでは「同人誌」もありますね。私の身近にも、自作マンガを描いて同人誌を作り、コミティアなどの即売会で販売したら、マンガ雑誌の編集者が目に留めてくれ、デビューにつながったという人が何人もいます(大学のマンガ学部で教えていましたが、そちらではもっとたくさん)。


 大事なことは、自分が描いている(描きたい)作品が、持ち込んでいる雑誌のカラーと合っているかどうかを確認することです。日本のマンガのオモシロさは、多彩で多様なところにあります。超絶技巧をこらした緻密なマンガから、ヘタウマと呼ばれる子どもの落書きのような絵のマンガまで、「面白ければ何でもOK」なのが日本のマンガです。
 自分が目指す媒体があるのなら、その媒体に合わせる必要があります。あるいは自分の作品に合う媒体を探すことも大事です。そのうえで自分に合う媒体がないのなら、SNSや同人誌で世に問う方法もあります。

 いま描いている作品が編集者に受け容れられないのなら、他の編集部に行く、自分で世に問うてみるなどしてみてください。セカンドオピニオン、サードオピニオンを求めるのも大事です。同時に、マンガの世界を見る視野をひろげてみることも心懸けてみてください。

 最後に、念のため、おたずねします。
 あなたがめざしているのはメジャー誌でのデビューですか?
 それとも自分の描きたいものを誰かに読んでもらうことですか?

※タイトルイラストはChatGPTに描いてもらいました。

いいなと思ったら応援しよう!